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私の愛した結末  作者: おーい十六茶
植物騒動
17/34

近況報告だけでは終わらない

2016 9/18 追記

 夏。日差しが照りつけ服が肌に張り付く季節。もともと好きな季節などないが、それでもこの季節は特に嫌いだ。母親が死んだのが夏だったのもあるのだろうか。 

 

 しかし、赤いランドセルを上下させ、黄色い帽子をかぶり、首にかけた笛を揺らしながら歩く私の表情は明るい。

 理由は簡単だ。今日も、彼女に会えるから。


 この三ヶ月で彼女との関係性が何か変わったかというとそういうわけではない。だが、彼女は少しずつ私に心を許しているし、彼女の周りとの関係性は改善され始めている。

 別に、私は彼女を独り占めしようなどと思っているわけではないので、彼女が周りと仲良くなっていくのは非常に良い傾向だと思っている。コミュニケーション能力というのは小さいころの友人関係が大きく影響するのだ。

 ただ、彼女への視線の種類について気を配っているので、彼女が言い寄られることはない。そういう浮いた話は彼女には早い。実際、彼女に熱い視線を送っていた男子に関しては、とにかく彼女に近づけないようにしている。それにしても、いじめが減って二か月ほどで惚れられるとは、やはり彼女はあまりにも魅力的過ぎるということなのだろう。


 悪意というものにはある傾向がある。誰かが行動で悪意を示すと、非常に強くそれが広がるのだ。だから、言葉より先に手が出てしまうような人を優先的につぶしていくと、手数が少なくても彼女が傷つくような状況を緩和できる。

 だからこそこの前のいじめっ子を行動不能にしたことは非常に効果的に機能した。


 それはともかくこの三ヶ月で大きく変わったのはなんと、叔母の私への態度だ。

 あんなによそよそしかったのが、ご飯の時に仕切りに話しかけてきたり、一緒に風呂に入るようになったりと、前の世界からは考えられないほどの積極性をもっている。

 いい傾向なのかはわからないが、居心地が悪いというわけではないので良しとしよう。


 ちなみに元いじめっ子たちはあれだけで、従順になったので放置している。 


 例の交差点について、周りを見回すと、まだ彼女はいない。約束の一時間前なのだから当たり前だろう。本当は二時間でも三時間でも待っていたいが、さすがに時間が早すぎて叔母に変な目で見られるので自重している。   

 これから、来るであろう彼女の姿を頭の中で描いているだけで、あっという間に一時間がたった。

 やってくる彼女の姿をとらえて、声を上げる。

 

「神代さん!」

「あ、奏ちゃん! 早めに来たんだけど、やっぱり先に居るんだね」

「まあね、さ、いこう」

「うん!」

 



 他愛のない会話をして、街路樹の下を歩いているだけであっという間に校門が見えてきた。まっすぐな道なので見えてからも割と長いのだが。

 

 そこをくぐると、普通ではありえない光景が広がっていた。夏の風に木々が揺らされる道の向こうで、まるで一つの生き物かのように、黒いものが集まってうごめいているのだ。それは人の頭だった。

 本来、記憶の中では、そこにはうっそうとしていて目障りという印象の強い、畑が広がっているはずなのだ。


「どうしたんだろう」

「うーん。みにいこっか」

「うん」


 彼女が気になっているようなので、見に行くことにした。

 皆の視線が一方向に固まっている異様な空気の中で、人の波をかき分けていくと、そこにあったのは、昨日まで青々とした葉をつけていた植物たちがすべて枯れているという光景だった。

 夏の照りつける日差しにもかかわらず下を向く野菜。申し訳程度に植えられていた観賞用の植物までも残らず葉の色を暗く変えている。


 驚愕の表情を張り付けて呆然とするものが多数、あまりの不気味さに泣き出すもの少数、一瞥をくれて教室へ向かうもの数人といったところだ。

 茶色くなった葉っぱに視線を巡らせていたら鉛筆を発見した。拾い上げたが何の変哲もない鉛筆だったので投げ捨てた。そんな私はさっきの区分でいえば無関心ということになるのだろう。


「なにこれ……」


 彼女も目の前の光景に少し怖がっているのか私の服の袖をつかんできた。小動物のようなしぐさに庇護欲をそそられる。

 

「ほら! 早くいかないと授業始まっちゃうよ!」


 どこから声が出ているのか不思議になるほど大きい教頭先生の声で、我に返った全校生徒は、波を前後に広げて昇降口へと歩いて行った。 

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