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私の愛した結末  作者: おーい十六茶
彼女との邂逅と問題処理
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ちょっとした制裁

「今日はこの辺にしといてあげるわ」


 真っ赤に燃える河川敷で、手の届かない位置にある杖を取ろうともがく。

 これが一番大変だ。一度倒れたら片足で立つのはかなり難しいのだ。 

 自分で煽ったとはいえ、正直なところ連日の暴力の雨には辟易すると言わざるを得ない。よくもまあ、飽きずに腹ばかり殴れたものだ。

 しかし、私はいくら殴られても彼女がいる限り、これぐらいの暴力に屈することはない。殺す覚悟で来なければ話にならない。



 翌日、例の交差点に着いた私は岩の後ろで縮こまっている彼女におはようと声をかけた。すると、驚いたように肩を震わせて振り返り、安心したようにぱっと花を咲かせてあいさつを返してくれた。



「左足、だいじょうぶ? こんなに怪我させたのに……」

「大丈夫、大丈夫。これくらいなんともないから」


 あの日の挑発の効果で、次の日の放課後から、桜井とゆかいな仲間たちが私と彼女を狙ってくることが増えた。私が殴られるのは当然なので我慢できるが彼女が攻撃されるのは絶対に許せない。

 というわけで、わざわざ私にお礼を言いに来てくれた彼女に、代わりに一緒に登下校するという、彼女とお近づきになるついでに彼女を守ることができる一石二鳥な案を提案したわけだ。

 

「いくらなんでも殴られすぎだよ……。私の代わりに殴られることなんてないのに」

「だから、大丈夫だって。それに、あのいじめも今日までだから」


 クエスチョンマークを浮かべる彼女に微笑んで、杖をつきながら校門をくぐって行った。



 あっという間に放課後である。小学校は楽でいい。


 四組の教室で待っている彼女と合流しそのまま帰ろうとする、が。

 

 まあ、当然例の人たちが校門で現れるわけだ。

 

「あんた、全く懲りないのね。いいかげんに私に許してくださいって、泣いて頼んでもいいのよ?」

「陽菜さん、先に帰ってて。ここなら無理に追ってこないはずだから」

「え、悪いよ、そんなの」

「いいから。大丈夫、どうせいつも通り大したことはないから」

「う、うん」

「……無視してんじゃないわよ」


 どうやら、お怒りを買ってしまったようだ。早く帰るように催促して、姿が見えなくなったところで馬鹿どもに向き合う。



「いつも、あの子に慰めてもらってるのにどういう風の吹き回し?」

「今日は慰めてもらう必要がないのよ。そんなことはいいから早く終わらせましょう」


 

 今日は降水確率80%という予報通り雲行きが怪しい。そのせいか、人通りも少なく川の流れる音が静かに響く。

 そんな中で、またもや河川敷である。大通りからは見えにくい場所で女子三人に囲まれている。

 いつもならここで袋叩きにされるのだが……。


「あんた何持ってるの?」

「見たらわかるでしょ。道具袋よ」


 私の手元には紐が握られその先に袋がついている。多少紐を長くしたり、石を詰めたりしているが道具袋以外の何物でもない。ランドセルから紐を出しておいてすぐ取り出せるようにしていたのだ。

 軽く振り回して宣戦布告をする。


「さあ、かかってきなさい」

「あんた……。立場わきまえなさいよ!」

「難しい言葉を知っているの、ねっ!」


 三人が同時にとびかかってくるが、軽く踏み込んで袋を振り下ろし、正面の人の足に当てる。左手の杖を軸に少し回転しながら残りの二人の足も殴打する。あっという間に戦闘終了だ。


「あんたたちとは、人を本気で攻撃することへの慣れが違うの」といって、一人ずつ腹に振り下ろす。


「ま、安心して。これ以上体に何もしないわ」


 そういって、うずくまっている三人から物置へと目をやる。

 


「だして! なんであかないの!」


 なぜ開かないかはつっかえ棒があるからだし、出すわけない。ここは洪水の時などのために棒などが入った物置らしい。当然中は真っ暗で、ちなみに見つけにくいところに、母の遺品であるウォークマンを隠してグレゴリオ聖歌の「怒りの日」を流している。小学生にはちょっとトラウマもの知れないがこれを機にクラシックに興味を持ったらいいのではないだろうか。


 河川敷を背に歩いていると、雨が降り出したので折り畳み傘を指す。三人の暴れている音はこの雨がかき消してくれるだろう。

 明日は土曜日。ゆっくりと物置ライフを楽しんでほしい。

 

 誰もいない道を歩く私の顔は思わずほころんでいた。

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