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私の愛した結末  作者: おーい十六茶
彼女との邂逅と問題処理
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嘘を許さない

 駅前の商店街を抜けたところに大きな公園がある。そこには木に隠れて周りからよく見えないところがいくつかある。道路なども多く通っているせいか民家も少なく情事にはもってこいだろう。しかし、ここの使い道はそれだけではない。ちょっとした拷問にも向いているのだ。

 目の前に転がっている女はアイマスク、さるぐつわ、手足の縄とフル装備だ。


「起きなさい。桜井希美」


 そう言いながら腹を蹴りつけて、アイマスクを外してやる。


「いい目ね。私が怖い?」


 桜井はただこちらをにらんでいる。


「安心して。ちゃんと私の言うことを聞いてくれれば、楽に殺してあげるから」


 桜井の目に恐怖の色が見え隠れする。ここで作るべきは死というもので絶対的な上下関係を作ること。

 拾ってきたスコップを軽く地面に振り下ろして、「叫んだりしたら、空気を吸えなくしてあげるわ」と釘を刺してからさるぐつわを取る。


「さて、あんたに聞きたいのは一つだけ。神代陽菜を陥れたメンバーはだれ? あなたと一緒につるんでいる人たちでいいのかしら」

「たすげっ、ごほっ」


 助けを呼ぼうとした桜井の腹に思いっきり鉄を打ち付ける。咳き込んで、また息を吸おうとしたところにもう一度殴りつけ、その髪の毛を握りしめてこちらを向かせる。


「あんたは質問に答えていればいいの。それで全員?」


 涙目で頷く桜井を地面に転がし、腕に思いっきり先端を振り下ろしてもう一度問う。


「本当にそれで全員なのね?」

「うっ、隣……のクラスの、ごほっ、笠原も……」

「それで全員?」


 地面に頭を擦り付けながら頷く。


 ぐちゃ


 後頭部に振り下ろしたスコップを、引き抜いた。

 ピクリとも動かなくなった彼女をあらかじめ掘ってあった穴に連れて行く。

 そこに入れようとすると思いのほか穴が小さかった。

 まったく、初めての殺人はなかなかうまくいかないものだ。


 上を見上げても、そこに月は見えなかった。



 

 目を開けると、大きな目がこちらを見つめていた。


「ひゃっ!」


 飛び起きると、当然目の前の額に自分の頭をあてに行くことになる。


「いった……」

「ご、ごめんね……驚かせちゃった」


 大丈夫という意味で左手を振り、目をあげると、そこに居たのは涙目になっている彼女だった。


「な、なんでここに!」

「なんでって、助けてもらったから?」


 そりゃそうか、と口の中でいって取り乱したことを反省する。


「あ、あの……、あ、ありがとう」


 恥ずかしそうに言う彼女。

 ……可愛い!


「お姉ちゃんにちゃんとお礼言いなさいって言われて……」

「本当にありがとうね。奏ちゃん、だっけ」


 カーテンを開けて入ってきたのは彼女の姉だ。果物の入った籠をもっている。

 前の世界でも会ったことがあり、そのころより彼女に似ている。年が近いのだから当たり前だが。確か、今年は高校生のはず。


「奏ちゃんのお母さんすぐ来るらしいからちょっと待っててね」

「ありがとうございます」


 優しそうな人だ。前の世界ではあまりかかわらなかったのでよく知らなかったが、彼女の姉なのだから当然だろう。


「ねえ、奏ちゃん。あの……」

「ごめん。陽菜、ちょっと外行っててくれる? すぐ終わるから」

「え、いいけど……」


 後ろ髪をひかれるように出ていく彼女に、すぐだから、と念押ししてこちらに目線を合わせる。


「私、陽菜の姉の比嘉奈っていいます。あ、もしかして陽菜の名前も知らなかった?」

「すみません。知らなかったです」

「謝ることはないのよ。むしろ、名前を知らない子を助けるなんて偉いね」


 微笑んで私の頭をなでる。


「そう。転校生が良く知らない隣のクラスの女の子のいじめ現場にたまたま居合わせて、それを身を挺して助け、大けがしたのに特に怒っている様子もない。一応言っとくけど奏ちゃん全治一か月よ? あ、気にしないわよね。そりゃあね。さっきの反応見る限り、妹のこと好きだったりするの?」


 冗談めかして言うが目は全く笑っていない。首筋に嫌な汗が垂れる。


「あなた、ちょっと信用できないわね。助けてもらって失礼だけど、正義感の塊にしてはやり方も巧妙だし、妹の事は感謝するけど、その歳で嘘が多いと、ろくな大人にならないって忠告しとくわ」

「ど、どうも。お気遣いありがとうございます」


 言ってから、失敗したと思った。馬鹿丁寧にしゃべってしまった。さすがに時間を巻き戻したなんて言っても信じないだろうが、怪しませてしまったことは確かだ。


 彼女を呼びに行く姉の後姿をみて、意外な伏兵に対する焦りを感じていた。


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