綺麗なものには……
私、青木薫は昔から目立たなかった。
だからと言っていじめられたわけではないし、友達がまったくできないほど口下手というわけでもなかった。九九を覚えるのもクラスで十七番目で、かけっこで下から二番目を安定してとるような、そんな感じで目立たないのだ。私の事を一番の友達だと思っている人なんていなかった。
だけど、小学二年生の二学期の最初の席替えで私の隣になった人はとんでもなくいじめられていた。
私が思うにその子はあまりにもまぶしかったんじゃないかと思う。
別に何もかも完璧だとかそういう事じゃない。その人のたたずまい、表情、人に見せるものすべてがなんだか他の人とはあまりにも違った。大人だとか綺麗とかそういうのでもなくて……。
純粋。
そう。この前本を読んできたときに出てきて、お母さんに聞いた言葉にぴったりだった。
お話の中に出てくるお姫様みたいに、目には見えない真っ白なドレスに身を包んで、くるくる踊っているようにすら見えた。
その子は神代陽菜という名前だった。
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「神代陽菜って子と仲良かったんだって?」
学校に向かう他の道も探してみたが、枝別れしていて全部当たるには時間がかかりすぎる。
結局昨日の情報に基づいて話を聞くことにした。青木が彼女と仲が良かったなんて話は聞いたことがなかった。しかし全くのノーマークだったというわけではない。この女は中学の頃よく彼女を見つめていた。そしてその瞳にはいつも悲しみと後悔が混じっていたのだ。過去に何かあったのかもしれないとは思っていた。
さて、詮索上等。彼女との関係をここで暴いてしまおう。
「う、うん」
ビンゴだ。一気に警戒が増した。隠したい、もしくは忘れたいことがあるのだろう
「その子の事を知りたいんだけど……」
「え……。なんで?」
「私、あの子と話がしたいの」
「や、やめた方がいいと思うけど……」
ふざけるな。あんたにとやかく言われることじゃない。射るような視線を向ければ簡単に青木は縮こまる。
「ひっ」
「悪いんだけど、なんでやめた方がいいのか聞かせてもらえるかしら?」
っと、思わず口調に素が出てしまった。少し落ち着こう。
しかし返答次第ではタダで済ますわけにはいかない。
「え、えっと……」
さっきから言葉に詰まりすぎだ。イライラするったらありゃしない。
「あの子はとても優しくて……綺麗で、えと、じゅんすい、なの」
思わぬ言葉が出てきた。青木は遠慮がちに、しかし力強く彼女を語る。
「それなのに、ていうか、だからなのかもしれないんだけど、あの子を見てると、なんだかもやもやするの。なんでこんな気持ちになるのかどうしてもわからなかったんだけど、もしかしたらみんな怖くなるんじゃないかなって、思うの。なんで、こんなに近くにこんなに綺麗なものがあるのかなって。わからないから、怖くなっちゃうのかなって」
彼女は三年生になりたてだ。そのはずなのに彼女が悪意を引き付ける理由をここまで理解してるなんて、すごい才能だ。十二分に彼女の事を理解してるように思う。
この子なら彼女を守る上でうまく利用できるかもしれない。
「そっか……。でもそんな子だったらむしろあってみたくなっちゃうんだけど……」
「……秋吉さんは自分が50点のテストで満点の人を見たらどう思う?」
こちらをうかがうような眼で、問う。もしかして、私を試そうというのだろうか。なかなか面白い子だ。さて、表現を小学生レベルにまで落とすのが難しいが……。
「そんなの気にしなきゃいいんじゃない? 別にそこで負けたからって自分がダメな人って言うわけじゃないし」
「……すごい。そうやって答えられる人がいたらあの子の場所を教えてあげようって思ってたの」
なかなかひっぱたきたくなるくらい生意気で傲慢なガキだが、彼女を守ろうという態度に免じて許してやろう。
「あの子はね、誰も通らなそうな、道を通って誰も来ないところに居るんだよ。人が怖いから」
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