髭と殺意
ねむーい。深夜テンションぱっぱらぱー
とある繁華街の少し奥まった路地裏。
表は活気溢れ、右往左往がライトに照らされ幻想的でさえあるが、一方でそのすぐ近くで明らかに裏口であろう扉の前で二人の男が温度差の激しい会話を重ねていた。
「あっは!ないわーそれはない!アンタ間違ってるって、ここでそんな冗談洒落になんねーっての(笑)」
「・・・そりゃ悪かった」
そう言いつつマールボロを箱から出して口に咥える男。歳は疲れ気味な顔にヒゲ、の割に新社会人が着ていてもおかしくない新調されたスーツでよく判断しかねる。
目の前のいかにもな男をなんとも下っ端ぽいなぁと腹の底で思うばかり、しかしなおも会話は続く。
「だってよぉ、『ここの事務所借りてる人たちが薬物を売り買いしてるらしいから頭領の身柄下さい』なんて堂々と言うか、もうちょっと言い方あるだろ…」
少し苦笑う下っ端っぽい男。小馬鹿にするどころか若干呆れられているヒゲの疲労顔新社会人。
本来であれば、もう少し上手い駆け引きというのが物語的にも合理性的にもいいのだが、どういう訳かこの男はそうはしなかったようだ。ただ、それが本当に『交渉目的』であるならの話だが。
「まぁ、俺も別段ここに来たかったわけじゃあないし、上司に言われて行かされたようなもんだよ…(ったく面倒増やしやがって)」
「あん?」
「いや、上司がありえねぇぐらいブラックなもんで、最近疲れが…溜まってて」
そう言いながら先ほどのマールボロに火をつける。煙が路地のあたりに漂い出した。
ふぅ…と一息。
「!…ぅわ臭っ」
「え・・・まじ?」
「「・・・・・・」」
どうやらこの下っ端はタバコがダメらしい。
しかも無粋な彼の発言も相まって、煙と一緒に妙な空気も広がったようだ。
「…悪かった、タバコはやめとこう」
ヒゲの疲労顔は口からぺっと点けて間もない煙草を吐き捨て若干磨り減った革靴でぐしゃりと踏み潰す。ああ、もったいないもったいない。
「…で、続きだけどさ」
「あ、ああ」
「どうしてもダメか?」
「だからダメだっつーの…頭大丈夫かよおっさん」
最もな言葉である。だが、それもこれも目的が平和的な内容であった場合に限る。そのあたりこの下っ端は呑気なものである。
そして疲労顔はまた一発かます。
「なんならコレか?」
そう言って胸のあたりでお釈迦様のように掌を上に向け、親指と人差し指で輪っかを作る。
銭のジャスチャーを、やらかした。
「…論外だ」
「マジか……」
「マジだよ」
ボケで話したことをすっかり忘れた老人に同じ話を繰り返す時に見せる嫌悪に似た表情が下っ端の顔に滲む。
「あーンじゃー帰ってよぉ…ケツに弾丸の一発でも食らって帰りゃあ…流石に許してくれんじゃね(笑)」
「…確かにそうかもな」
「いいよ、もう、入ったってお前みたいなアホ、スグにやれんだろ」
大丈夫か、そんなので。と言うのはあえて伏せる。
だが、下っ端は入れてしまう。
一つ思いつくとすれば、アホ扱いされてるこの男は下っ端の人格をよく把握していたのかもしれない。
『ガチャ』とオーソドックスな音を扉が鳴らす、中には5,6人の男がいた。
パッと見ると小さな会社の事務のようにも取れるが、よくよく見れば、不釣合いな骨董品や酒瓶など、よく見れば有り得ない所だらけである。
事務員の男らも妙に腰のあたりが歪に浮き出ていたりと不審だ。
同じぐらいの危険をはらみつつも、ヒゲが不審に動く。
「まぁ…ここの人数からすると確かに尻に一発当たっちまうかもな」
下っ端の口が歪む、導火線に火が付いた。
「なぁ…」
「ん?」
ヒゲは空気を読まない、カウントダウンは既に終盤。
「そりゃ遺言にしちゃ随分安っぽいけどよ、言い直すか?」
下っ端の右手が腰に伸びる。
「……いや……結構」
そしてさながら別れの言葉にしようとばかりの決まり文句を…
「じゃあてめぇはころ…あ」
言いそこねた。
わずかに額から生命が滴る。肉の塊が床に倒れ、鈍い音を叩き出す。
合図とともにパレイドの火蓋は切って落とされ、皆が皆獲物を構え、機械的な殺意が部屋を包む。
――男は呟く。
「…生憎な、俺は殺すって分かってる連中の遺言を最後まで聞くほど余裕はないんだ…」
そして26歳、沙川佑樹は銃口を向ける。
「…悪いな」
やばーい、もう4時だーあばばば・・・やべ。