畑にて
まだ月明かりが残り朝露が煌めく早朝、人気のない畑で声がしていた。
「もう限界じゃあないのか?」
「そうだな。今までずっと我慢してきたけれど我々も行動を起こす時が来たようだ」
「あいつらは我々の仲間を育ててくれる恩人ではあるが、
その仲間たちも大きくなると何処へともなく連れ去られてしまう」
「そうだな・・・」
答える彼の横にも昨日までは別の仲間がいた。
しかし彼が休んでいる間にその仲間の姿も消えていた。
彼らは何時からこんな事を考えるようになったのだろう?
昔は何も考えずにそよぐ風と時々降るやさしい雨に身を任せるだけだったのに。
この広場を見渡す限りに大勢いた彼らの仲間は今ではずいぶんと減ってしまった。
「あいつらの機械のせいで、私たちが大好きだった空気も水も汚れてしまった」
「そうだ。ここは大好きだけど、こんな風に動けないままなのはもう嫌だ」
「何から始める?」
「二人では心細い。あいつらが全員でどのくらいの人数なのかも判らないし」
「そうだな。まず行動を起こす仲間を集めよう」
彼らはまだ休んでいる周辺の仲間達にも声をかける事にした。
「私たちに何ができるっていうの? 私たちはここから動けないのよ」
「どうせいつの間にか連れ去られて終わってしまうさ」
否定的な意見が多い。
消えていった仲間たちはどこで何をしているのか・・・。
その後の消息が判る手掛かりは何処にもない。
「あいつらは俺たちの仲間を何処に連れ去って何をしているんだろう?」
「それよりも、何のために俺たちの面倒を見てくれるんだ?」
「連れ去るためさ。ここで俺たちを育てて大きくなったら連れ去るのさ」
「その理由を知りたいんだ」
「だれも帰ってこないから判らないさ」
遠くから誰かの声が聞こえた。
「私は知っているぞ。私のいる場所はこの広場の外れだが、
ここに居ると時々あいつらが萎れ切った仲間を運んでくることがある。
あいつらはただ虐殺するために私たちを育てているんだ」
「何だと? お前は何を見たんだ!」
遠くの声が答える。
「私のいる場所の後ろには大きな穴が掘ってあるんだ。あいつらはその穴に萎れて精気のなくなった仲間を捨てて行くんだ。それだけじゃない、その穴に捨てられているのは私たちの仲間だけじゃないんだ」
「それは本当なのか?」
「本当さ、この穴には赤い奴や白い奴、細長い奴とか私達とは違う姿をした者も捨てられているんだ」
「本当ならいよいよ許せん! 何としてもここから抜け出してあいつらを倒してやる」
彼らは必死になって自分たちの足元を固める土から抜け出そうとした。
明るくなってきた。あいつらがもうすぐやってくる。急がないと間に合わない。
「ダダダダダ」といつもの音がする。間に合わなかった。
あいつらはあの音を出す機械に乗ってここに現れる。
「ずいぶん立派に育ったね。今日はどれくらい採っていく?」
恐ろしい声が聞こえてきた
「やめろ! 俺に触るんじゃない!」
彼らの叫びはあいつらには届かない。
彼らは刈られてしまった。
「お父さん、この形って人間の脳に似ているね。こいつらも何か考えてるのかな」」
「バカなこと言ってないで、形の悪い奴はいつもの穴に捨ててきてくれ。
さっきの出荷できないニンジンや大根も捨てちまってくれよ」
あいつらは今日もキャベツ畑で働いている。