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7話 眼鏡で人は変わるんですね

遅くなりました……

 すでに周知の事実かと思われるが、ミエルはいわゆるドジっ娘と呼ばれるものである。


 息をつくように転び、物を落とし、水をぶちまけ、ぶっこわす。

 彼女と共に仕事をすることで巻き込まれる形で被害にあった者は数知れない。ついでに言えば、彼女の借金の額も計り知れない。


 そんなミエルだが、当然ドジをなくそうとした試みはあった。付きっきりで見張ってみたり、目をつむってもできるように同じ仕事をやらせ続けてみたり、果てには魔法で頭をよくしてみたりなど。

 

 しかし、結果は芳しくなかった。

 一時直ったかと思われても、気を抜いた瞬間にまたドジをしてしまう。しかも、ドジをしなかった反動なのか、普段よりもひどいドジをしてしまう。


 もはや、放置するのが一番ではないのか? 皆がそう考え、匙を投げた。


 そんな状況に、ある少女の一言により、一筋の光明が差した。





 ある日の昼下がり。メイドたちの談話室にて、昼食の休憩で思い思いにメイドたちがくつろいでいた。

その中に、和やかに他のメイドたちと談笑するアリアとミエルの姿があった。


「どうー? お仕事には慣れた? アリアちゃん」


「はい、おかげさまで。特に問題なくこなしています」


「私が先輩としてついているからね! 完璧だよ!」


 得意げに胸を張るミエル。


「何が完璧よ! どうせまたドジしまくってアリアちゃんに迷惑かけてるんでしょ! けしからん胸をしおってこの娘め! このこの!」


「ひゃ!? やめてください~」


 押し倒されて弄ばれるミエル。もみくちゃにされているが、もはや慣れた光景なので特別驚くこともない。助けを呼ぶミエルを無視して先輩たちと話す。


「ほんと、ミエルと組まされるなんて大変ねぇ。ま、みんな通った道だし、一種の通過儀礼みたいなものよ。がんばりなさい」


 微笑みながらアリアを励ます先輩メイド。男勝りでさばさばした性格をしており、みんなから姉御と慕われている人だ。


「私の扱い! 私の扱いひどい!」


「でも、ミエルだって頑張ってますよ。最近だと、一日に平均して三回くらいに減りましたし」


「ほんと! ずいぶん減ったわねぇ。あたしが面倒見てた頃なんて二桁はザラだったわ」


「そんなにしてませんよう! 大げさすぎますよ!」


「あら? そんなことないわよ。毎日毎日、バケツをひっくり返し、花瓶を落とし、絵画を落とし、壁を壊し、ドアを壊し、私たちの服を剥ぎ、とやらかしていた日々を、忘れたとは言わせないわよ?」


 にっこり、と笑う先輩メイドの威圧に、冷や汗を流しながら笑うミエル。反論をしないあたり、本当のことなのだろう。

 どれほどに武勇伝を重ねてきたのだろうか。ドジで破壊の限りを尽くしているような気がする。


「それだけドジをやらかして、よくクビにならなかったですね」


「そーなのよねー。なんだかんだ上の人に気に入られているし、あたしたちも憎くは思ってないし、って感じかしらね。やらかした分の借金はきちんと働いて返してもらうしね」


「はう!」


 ……はたしてミエルが返済を終える日は来るのであろうか。


「うう、どうにかドジをなくせないものかなぁ。このままだと一生ここでタダ働きだよう」


「今まで治そうとしてなかったの?」


「治そうとはしたんだけど、結局効果なかったんだよね。どうしようもないのかなぁ」


「うーん……ドジを治す方法、ねー。んー、一回、完璧な人の真似をしてみるとか」


「えー? それならもうやったけどダメだったんだよ?」


「やるなら徹底的によ。見た目から服から真似して、その人になりきるくらいなつもりで! たとえば、クーレル様の真似をして眼鏡をかけてみるとか!」


「ふむふむ……。やってみる価値はありそうだね! 試してみよう!」


 



 三日後。

 シドに頼んでおいた眼鏡が届いたということで、さっそくかけて仕事へ。


「いい、ミエル。この眼鏡をかけたら、あなたはクーレル様なのよ。完璧に仕事をこなすメイドよ」


「うん。やってみせるよ、アリアちゃん!」


 おそるおそる眼鏡をかけるミエル。眼鏡をかけたほうが、ちょっと頭がよさそうに見えるが。はてさて中身の方は。


「……眼鏡をかけてもあまり変わりはしないようですね。少し期待外れです」


「……おお! いきなり真似するからびっくりしたよ! その調子だよミエル!」


「はい。がんばりましょう、アリア」


 颯爽と持ち場へ向かうアリア。その後ろ姿からは普段のドジっ娘の雰囲気は微塵も感じ取れない。毅然とした態度で歩き、まさに出来るメイドと言った雰囲気を漂わせている。


「おー、眼鏡一つで変わるものだねー。あとはこれがどれくらい続くかだね」


 若干不安気につぶやいたアリアだったが、その日の仕事が終盤を迎えるころには認識を改めていた。 

 あれほどドジを繰り返していたミエルが、まだ一つもドジをやらかしていないのだ!

 もちろん、普通だったらそれが当たり前のことなのだが、相手はあのミエルなのである。アリアが城に来て以来、ドジをしなかった日など一日もなかったあのミエルが、今日は一回もドジをしていない! 


 だが、油断は禁物。アリアは今一度気を引き締めた。

 大丈夫かと気を抜いた瞬間にミエルはドジをする。今まで散々煮え湯を飲まされてきたアリアには、骨身にしみてわかっていた。

 注意深くミエルを見守りながら、仕事を最後まで仕上げる。


「? どうしたんですか、アリア。そんなにじっと見つめてきて」


「いや、なんでもないよ。それより、このまま最後まできっちりやろう!」


「ええ。もちろんですよ」


 普段と違ってなんだか頼もしい言葉。強がりでなく、本当にやってくれそうな気がする。

 

 そのまま何事もなく仕事は終わる。普段よりもだいぶ少ない時間で終わった。

 ミエルがドジさえしなければ、こんなに楽に終わるのか。アリアは感銘を受けた。

 

「お疲れ様ー! 今日はいい調子で終わったね」


「普段と同じ調子でやったと思うのですが……」


「いやいや! 普段とは大違いだよ! いつもはもっと時間かかってるからね?」


「まぁいいでしょう。今日のところはここまでですね。お疲れ様でした」


「あぁうん、お疲れ様でした」


 少し話が合わなくて不思議に思ったアリアだったが、まぁいいかと流して引き揚げた。


 



 その違和感がはっきりしたのは、その夜のことだ。

 仕事を終えたメイドたちが、くつろぐ談話室。昼と同じようにだらだらとおしゃべりしている。

 


「いやーしかし、眼鏡をかけてみるだけで変わるもんだねー。今日は一つもドジをやってないよね」


「ほんとかい!? 三回に減ったと聞いただけでも驚いたのに、今日は一回もしていないのかい! 眼鏡ひとつで変わるもんなんだねぇ」


「そうですね。普段と同じようにしているだけなのですが」


「なにいってるの。全然違うよ! というか。もう普通にしゃべっていいんだよ? いつまでクーレル様の真似してるの?」


「え? 別に真似をしてるわけではないのですが……」


「え? 全然いつもとしゃべり方違うよ?」


「さっきからアリアは何を言ってるんでしょう? 眼鏡かけた以外普段と何も変わっていないと言ってるじゃないですか」


「えー? じゃあ眼鏡外してみてよ」


 促されて眼鏡を外すミエル。

 それまできりっとしていた表情が、外した瞬間に緩んだものへと変わる。いつものミエルへと戻ったのだ。


「ふや~。なんか外したらどっと疲れたなぁ。」

 

 そのままぐったりと机に寝る。だら~っとした雰囲気全開である。


「そうそう、それが普段のミエルだよ。さっきまでどうしたの?」


「ええーだからさっきと変わってないってばー。もー変なアリアちゃんだなぁ」


「無自覚なの……?」


「どうやらそのようだねぇ。不思議なもんだ」


「二人して何言ってるんですかもうー。だーかーらー、私はいつもありのままですよう」


 以下、話は平行線をたどったので割愛。


 結論、ミエルは眼鏡をかけると普段とは全く正反対に、きっちりとした性格になるようだ。本人いわく、普段と変わったつもりは全くない。

 なんで眼鏡かけただけで変わるかはわからなかった。


 そして、それなら眼鏡をずっとかけてればいいではないかという話なのだが、どうやらそういうわけにもいかないらしい。

 そのあとわかったのだが、眼鏡をした分、やたらと疲れるらしく、三日ほど使い物にならなかった。

 

 どっちがいいかというと、結局は特に何もやらなくていいのではないかという結論になった。

 絶対にミスをしてはいけない大事な時にだけ眼鏡をかけるということで落ち着いた。


 ちなみに、リスクありとはいえミエルのドジが改善される方法が見つかったので、アリアにはメイド一同から感謝状が贈られたとか。

 


 






 

 

ちなみに、この眼鏡は伊達です。ミエルは目が悪いわけではありません。

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