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6話 撮影会

 迫るアラクネの追撃の手を躱して持ち場へと戻った二人。楽しそうな笑みを浮かべながらうちわ片手に追いかけてくる、下半身蜘蛛の美女というのは迫力がありすぎる。狙いはスカートめくりとはいえ、トラウマになりそうなレベルの恐怖だ。ますますアラクネの部屋に近づきたくなくなった。


 依然として服装はミニスカート。ミエルはそれに加えてノースリーブ、胸元に深い切れ込みだ。

 しかもさっきとは違い、掃除をしないといけないために必然動きも増える。スカートを抑えながらでは作業効率も落ちてしまう。さりとて、なんの対策もせずにこのまま下着をさらして仕事をするのもいかがなものか。主に羞恥心との兼ね合いで。


「アリアちゃん、あんまり気にしてたらはげちゃうよ?」


「いや、そういう問題ではないでしょう。ミエルさんは下着をみられても構わないとでも言うのですか?」


「えーだって今の時間通りかかる人なんて女の子しかいないもん。さすがに男の人に見られたら恥ずかしいけど、女の人に見られたところで何とも思わないよ」


「う、そういうものなんですか……。むぅ」


 ミエルの言葉を聞いて悩むアリア。たしかに、それも一理あるのかもしれない。同性なら見られたところで、恥ずかしいには恥ずかしいが、まぁ我慢できる範囲かもしれない。


「(それに、気にして仕事をおろそかにするわけにもいかないもんね! )」


 そう結論づけて仕事に戻るアリア。気にしない方向で行くようだ。完全に気にしないようとはいかないながらも、そこそこのスピードで作業をこなしていく。


「そういえば気になってたんだけどさ、アリアちゃん」


「? なんですか?」


「私には敬語じゃなく話してくれていいんだよー? 全然気にしないよ」


「そうですか?」


「うん、もう先輩ってほどでもないし……年も近いだろうしね」


「じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。よろしく、ミエル」


「うんうん、よろしくアリアちゃん!」


 改めて握手する二人。アリアにとって、魔王城に来てから初めて出来た友達と呼べる存在。

 ミエルに気を使う必要がなくなったため、より気安く話しながら作業をすすめていく。


「あら、二人とも可愛らしい服を着ていますね。どうしたんですか?」


 そこを通りかかったクーレル。二人の服の変化を見逃すはずもなく、見てないように振る舞いなからしっかりとスカートから覗く足や大きく開いた胸元を見ている。


「私がまたドジをしてしまって、それでアラクネ様が代わりに繕ってくださったんです」


「なるほど、アラクネ様も良い仕事を……」


 そういってなにやら思案する様子のクーレル。ぶつぶつとなにか呟いている。


「そういえばちょうど、このまえ出かけたときに手に入れた、『写映器』なるものがここにあるのです。これは、見た景色をそのまま紙に念写することができる特別な機械なのですが、せっかくそのような服を着ているのですし、ちょっと撮ってみたらいかがでしょう。ぜひどうでしょう」


 懐から取り出した黒い四角い物体を手に迫ってくるクーレル。少し鼻息が荒くなっていて、アリアとミエルは若干引き気味だ。


「あ、えっと……」


「大丈夫です危険なものではありません。ちょっと記念に撮るだけですよ。せっかく可愛い服を着ているのにそれを残さないなんて手はありません。今日という日はもう訪れないのですよ。こうして二人が服を着たのも、そこを写映器を持った私が通りかかったのも、そう、運命なのです。それはすなわち、二人の可愛い姿を写真に残すことなのですよ。さぁ撮りましょう」


 あまりの勢いに沈黙したのを了承と取ったのか着々と準備を始めるクーレル。あまり使われていない部屋に通されると、なにやら本格的らしき道具を次々出してくる。知らないものばかりだが、やたら手が込んでいることくらいは二人にもわかる。

 メイド長としての腕前を如何なく発揮し、準備は十分足らずで終わった。


「ささ、まずは真ん中に二人で並んで立ってください。はい、もう少し近寄ってください。はい、いいですよそのまま。では行きますよー笑って。はい、ちーず」


 やたら使い古された感のある掛け声とともに、写映器が光る。

 なにも知らされていなかったため、突然強い光が目に入ったために目を閉じてしまう。


「な、なにが起きたんですか……? 突然光りましたけど……」


「これはですね、光を発することで撮る対象をくっきり綺麗に念写できるようにするという仕組みのようですよ。いろいろと考えられてます。こんなものを作れるとは、なかなかどうして人間の技術力も侮れませんね」


 手元の写映器をいじりながら答えるクーレル。なにやら苦心しているようすだ。あーでもないこーでもないと言いながらいじっている。

 そしてどうにか出来たのか、写映器からゆっくりと一枚の紙がでてくる。

 三人でその紙を見てみると、そこには並んで笑っているアリアとミエルの姿が。


「はひぃ!? な、なんで私が紙のなかにいるんですか!?」


「おちついてミエル。そう、これはただ私たちの姿が紙に念写されただけ。それだけなの。決して私たちの魂が閉じ込められたとかそんなんじゃないわ。そうですよね、クーレル様……?」


「ふふふ。二人とも落ち着きなさい。害を与えるものではないと言ったでしょう? 最初に言った通り、見た景色をそのまま紙に念写するということができるのがこの機械なのです。わずかな魔力と紙があればだれでもお手軽に見た景色を紙に残しておけるという優れものなのですよ」


「こ、これはすごいですね! この絵、私にそっくりです!」


「いや、絵ではないでしょう……。しかし、これはどういう構造になってるのでしょう。見たままの景色を切り取って、紙に……? それを機械でやるとは、もしやこれってすごい高価な魔道具なんじゃありませんか?」


「はい、これをくださった商人の方は、一品物とおっしゃってましたね。あまり易々と作れるものではないとも」


「そんなものをどうしてクーレル様が持ってらっしゃるのですか……? というかそもそも、人間が作ったって……?」


「ふふふ、秘密ですよ。メイドとは謎めいた存在でもあるのです。少しだけヒントをあげますと、人間の住む大陸に行くことはできるのは、別に翼をもった種族だけではないのですよ」


「そ、それって……!」


 クーレルがさらっと言った内容に衝撃を受けるアリア。

 もしもその話が本当なら、人間に化けた魔族たちが人間の町に紛れ込んでいる可能性があるということだ。クーレルもミエルも、見た目は人間そっくりだ。溶け込んでしまえばだれも疑う者はいないだろう。 

「心配なさらなくとも大丈夫ですよ。わざわざ人間たちに混ざろうとする変わり者など数えるほどしかいませんし、そのようなものは人間に危害を加えることもありません。人間を皆殺しもしようとする方々は、わざわざ人間に化けずに正面から攻撃を加えるでしょうしね」


「そ、そうですか……? 人間に溶け込みながら徐々に少しずつ眷属を増やしていって気づいたらみんな魔族の手下になっていたりとか、そんなことがあったりしませんか……?」


「そんな回りくどいことはしませんよ。だいたい、私たち魔族は、現状の暮らしに満足していましたから、わざわざ人間大陸にまで赴いて皆殺しにしようとする酔狂なものなど、魔王様が懲らしめておしまいでしたもの。衝突の火種にならないようにと。まぁこの人間の侵攻で台無しになりましたが」


 ぐ、と言葉に詰まるアリア。

 事実、人間は侵略者なのだ。領土を得ようと、意気揚々と魔族大陸に侵攻した。逆らう者は皆殺しにしてだ。今まで単発でわたってくる魔族はいれど、本格的な侵攻はなかった。先に引き金を引いたのは人間たちだ。


「ああ、アリア様を責める気は毛頭ありませんよ。単なる事実です。それに、この戦争も直に終わるでしょうしね」


 そういって意味深にアリアを見るクーレル。


「それは、どういう意味なんですか……?」


「いいえ、なんでもありませんよ。それよりも、もっと写真を撮りましょう。まだ一枚しか撮っていませんよ。たくさん撮って残しておきましょう」


 はぐらかされたように感じるアリアだったが、これ以上追及してもクーレルは何も教えてくれないだろう。そんな気がする。

 切り替えて、写真を撮ろう。せっかくだから、ね。

自分があれだけ恥じらっていたミニスカ姿を残しておくことをもはや気にも留めていなかった。


 


 それからしばらくはアリアとミエルの撮影会が続いた。途中で通りがかったメイド仲間も現れ、最後には全員並んでの集合写真のようになったが、その場にいた全員が楽しそうにしていたので、こんなのもわるくないなとアリアは思った。


 撮影会が終わってしまえば、そこはメイドらしくささっと片づけると仕事に戻っていった。メイド長であるクーレルがいたことも大きいだろう。

 撮った写真は、各々が好きに取っていった。ちなみに、途中から撮られる側に参加したクーレルの写真は、メイドたちによる白熱した取り合いが繰り広げられたりもしたが。おおむね撮影会は平和に終わった。  




 そして、後日。なにやらメイド長と密取引をする魔王の姿があったという。

 

 



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