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5話 ミニスカですか

 あくる日。なんとか無事に掃除を終わらせたアリアは、そのまま部屋を貰い受け、利用していた。とはいっても、身一つで魔王城に連れてこられたアリアに碌な荷物などないので、備え付けのベッドとクローゼットがあるのみの殺風景な部屋であるが。

 城下町が城から離れてすぐのところにあるそうなので、暇ができたらインテリアを見に行くのもありだろう。働きに応じて給金と休みをくれるらしい。


 余談だが、ミエルはドジをやらかしすぎて借金がたまりにたまっているために無給・休みなしで働かされている。インテリアに気を使う余裕もない。返済のあてもない。


 時間はまだ日も上がっていない早朝。アリアは心地よく眠っていた。色々と疲れがたまっていたためにベッドに寝てそのままぐっすり。かわいらしい寝息をたてて眠っている。

 

 そんな穏やかな朝を打ち破るように、突然どんどんと扉をノックする音が。

 叩き起こされたアリアが寝ぼけ眼で扉を開けると、そこにはすでにメイド服に身を包み準備万端のミエルの姿。


「起きてアリアちゃん! お仕事の時間なんだよ!」


 彼女曰く、彼女たち新米メイドは他のメイドたちが起きるよりも早い時間に起きだして仕事をやり始めるらしい。

 だれかお付のメイドであれば仕事の範囲が狭いためにそこまで早くから動かなくともよいのだが、広大な城の管理を任されているいわば無所属のメイドたちは、仕事量が膨大なために朝早くからやるのが通例なのだという。


 そんな例に漏れず早くから掃除しようと、アリアを起こしに来たミエル。今日も元気いっぱいで、パジャマ姿のままのアリアを引っ張り仕事に連れ出そうとする。さすがにそのままではまずい、とミエルを制止して着替える。はやくはやく、と急かされるが、それならあらかじめ言っておいて欲しいなぁと思うアリアだった。



 

 

 準備も済ませ、自分たちに割り振られた区画へと足を運ぶ二人。やたらと張り切って先頭を歩くミエル。その後ろを、いつドジをやるか心配げに見ながら歩くアリア。すでにここまでで三回転倒している。先行きが不安で仕方がない。

 

 ともあれ、掃除を始める二人。いまだ暗い城の中を黙々と掃除していく。

 その際、なにもミスをせぬよう細心の注意を払えとミエルに厳しく通達。うなずいてはいたがはたしてどれほど信用できるのだろうか。


「さ~て、がんばっちゃうよ! 私が本気を出せば百人力なんだからね!」


「まず人並みに仕事をしてから言ってください……」

 

 アリアの心配をよそに意外と作業は順調に進んでいく。宣言通り百人前とはいかないが、ミスもなく普通にこなしていく。

 昨日のドジり具合が嘘のようにするすると進んでいく作業。時折見かける同僚に挨拶する余裕まである。


「なんで昨日はあんなに失敗してたんですか……」


「いやー昨日は初めての後輩の前だったから緊張しちゃったんだよねー。クーレル様もいたし。クーレル様って美人だけど、ちょっと威圧感ない?」 


「え? いえ、美人だし優しいし良い人だと思いますよ? 胸は許せませんが」


 そういってミエルの胸元をにらむアリア。


「ひぃ! だ、大丈夫、まだだよ! きっと大きくなるよ!」


「慰めなどいりません。同情するならその胸をください」


「わ、私の胸で泣くといいよ!」


「それはあれですか? 喧嘩売ってるんですか?」


 じゃれあいながらも掃除する余裕さえも出てきた。これはもう大丈夫かな、きっと昨日だけだったのかな。そんな風にアリアが考え、緊張を緩めたその時であった。

 

 にらむアリアから逃れようと一歩下がったミエル。一旦おいてあった箒に足を滑らせ、見事なサマーソルトを決める。吹き飛ばされた箒がアリアの頬をかすめて壁へと突き刺さる。頬を流れる一筋の赤い血。

 未だ滞空しているミエルは、一回転してうまい具合にバケツのヘ縁に踵落としを決める。てこの原理により、回転しながら空へと舞うバケツ。当然、中身をあたりにまき散らしながら。そして、尻から落ちたミエルの頭にかぶさる。

 びちょびちょになった二人と、床にまき散らされた水。突然の出来事に、アリアは反応することすらできずまともに水を被ってしまった。


「……」


「……」


「……ごめんなさい」


 あまりの出来事に顔面蒼白になりながら土下座するミエル。バケツは被ったままだ。

 無言を貫くアリア。


「あらあら二人とも、そんなびちょびちょになっちゃって。水も滴るいい女ってやつかしらぁ?」


 そこに通りかかったのは、音もなく天井を歩いてきたアラクネ。からかうような口調がどことなくわざとらしい。


「そんなびちょびちょのままでは風邪をひいてしまうわ。ちょうど着てもらいたいと思って繕っていた服があるの。私の部屋にいらっしゃい」


「ほんとですか! ありがとうございます! ほら、アリアちゃん、いこ!」


 親切そうに笑いかけてくるアラクネだが、にっこりというよりも、にやりと言った方が正しい気がする。このままついて言っては危ない。頭の片隅で警鐘が鳴る。

 しかし、このままではまずいのも事実だ。バケツの水だから汚いし寒いし、なにより水で服が張り付いてちょっと危ない。ミエルなどもろにかぶっているためかなりきわどい。

 仕方ない、とアラクネの後をついていくことにする。断るのも失礼だし、と自分に言い聞かせて。





「こ、これは……」

 

 部屋まで行き、はいコレと渡された服をみて驚愕する。

 メイド服ではある。あるのだが、袖がない。さらに、明らかにスカートの丈が短い。胸元の切れ込みも深い。これはいささか、露出過多すぎやしないだろうか。

 ミエルをちらと見ると、いそいそと着替えている。あまり気にした様子はない。自分が過敏すぎるのか……? いや、これは明らかに肌を見せすぎだ。淑女としてこのような服はいただけない。

 教会のシスターとして暮らしてきたアリアは、人一倍貞操感が強く、婚前の生娘はあまり肌を人前に見せないものであると思っている。


「えっと、あの、アラクネ様……」


「なぁに、アリアちゃん?」


「これちょっと、露出多すぎませんか? もう少し普通のはないですか?」


「あら、アリアちゃんにはちょっと刺激が強すぎたかしら。それじゃ、こっちはどうかしら」


 そういってアラクネが再び取り出したのは、袖もあり、胸元も普通。だが相変わらずスカートの丈は短いものだ。


「えと、あの……」


「ごめんなさい、これしかないの。でも、一生懸命作ったのだし、アリアちゃんに着てもらいたいわぁ」


「う……」


 そう言われては、元来人の良いアリアに断ることなどできない。仕方なしに、着替え始める。もちろん、袖のある方を。



 着てみてわかることもある。短いとはわかっていたのだが、太ももの真ん中ほどまでしかない。これでは、すこし前かがみになっただけで下着が見えてしまう。しかも、やたらとフリルがついているせいで、わずかな風でもスカートがめくれそうなのである。

 

 ミエルにいたっては、丈の短さに加え、胸元が開いているために深い谷間がのぞき、かなり扇情的だ。そのわりに気にせず今まで通り動き回るものだから、男からの視線を釘づけにして離さないであろう。


「あらあら、二人とも似合っているわよぉ。すっごく可愛らしいわ。あの男どもに見せたくないくらい。今日はこのままここで残っていかないかしら?」


 にこにこと笑いながらアラクネは言う。たしかに、この姿で人前に、ましてや男の前になど出たくはない。


「だめですよ! まだお仕事は残ってますので、これからまたやりにいかないといけないんです!」 


 わずかにぐらつく心を鞭打ったのはこの状況を招いた張本人だ。確かにこの服装は恥ずかしい。しかし、自らが仕事すると言ってごり押ししたのだ。それなのに、恥ずかしいからといって仕事を放棄するのは違うのではなかろうか。アリアは自らを奮い立たせた。


「申し訳ありません、アラクネ様。ありがたいお言葉ですが、ミエルさんのおっしゃるように、お仕事の途中なのです。また今度お誘いしていただけることがあったら、ぜひ」


「うふふ、二人とも仕事熱心ね。わかったわ、がんばってらっしゃい。その服はあげるから、今後もまた気が向いたら着て頂戴」


「はい。ありがとうございました。それでは失礼します」


 甘い誘いを辞退したアリアは、毅然とした態度で部屋を退出しようとした。


「あ、でも、これだけはやらせてね」


 音もなくアリアとミエルの背後に近寄ると、アラクネはいつの間にやら手に持ったうちわでスカートの下から扇いだ。短いスカートは、あっけなく風によってめくれ、中の下着があらわになる。


「うんうん、これがミニスカートの醍醐味よねぇ。ふとした風でめくれて見える可愛い女の子の下着。急ピッチで拵えた甲斐があるってものだわぁ」


 まさかこのためだけにこのスカートを作ったのか。涙目で裾を抑えながらアラクネをにらむ。


「そう怒らないで。ほんの些細な悪戯よ。またきて頂戴ね」


 決心が揺らぎそうになるアリアだった。



ちょっと続きます

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