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4話 こいつがドジっ娘ってやつか

文章が安定しないぜ……!

 アラクネの部屋から這う這うの体で帰ってきたアリア。アラクネの部屋は決して近寄ってはならない場所の一つとして認識された。最初の威勢はどこへやら、借りてきた猫のようにおとなしくなっている。先導するクーレルの後ろをとぼとぼと歩いてついていく。

 前を行くクーレルは、早計過ぎたかと反省しつつもどう慰めて信頼を得るか妄想することに余念がない。お姉様と呼ばれて抱き着かれるところまでは妄想した。


「気を取り直してくださいませ。とりあえずは顔合わせのみですし、本来ならまずはアリア様には基本的なことをやっていただく予定ですので、アラクネ様とお会いになる機会もそうないと思いますよ」


「本当ですか?」


「はい。アリア様の扱いは新入りメイドということになりますので、まずは簡単な仕事からです。ですが、アリア様は捕虜であられるので、手出し禁止ということで主だった方々と会っていただいております」


「そうなんですか……。でも、働きたいといったのは私ですし、どんなお仕事でもやりますよ!」


 ほっと安心した様子のアリア。元気が出てきたのか、気丈にも意思表明する。


「その意気はよいことです。でもまずは焦らず下積みの仕事からです。メイド道は一日にしてならず、ですよ」


「は、はい! わかりました、がんばります!」


 今一度気持ちを新たにする。弱気になった心を奮い立たせ、がんばるぞ、と両手で小さくガッツポーズ。気持ちと共に視線も上向きになっていく。クーレルは内心、うまくいったぞしめしめと考えている。危ないぞアリア。


「とりあえず今日のところはこのあたりにしておきましょう。メイドとしての仕事も説明しておかなければなりませんし、現在、釘を刺しておかなければならない、手を出しそうな方はいらっしゃいませんし」


「まだいることにはいるんですか……?」


「ええ。まぁ、手を出させないようにはしますので大丈夫ですよ。それに、今はいらっしゃらないので心配されなくとも大丈夫です」


「そうなんですか、わかりました。とりあえずは目の前のことに集中しろってことですね! メイド道は一日にしてならず!」


「はい、そうです。がんばりましょうね」


 それはさながら、がんばる妹をほほえましく見る姉のようで。

 意気揚々と歩き出すアリア。聖女と呼ばれる存在であるとはいえ、中身は年頃の少女である。魔王城に来てからずっと気を張り続けていたのが、クーレルとの語らいによってほぐれてきたのか。無邪気な笑顔を見せてクーレルの隣を歩く。

 クーレルはというと、その笑顔に悩殺されている。そろそろ我慢の限界だわ、と無表情でつぶやく恐ろしさよ。アリアに聞こえていないのははたして救いか否か。




 並び歩く二人が訪れたのは、とある一室。このあたりには、住込みのメイドたちに割り振られた部屋が並んでいる。その中の一つの部屋の前に行くと、ノックする。

 すると、中からあわてたような物音が聞こえる。ひっかきまわすような騒がしい音だ。


「しょ、少々おまちくださふぎゃっ」


 どたーん、と一際大きな音が鳴り響く。あきれたようにため息をついたクーレルは、承認の声を待たずに扉を開けた。

 部屋の中はまさにおもちゃ箱をひっくり返したような散らかりよう。クローゼットが倒れ、中身が床一面に散らばり、その下にうごめく人影が。


「はぁ、またやっているのですかミエル」


「うう、ごめんなさいクーレルさまぁ」


 服の山から這い出てきたのは可愛らしい猫がプリントされたパジャマを着て、黒い髪を三つ編みにした小柄な少女。愛嬌のある可愛らしい顔をしているのだが、頭の上に靴下が乗っているのがどうにも情けない。

 そして、アリアの目を引いたのは顔から目線を下げたところにある大きな双丘。服をはち切れんばかりに押し上げるその存在感たるや。

 大きさだけならばクーレルやアラクネを抑え、今まで会った中での序列トップに一気におどりでた。必然、アリアの目が険しくなり、ミエルと呼ばれた少女は訳もわからず身を縮ませる。


「仕方がない子ですね全く。あなたの後輩になる方を連れてきたのだから、もっとシャキッとしなさい」


「後輩!? 本当ですか!? やった、ついに後輩が! 皆にこき使われる生活からもおさらばですね!」


 喜び勇んで跳び跳ねるミエル。そのたびに揺れる胸元を見、自分の胸を見、どんどんその表情を険しくしていくアリア。


「浮かれるのもほどほどにしておきなさいミエル。あなたの方が長いとはいえ、今までの調子のままではすぐに抜かされてしまいますよ」


「ひゃ、ひゃい! 落ち着きますごめんなさい……」


 捨てられた子犬のようにしょぼんとするミエル。耳が垂れて尻尾が丸まっている様子が幻視される。


「えっと、ミエル・フローネと言います。よろしく!」


「アリアです。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします、ミエル先輩」


 アリアの言葉を聞いて、ピクンと反応するミエル。


「ね、ね、もう一回言ってみてくれない……?」


「え? ミエル先輩?」


「はうあ! うん、私が先輩だもんね! 一緒に頑張ろうアリアちゃん! うへへ、後輩かぁ」


 だらしがなく笑うミエル。後輩が出来たのが余程嬉しいらしく、なにやら時折奇声をあげながら手を振ったりしている。傍目には非常に怪しい。


「そろそろ戻ってきなさいミエル。仕事の説明もしなければならないのだから、時間はそんなにないのですよ」


「はい! 私頑張っちゃいますよ! なんせ初めての後輩のためですからね!」


「まずは身だしなみを整えなさい。そのままでは外にも出られないですよ」


「う、はい・・・・・。すぐに直しますので少々お待ちを」


 そう言ってその場でパジャマを脱ぎだすミエル。この場には女しかいないとはいえ、警戒心が全くない。いかがなものかとも思ったが、クーレルも特に注意していないので、魔族は気にしないのかとあらぬ誤解をするアリア。

 クーレルが注意をしないのは合法的に裸が見られるからである。魔族とて人の形をとっている間は人間と変わらない。まぁ露出が好きな人が多いのも事実ではあるのだが。




   

 メイド服に着替えたミエルを加え、やってきたのはやはりとある一室。同じような部屋が並んでいるので、大きな魔王城の中ではここがどこなのかアリアはおぼろげにしか覚えていない。働くうちに覚えていこうとこっそり決心する。


「それではまず掃除の腕を見させていただきます。この部屋は特別にほこりやごみがたまるように掃除をしないでおいてあります。この部屋を片付ける際の手際、丁寧さ、などを見て、その後どのあたりの仕事をしていただくかを決めます。ちなみに、この部屋はそのままアリア様が使われる部屋になりますので、気合を入れて掃除してくださいませ」


ごくりと唾を呑みこむ。ここで腕を見せないといけない。仕事をくれた魔王様の恩に報いるためにも、失敗は許されない。


「ミエルはアリア様の手伝いをしてさしあげてください。掃除用具の場所もまだわからないでしょうし。それに、ミエル自身がどれほどできるようになったかの審査も兼ねますので」


「はひっ!? わ、わたしもですか!?」


「ええ。最近一人でやらせていた成果を見せてください。私は少し城を離れていたので見ていませんが、大層活躍したらしいですね?」


「はわわわわ……」


 にっこりと迫力のある笑顔を浮かべるクーレル。ここまでの流れだけでも、ミエルがナニカやらかしたのは簡単に推し量れる。一緒に仕事していいのかな、という不安がよぎる。


「アリアちゃん! 二人でがんばろうね! というかむしろ一緒にやってくださいお願いします」


 ミエルの言い様に不安しか感じない。恥を捨てて頼み込んでくるミエル。90度に折り曲げられたお辞儀からは必死さが伝わってくる。

 なにはともあれ、二人はともに掃除を始めるのであった。



 道具を取りに行くところまではよかった。むしろ、そこまでしか問題が起こらないことなどなかった。


 なぜか道具だけは古典的なバケツと雑巾、箒なのだったが、まず箒をかけようと部屋に踏み込んだ瞬間、ミエルが自分の足を自分で踏んで転倒。そばにいたアリアの腕をつかんだため巻き込み二人仲良く埃まみれの床にダイヴ。


 これはまずいと痛感したアリア。さっさと終わらせようと精力的に動き回り、部屋中の埃を集め終わったその時。埃でミエルが盛大なくしゃみをし、箒を投げる。運悪くというか、必然というか、埃の山にヒットし、あたりに埃がばらまかれる。

  

 もう一度集め直し、ミエルがなにかやらかす前にさっさと外へ捨てる。安心したのもつかの間。次に雑巾がけかと思っていると、ミエルが、バケツに水を貯めてくるね! と言って行ってしまう。嫌な予感しかしないので、戻ってきたミエルにその場に置くように指示するも、近づいてくるときに転倒、盛大に水をぶちまける。

 予測していたアリアはこれを避けるも、ミエルは水浸しの床にヘッドスライディング。宙を舞うバケツはミエルの頭にヒット。むなしい反響音が部屋に響く。


 結果。多大な時間と犠牲を払い掃除は完了した。もしアリアのみでやっていたならば、この半分の時間で済んだであろう。落ち込むミエルを励ますアリアではあったが、その顔は引きつっている。


「お疲れ様でした。アリア様はおっしゃられていた通り、一通りこなせるようですね。この調子で明日から仕事に参加していただくことにします」

  

 クーレルからの合格の評価。どうなることかと思ったが、無事認めてもらいほっと胸をなでおろすアリア。


「それに引き替えミエルは……。もう一度鍛えなおす必要があるようですね」


「うう、ごめんなさい……」


「しかしどうしましょうか。申し訳ありませんがアリア様、このままミエルの面倒を見ていただけませんでしょうか。ドジばかりしていますが仕事の内容や地理に関しては役に立つと思いますので」


「は、はい……。わかりました」


「め、面倒をみてもらう立場に……」


「申し訳ありません。本来なら私が見なければいけないのですが、色々ありましてちょっと体が空かないのです。それでは、至らぬ私の部下ですが、どうかよろしくお願いします」


「はっ! 私先輩なのに……先輩なのに……」


「はい、がんばらせていただきます。ミエルさん、改めてよろしくお願いします」


「うん、よろしくアリアちゃん……むしろアリア先輩」


 先輩と後輩の立場が入れ替わった瞬間であった。 

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