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1話 働かせてください

完結させることを目標に頑張ります。よろしければおつきあいください。

 聖女をさらった魔王は言いました。

「もっとおとなしくしていろ!」


 魔王にさらわれた聖女は言いました。

「なにもしていないのにご飯を食べさせてもらうわけにはいきません! 働かせてください!」


 これは、そんな二人の物語。



―――――


 事の発端は、魔王が聖女を誘拐したところからだ。

 

 その昔、人間たちの住んでいた大陸では国家の安定と発展に伴い人口が爆発的に増加した。かねてより危惧されていた資源の枯渇と領土不足を解消するために人間たちは北にある魔大陸へと繰り出した。

 それまではその大陸が存在していることは知られていたが、間にある海峡を渡るための技術がなかった。なにより、時折魔大陸から渡ってくる魔族と呼ばれる強大な存在、それは人間たちに大陸へ渡らせるのをためらわせるに十分だった。

 しかし、人間は飽くなき研究の果てに海峡を渡る戦艦の開発に成功。多くの兵士たちを乗せて魔大陸へと侵攻を開始した。

 

 魔族はその種によってさまざまな見た目をしており、人間に耳や角などが生えた程度でほとんど変わらないものもいれば、狼が二足歩行しているような見た目の者、身長が成人でも人間のこしにも満たない小さいもの、逆に人間三人分ほどの大きさのものなど、本当に多種多様である。

 人間領に渡ってきていた魔族は主に悪魔種と名付けられた、羽の生えた存在であり、魔族全体のごく一部、氷山の一角に過ぎない。


 侵攻当初、戦局は人間軍に有利に動いた。戦艦により続々と運ばれてくる人間たち、数の暴力によって魔大陸の南の一部を占領。そこに拠点として都市、パーセクトを建設した。


 だが、人間たちの快進撃もそこまでだった。 

 人間たちの進行した南側は魔大陸でも最も弱い魔族が住んでいる地域であった。魔大陸の北には魔王の住む城があり、そこから遠ざかるほどに基本的に弱い魔族が住む傾向にあるのだ。

 さらに、人間の進行に合わせてもともと奔放だった魔族たちは団結。魔王のもとに軍隊を作り上げ侵攻に徹底抗戦。ここにのちに言う人魔戦争が始まった。


 強固な軍隊と化した魔族の前に人間たちは侵攻を止めざるを得なかった。都市は死守するものの、それ以上の侵攻をできるほどの余裕はない。


 その情勢をひっくり返したのは、神の祝福を受けたといわれる聖女と勇者擁する征魔軍である。


 征魔軍は、その主体を宗教国家エクレシオンの者たちで構成されている。エクレシオンは、ユクス教とよばれる宗教が国教として広まっている。ユクス教では絶対神ディアを信仰しており、神の生みたもうた人間こそ正という教えを説いている。そして、悪しき魔族に罰を、正しき人間に祝福を与えてくれるのが神であり、その祝福を受けた聖女と勇者を神輿として担いで再び侵攻を開始した。

 宗教により完全な一枚岩となった征魔軍は多大な力を発揮したのだが、さらに聖女と勇者と呼ばれた者の存在がその進行に拍車をかけた。 

 奇跡と呼ばれる力を駆使し、勇者は一騎当千の働きを、聖女は大いなる癒しの力を、それぞれもたらしたことによって破竹の勢いで征魔軍は進んでいった。


 これを危惧したのが魔王はじめ魔族軍である。聖女と勇者の二人を危険とみなした魔王は、自らこの二人に率いられた征魔軍が北上してきたところを急襲。その圧倒的な力をもって、まだ育ち切っていなかった勇者に致命傷を与え、さらに聖女を自らの城へと誘拐した。

 二人の英雄という支柱を失った征魔軍は大幅に士気を下げ、再びパーセクト近くまで戦線撤退を余儀なくされた。


 そして物語は、魔王が聖女をさらい城に帰ってきてから七日後に始まる。






 かがり火のみに照らされる薄暗い広間。中央に鎮座するのは禍々しい装飾が凝らされた大きな椅子。そこに座っているのは黒いマントを羽織り、山羊の面をかぶった魔王。左手には豪奢な宝石が随所にちりばめられた杖をついており、その様はまさしく魔王と言ったもの。


 その魔王の前に立っているのは、白い法衣に身を包んだ美しい女だ。腰ほどまである長く美しい金髪を真ん中ほどで縛っており、肩から下げている。すこしたれ目な青い瞳は優しさをたたえ、薄桃色の唇はみずみずしい。微笑めば花が開くよう。まさしく絶世の美少女である。


 その聖女なのだが、いつも微笑みを絶やさず優しげな顔は今は眉が釣りあがり、唇はきっと一文字に結ばれている。いかにも、私怒ってます! という様子である。聖杖と呼ばれる杖を握る手は、力をいれているせいで白くなっている。


「どうして働かせてくれないんですか! これでも元は教会のシスターとして働いていたのですよ! 掃除洗濯炊事なんでも人並みにはこなせます! ただご飯を食べさせてもらうだけの生活なんてできません!」


「自分の立場をわきまえろ! お前は捕虜なんだぞ!? そのくせになんでそう自由にふるまうんだ! 捕虜は捕虜らしくおとなしく部屋にいろ!」


「お断りします! そんな部屋にこもっているだけではカビが生えていしまいます! こんなうら若き乙女にカビ生えてしまってもいいとでも言うのですか!?」


「だからそういう問題じゃねぇっていってんだろ!? そもそもお前が鎖は擦れていやだの牢の中は寝心地が悪いからいやだのわがまま言うのを、暴れないのを条件に聞いてやってるんだ! それなのにそうやって言うならまた鎖につないで牢にぶち込むぞ!」


「それもお断りします! それに、捕虜ならそれ相応の対応というものがあるはずです! それをいきなり牢に入れるだなんて、しかもこんな可憐な美少女を、あなたに良心というものはないんですか!?」


「俺は魔王だぞ、良心なんてねぇわボケ! だいたい自分で可憐とか言ってんじゃねぇ! こんなに厚かましく自分の願い言ってくる奴のどこが可憐だ!」


 激しく魔王と聖女は言い争っている。感情の揺れに伴い魔力が漏れ出し、周りを襲う。臣下たちは城が壊れないようにあっちこっちと走り回り防いでいる。そんな臣下たちの頑張りには目もくれず二人は言い争いを続け、あたりには魔力をまき散らす。


「だいたい、お前らが侵攻してきたせいでこちらにどれだけの被害が出たと思ってやがる! お前はその当事者の一人だぞ!? 現状賓客のような対応している自体普通はおかしいんだ! わかってんのか?」


「わかってますよ! だからこそ働くといってるんですよ!」


「はぁ、もう埒があかねぇ。なんだってこんな強情娘を拉致って来ちまったもんかな」


「それはこちらの台詞です! なんで私をさらったのですか? 私なんてちょっと癒しの力が使えるだけのただの可憐美少女ですよ?」


「もう突っ込まねぇからな。ていうかお前、自分が聖女なんて言われているのを知ってんのか? お前と勇者のビッグネーム二人がそろったせいで征魔軍とやらが調子に乗っていたからな。ちょっくらさらいに行ったわけだ」


「そこですよ。私は確かに聖女なんて周りに呼ばれてましたが、およそ聖女なんてほど遠いですよ。ある日突然癒しの力があなたにはあるとか言われて住んでた教会から連れ出されて、聖女なんて呼ばれて担がれてあれよあれよとこんなところに! 働かないとやってられないんですよ!」


「いや、そんな裏事情なんてこっちは知ったこっちゃねぇがな。大方アレだろ。癒しの力に目覚めたお前を聖女として軍の士気をあげるのに使ったってところだろ。人間の考えそうな知恵だって話だ。

 だがこっちもそのせいで結構な同胞を殺されてるんでな。同情する気はないぜ」


「別に同情なんていいんです。同情するなら仕事ください!」


「結局そこかよ……。もういいや、クーレル」


「はい」


 魔王の呼びかけに応じて現れたのはメイド服に身を包んだ水色の髪の美女。眼鏡をかけて無表情でどことなく冷たい印象を与える。出るとこは出ているメリハリのある体つきをしており、それを見た聖女は思わず自分の胸に手を当てた。


「(私は普通、私は普通……。)」


「そこのシゴトクレ馬鹿を問題なさそうな程度に適当にこき使ってやれ。お前の裁量でいい」


「かしこまりました。それではまいりましょうか聖女様」


「あ、はい。あ、あと魔王様。なんだかんだと聞いてくださってありがとうございます。一生懸命働いてあげますね!」


「……ふん。さっさと行け」


 クーレルと呼ばれたメイドについて聖女は魔王の間を退出する。一息ついた魔王は、深く椅子に座りなおす。


「はぁ、疲れる。自分の立場をわきまえろって話だよほんとに。魔王だぞ魔王。人間からすりゃ恐怖の権化だろ。それなのになんであんな態度取りやがってまったく」


 つぶやくような魔王の声は誰に聞かれることもなく大きな広間に溶けて行った。




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