どうしたってあきらめきれない愛する君へ。何度だって、運命に抗うと誓おう
「リーアース」
「うん?」
甘く呼ばれてそちらを向けば、ふんわりと笑う愛しい恋人がいる。
「ん」
「♪」
手を広げるとこちらに来て、甘くすり寄り、額を合わせ、また抱きついて。そんな穏やかな日々も過ごせるようになったからか。
「……クリスティア」
「リ、ア…ス」
運命の日が来るたび。
無残な彼女を見るたび。
どちらが夢なのだろうと、感覚がおかしくなる時がある。
自分の痛みなどもう感じないから、これが単に悪い夢なのか。
あぁ、けれど。
「っ」
突き刺されるような感覚だけはあるから、今までが幸せな夢を見ていただけなのか。
「クリスティア」
「…」
わからなくなる。
わかりたく、なくなる。
つい昨日まで、いや、数時間前まで笑っていたはずなのに。
その少しだけ冷たい温度に触れて、額をすり合って、「また、ね」なんて。今日だからこその悲しい物言いはあれど。二人、穏やかに笑っていたのに。
「……ハ、ここだけは、変わらないな」
いつもそうだ。
どんなに日々が穏やかでも。
この最期だけは残酷で。
彼女の体に刃が突き刺さり、けれど死ねないまま恋人はただ俺をぼんやりと見つめる。
その瞳に、もう光はほとんどないけれど。
何を、思っているだろうか。
段々とこちらの視界も暗くなる中で、考える。
痛いだろうに。その顔は歪むことはなくて。つらい、とかはないのだろうか。いやでも、少し表情が乏しい恋人だから。
「……恨んでいたりしてな」
背にまた刃が入った感覚を感じながら、自嘲した。
これまで傍にいてくれているのだからそんなことないとわかっているのに、どうしたってこんな日だけは、マイナス思考に拍車がかかってしまう。他の思考になれるとしたら、それは矛盾した思いだ。
自分が死ぬまで彼女は死ねない。
けれどどうにか、クリスティアを守りたくて、あがいている。それが彼女をより苦しめると知りながら。
諦めれば彼女は苦しまず死ねるのに。諦めたくない自分もいて。
そろそろ、恨まれていもいいくらい痛い思いをして、苦しい思いをして。
「っ……、は」
それでもどうして、お前は変わらずにいてくれるんだろうか。
泣かないと決めていても、突きつけられた現実に、こみ上げてくる。
早く死にたい。
クリスティアを楽にしたい。
けれど。
もしかしたら、この”今”をあがけば。お前を救えるかもしれない。
その二律背反でどうしても死にたくない。
こんな自分勝手なやつに恋人は嫌な顔一つせず傍にいてくれる。
思うのは、感謝と、謝罪。
それでもそばにいてくれてありがとう。
そして、
「苦しませてごめんな」
小さく呟いたとき。
自分の視界は、真っ暗になった。
「リーアース」
「……うん?」
名を呼ばれて、パチリ。目を開ける。
声の方に向けば、ソファの下で膝をつき、首をかしげて、少し心配そうな恋人がいた。
「どうした」
目元をくすぐりながら聞けば、そのくすぐったさに身をよじりつつ、変わらず心配そうに俺を見上げるクリスティア。そうして聞いてくる。
「ゆめ?」
「うん?」
一度首をかしげてから、彼女が発したその言葉に。
「……寝てたか?」
「目閉じてた」
聞けば、「そうだ」と言うように頷いて。
「!」
ゆっくり、俺を抱きしめて頭を撫でてくる。
「なんだ」
「んーん」
首を横に振るように言うのに。
どこか、なぐさめるようで。
「平気だ」
傷つけられ続けた彼女の体を、強く抱きしめる。
少し甘いにおいを肺いっぱいに吸い込んで、吐き出して。
どうか、と。
この体が、もう傷つくことなどないようにと願う。
自分が諦めればすぐそれは叶うと知りながら、往生際悪く願った。
その矛盾に、笑って。
「……ごめんな」
守れなかったこと。何度も傷つけてしまったこと。
夢か現実かわからない先ほどの光景すべてに。そう、吐き出して。
「……」
小さく小さく、「生きている」を主張する心臓に耳を当てる。
とく、とくと確かに「生」を主張する彼女へ、少しだけほっと息を吐けば。
「リアス」
「ん?」
甘く、呼ばれて。目を上げると、笑うクリスティアがいた。
「クリスね」
「あぁ」
「それでも傍にいたい」
こぼされた言葉に、目を見開く。
まるで先ほどの夢のようなひとときに思った言葉の返事のようで。
「聞いていたのか?」
「なんでも聞こえるよ」
なんて、ほほえむから。
夢だったならあり得るなと、俺も笑って。
愛して、どうしたって手放してやれない恋人を。
また強く、強く抱きしめた。
『どうしたってあきらめきれない愛する君へ。何度だって、運命に抗うと誓おう』/リアス




