第39話 添え状付き封筒
※第5章「第36〜38話」を一部修正しました。(誤字修正ではない修正です)
内容が分かりづらかったので、わかりやすさ優先で修正いたしました。
すでに読まれた方も、第5章のはじめから読み返していただくと、より分かりやすいかもしれません。
物語の大きな流れは変わっていませんが、誤字修正レベルの修正ではなかったので、ここで報告いたします。
引き続き、よろしくお願いいたします!
ニノは慌てて濡れたシャツを着た。
着た、というより、濡れた布を体に戻しただけだった。
安心できるほど乾いてはいない。
ラウルが木箱の横に掛けていた古布を一枚つまみ上げた。
「これ、使うっすか。荷運び用の布っす」
「濡れた方に渡すには、少し勇気が要りますわね」
「証拠品じゃないっす。俺の私物っす」
「そこだけは成長しています」
「ですが、それを人に渡そうとしないでください」
ニノは濡れた袖を握った。
頭上の鳩だけが、なぜか堂々としている。
この場で一番落ち着いているのは、どう見ても鳩だった。
「ニノさん。まず確認しますわ。この二件で使われた添え状付き封筒を、菓子屋さんと布屋さんに売ったのはあなたですね」
レイベルナが尋ねると、ニノはこくこくと頷いた。
「は、はい。僕です。どちらも、王妃陛下のお茶会で使った物を、後日、王宮の外へ出す申請をしたいと言っておりました」
「菓子屋さんは箱と配達袋の返却。布屋さんは円卓用の布と日除け布の引き取りでしたわね」
「はい。その通りです」
ようやく話が明らかになってきた。
菓子屋も布屋も、急に現れた怪しい業者ではない。
どちらも王宮茶会に関わった正規の出入り業者だった。
そして、どちらの申請も、王宮から外へ物を運び出すためのものだった。
「菓子屋さんも布屋さんも、持ち出す物を書いた申請書類自体はそれぞれ用意していました。僕がしたのは、お店で扱っている『添え状付き封筒』を売っただけです」
「その封筒には、最初から決まった添え状が入っているのですね」
「はい。宛名と日付と差出人を書けば使えるようになっている商品です。王宮へ後処理の書類を出す時に便利だと、店主が最近仕入れたものです」
財務卿の眉がぴくりと動いた。
「便利すぎる商品ですな」
「王宮へ出す書類は、封筒や添え状をきちんと付けた方が通りやすいので……お客さんにも、これなら失礼がないと思って勧めただけです」
レイベルナは、机の上に置かれた添え状を見た。
申請書類では、持ち出す物が限られている。
菓子箱と配達袋。
円卓用の布と日除け布。
けれど、封筒に入っていた添え状では違う。
関係物品。
あわせて扱う物。
同じ後処理。
その言葉が、持ち出せる物の範囲を広く見せていた。
「だから、菓子屋さんにも布屋さんにも、同じ添え状が付いたのですわね」
ニノの声が小さくなる。
「はい……。今、こうして見直して、やっと気づきました。申請書類には箱と袋、布と書いてあるのに、添え状だけ読むと、もっと広い後処理品まで含められそうに見えます」
トマスが、丸いパンを胸元で握り直した。
「今は黒い紙の件もあって、受理室では書類確認をより厳しくするようになっています。だから止められました」
トマスは少し声を低くする。
「外へ出てからでは遅いんです。証拠になる紙や布が処分されれば、もう戻せませんので」
レイベルナは添え状を見下ろした。
「それだけではありません。一度この添え状で通ってしまえば、次からも同じ形で通せます。都合の悪い封筒や控えを外へ出すことも、処分したことにして費用を載せることもできますわ」
財務卿が、猫を抱いたまま重く頷いた。
「王宮から物を出す道を、後処理の顔で作る。実に胃に悪いですな」
ニノの顔から血の気が引いた。
「ぼ、僕はそんなつもりでは……」
「分かっていますわ。今はあなたを犯人として責めているのではありません」
レイベルナは静かに言った。
「確認したいのは、この添え状付き封筒がどこから来たのかです」
鳩がニノの頭の上で羽を震わせた。
水だけが落ちた。
財務卿の猫が尾を揺らす。
「どうやら猫は遊びたいようですな」
鳩はニノの頭の上で、さらに胸を張った。
猫がいるためか、低い場所へ戻る気はなさそうだった。
「ニノさん。先ほどこの封筒を仕入れたと言いましたが、白鳩屋で作ったものではないのですね?」
「はい、違います。外部から仕入れた商品です。店主が帳面を管理していますので、詳しい相手までは僕には分かりません。ただ、最近まとめて入ってきたものです」
「白鳩屋には、この封筒の仕入れの記録が残っていますか?」
「はい。何をどこから仕入れたかは必ず帳面につけております。普通なら納めた側にも控えがあるはずです」
リゼットが控えの者へ目を向けた。
「では、後ほど正式に帳面の提出を求めます。ただ、今ここには白鳩屋で売られた封筒、同じ添え状、店番であったニノさんや、業者側の証言もあります」
レイベルナは、机の上にある添え状と封筒を見た。
白鳩屋へ、この添え状付き封筒を商品として納めた者。
そこには取引がある。
納品がある。
帳面に残る責任がある。
ならば、この場で説明を求めるだけの糸は結びついている。
レイベルナは銀の鈴を掲げた。
「この添え状付き封筒を商品として白鳩屋に納めた責任者をお呼びしますわ」
――チリン。




