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第73話:足を止める一秒を作る

翌日。


学校が終わると、そのまま二つ目の店へ向かう。


昨日と同じ道。


同じ通り。


だが――


歩きながら、周りを見る。


人の流れ。


速度。


視線。


(……速いな)


そう思う。


誰も止まらない。


目的がある動き。


店を見る余裕がない。


(……ここが最初の壁だ)


店の前に着く。


やはり、同じだ。


誰も見ない。


誰も止まらない。


そのまま通り過ぎる。


(……入口以前だな)


そう判断する。


入口の前にすら来ない。


つまり――


“存在していない”のと同じ。


「来たか」


田中が店の横に立っている。


「はい」


短く答える。


「どうする?」


すぐに聞く。


(……一つでいい)


そう思う。


やることは決まっている。


「止める」


短く言う。


「どうやって?」


(……シンプルでいい)


「一瞬でわかるやつ」


それだけ。


田中が首を傾げる。


「具体的には?」


(……これだな)


紙とペンを出す。


大きく書く。


“500円”


それだけ。


さらに下に小さく。


“定食”


それだけ。


「……それだけ?」


田中が言う。


「それだけ」


短く返す。


「理由は後」


それだけ。


(まず止める)


それが最優先だ。


入口の横。


人の視線に入る位置に貼る。


高さ。


角度。


少しだけ調整する。


(……これでいい)


余計な装飾はいらない。


シンプルでいい。


「開ける」


短く言う。


店主が不安そうに見る。


だが、田中が頷く。


「やれ」


それで決まる。


開店。


最初の数分。


何も変わらない。


人は流れる。


止まらない。


(……まあ最初はこんなもんだ)


そう思う。


だが――


一人、視線が動く。


通り過ぎる途中。


一瞬だけ。


看板を見る。


(……見たな)


そのまま通り過ぎる。


だが、速度が落ちた。


それだけで十分だ。


数分後。


別の男。


同じように通る。


一瞬止まる。


“500円”を見る。


「……安いな」


小さく呟く。


(……来るか)


一歩だけ戻る。


入口を見る。


中を覗く。


そして――


入る。


(……来たな)


そう思う。


初動が変わった。


席に座る。


「これって500円なの?」


店主が答える。


「はい」


「じゃあそれで」


注文が入る。


(……繋がったな)


止まる。


見る。


入る。


それだけの流れ。


だが――


今までなかったものだ。


「……マジか」


横で田中が呟く。


(……まだだ)


そう思う。


一人じゃ足りない。


再現性。


それが必要だ。


数分後。


また一人。


同じ動き。


止まる。


見る。


入る。


(……通る)


確信する。


“500円”という情報。


それだけで、足が止まる。


理由は単純だ。


判断が一瞬で終わる。


迷わない。


「安いかどうか」


それだけ。


それが通る。


「……すげえな」


田中が言う。


本気で。


「何したんだよ」


(……何もしてない)


そう思う。


「見せただけ」


短く言う。


それだけ。


だが――


それが一番強い。


昼。


客はまだ多くない。


だが――


ゼロではない。


今までと決定的に違う。


“入ってくる”。


それだけで意味がある。


「これでいいのか?」


店主が不安そうに聞く。


「いい」


短く言う。


「次」


それだけ。


「次?」


「入口」


短く言う。


店主が戸惑う。


(……当然だ)


まだ一段階目だ。


ここからさらに通す。


夕方。


さらに変化が出る。


二人組。


通り過ぎる途中で止まる。


「500円だって」


「マジ?」


入口を見る。


「入る?」


「入るか」


入る。


(……複数だな)


そう思う。


再現性が出ている。


一人じゃない。


流れができている。


「……やばいなこれ」


田中が笑う。


完全に乗っている。


(……いいな)


そう思う。


動いている。


確実に。


夜。


店を閉める。


売上はまだ大きくはない。


だが――


昨日より明らかに上。


そして何より――


ゼロではない。


「……入ってきたな」


店主が言う。


信じられないように。


「今まで、ほぼゼロだったのに」


(……ここからだ)


そう思う。


入口前。


通した。


次は入口。


そして中。


「……やるか」


田中が言う。


短く。


(……やるな)


そう思う。


答えは決まっている。


「やる」


短く言う。


それだけ。


夜。


家に帰る。


机に向かう。


ノートを開く。


書く。


・止める(入口前)

・入れる(入口)

・回す(中)


すべて同じ。


順番だけ。


「……いけるな」


小さく呟く。


どんな店でも。


どんな場所でも。


やることは変わらない。


「……次は」


さらに中へ。


さらに奥へ。


完全に動かす。


その段階に、入った。

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― 新着の感想 ―
500円って今の感覚では1500円ぐらいじゃないかな? 町の食堂の定食としてはけっして安くはないような。
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