第60話:外の世界が覗いてくる
放課後。
教室に残っている人間は、もうほとんどいなかった。
窓際の机。
基準の紙。
今日も少しだけ書き足されている。
(……回ってるな)
そう思う。
自分がいなくても、更新は続く。
判断も回る。
止まる気配はない。
それで十分だった。
「恒一」
声がかかる。
振り向く。
担任だ。
「ちょっといいか」
(……またか)
そう思う。
だが、今までとは空気が違う。
少しだけ、硬い。
「はい」
立ち上がる。
「ついて来い」
短く言われる。
教室を出る。
廊下を歩く。
職員室――ではない。
その手前で曲がる。
(……応接室か)
そう判断する。
普段使わない場所。
つまり――
(外だな)
扉の前で止まる。
「入るぞ」
担任がノックする。
「失礼します」
中に入る。
ソファ。
低いテーブル。
そして――
一人の男。
スーツ姿。
見たことはない。
だが、雰囲気でわかる。
(学校の人間じゃない)
男がこちらを見る。
軽く笑う。
「君が高瀬くん?」
(……来たな)
そう思う。
「はい」
短く答える。
担任が言う。
「この人はな、外部の教育関係者で――」
「まあまあ」
男が手を軽く上げる。
「堅い話はいいよ」
そう言って、少し前に身を乗り出す。
「君、面白いことやってるね」
(……見てるな)
そう思う。
ただの噂じゃない。
ちゃんと把握している。
「別に」
短く返す。
男は少しだけ笑う。
「謙遜するタイプか」
「違います」
即答する。
男の目が細くなる。
(……いいな)
試している。
そう感じる。
「これ」
男が紙を出す。
見覚えがある。
基準。
だが――
少し違う。
(……別の場所だな)
自分のクラスじゃない。
どこか別でコピーされたもの。
「これ、どこまで関わってる?」
直球。
「最初だけです」
そう答える。
嘘ではない。
男は頷く。
「なるほどね」
「でも、止まってない」
続ける。
「むしろ広がってる」
それだけ。
「そうですね」
肯定する。
隠す意味がない。
男が少しだけ笑う。
「普通はね」
指を軽く叩く。
「最初の人間がいなくなると崩れる」
一拍。
「でもこれは崩れてない」
(……観察してるな)
そう思う。
「なんでだと思う?」
試すような問い。
少しだけ考える。
「基準があるからです」
短く答える。
「人じゃなくて」
一拍。
「仕組みで回ってる」
それだけ。
男の口元がわずかに上がる。
「いいね」
小さく言う。
「その答えが出てる時点で、十分だ」
担任が横で少し驚いた顔をしている。
(……まあそうだろうな)
そう思う。
男はさらに続ける。
「で」
少しだけ声のトーンが変わる。
「これ、外でやる気ある?」
(……来たな)
そう思う。
完全に予想通り。
学校の外。
別の場所。
少しだけ間を置く。
「やりません」
即答する。
担任が一瞬固まる。
男も、わずかに目を細める。
「理由は?」
静かに聞く。
「今やる意味がない」
それだけ。
男は何も言わない。
「まだ小さいです」
続ける。
「ここで十分です」
それだけ。
沈黙。
数秒。
そして――
男が笑う。
「いいね」
低く言う。
「焦ってない」
それだけ。
「普通は飛びつく」
「外でやれるならってね」
一拍。
「でも君は違う」
(……見てるな)
そう思う。
「一つだけ聞く」
男が言う。
「どこまで行くつもり?」
シンプルな問い。
だが、重い。
少しだけ考える。
「崩れないところまで」
そう答える。
それだけ。
男は数秒黙る。
そして――
「いい」
小さく言う。
「それでいい」
立ち上がる。
「今日はこれでいいよ」
担任に軽く目配せする。
「また来る」
それだけ言って、部屋を出ていく。
扉が閉まる。
静寂。
担任がこちらを見る。
「……お前」
少し言葉に詰まる。
「なんなんだ、あれ」
(……まあそうだろうな)
「別に」
それだけ答える。
「ただ回してるだけです」
短く言う。
担任は頭をかく。
「いや……まあいい」
それ以上は言わない。
教室に戻る。
誰もいない。
静かだ。
窓際に行く。
基準の紙。
少しだけ見る。
(……外か)
そう思う。
来た。
学校の外。
しかも――
“匂いのするやつ”。
だが――
(まだ早い)
そう判断する。
今は広げる段階じゃない。
固める段階だ。
家に帰る。
机に向かう。
ノートを開く。
・外部(大人)
・仕組みを理解している
・広げようとする
「……来たな」
小さく呟く。
ここからが分岐。
乗るか。
無視するか。
「……まだだ」
そう結論を出す。
原稿用紙を出す。
今日のテーマは決まっている。
“外の誘い”
それにどう向き合うか。
書き始める。
評価される。
誘われる。
だが、動かない。
その理由。
最後に一文。
「早すぎる拡大は崩れる」
そこに絞る。
書き終える。
「……いいな」
そう思う。
ここまでで一番、“先を見てる”回だ。
封筒に入れる。
迷いはない。
外に出る。
ポストの前。
投函する。
音がする。
家に戻る。
布団に入る。
目を閉じる。
今日の光景が浮かぶ。
接触。
評価。
拒否。
その流れ。
「……次は」
小さく呟く。
相手は一人じゃない。
もっと来る。
そのとき――
どう選ぶか。
その段階に、確実に入っていた。
私の2作目
「神様転生したはずが赤ん坊の自分に転生していた件」
は修正のために一時的に更新を停止しました
代わりとして新作を投稿します
「遊びで山をいじったら、日本が変わり始めた。」
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