第7話:最初の返事
投稿から二週間ほど経った頃だった。
学校から帰ると、居間のテーブルの上に一通の封筒が置かれていた。
見覚えのない差出人。
だが宛名は、確かに高瀬恒一。
「……来た」
思わず足が止まる。
喉が少し乾く。
母が台所から顔を出した。
「それ、恒一に来てたわよ。雑誌のところからじゃない?」
手に取る。
封筒は薄い。
中身が重くないことが、逆に不安を煽った。
採用ならもっと何か入っているかもしれない。
いや、そんな決まりはない。
わかっていても、頭の中で余計な考えが回る。
「部屋で見る」
そう言って、恒一は封筒を持って和室へ戻った。
襖を閉める。
座る。
一度、深呼吸する。
(落ち着け)
まだ失敗と決まったわけじゃない。
いや、仮に失敗でも構わない。
一通目だ。
反応を見るだけでも価値はある。
そう自分に言い聞かせながら、丁寧に封を切った。
中には便箋が一枚。
短い文章が並んでいた。
⸻
投稿ありがとうございました。
大変興味深く拝見いたしました。
今回は誌面の都合上掲載には至りませんでしたが、今後も投稿をお待ちしております。
⸻
「……」
落選。
だが、ただの定型文では終わっていなかった。
欄外に、手書きで一言添えられている。
⸻
視点が面白いです。年齢を考えると驚きました。
⸻
「はは……」
小さく、息が漏れる。
完全な失敗じゃない。
むしろ、ちゃんと読まれた。
印象にも残った。
それがわかっただけで十分だった。
(届いた)
前世では、何をやっても手応えがなかった。
仕事をしても評価されず、投資をしても負けた。
だが今は違う。
小さいながらも、外の世界に投げたものが、確かに返ってきた。
それだけで、目の前が少し明るく見えた。
「どうだったの?」
襖の向こうから、母の声。
「だめだった。でも……読んではもらえた」
そう答えると、母は少し間を置いて言った。
「じゃあ、次ね」
その言葉に、恒一は目を細めた。
そうだ。
次がある。
この時代には、まだいくらでも“次”がある。
翌日、学校が終わった帰り道。
恒一は頭の中で次の投稿先を整理していた。
一つの雑誌にこだわる必要はない。
読者欄、投稿欄、ジュニア向けコーナー、生活欄。
媒体ごとに色が違う。
そこに合わせて見せ方を変えればいい。
(要は営業だな)
ふと、そんな言葉が浮かんで苦笑する。
三十五歳まで会社で生き延びてきた経験は、こういうところで役に立つ。
相手が何を欲しがっているか。
どんな言葉なら通るか。
それを考えるのは、むしろ得意なほうだった。
帰宅すると、机に向かい、前回の原稿を並べて見直した。
悪くない。
だが少し硬い。
子供らしさが薄いぶん、逆に浮く危険もある。
(大人っぽすぎるのもまずいか)
なら、見せ方を少し変える。
観察力のある子供。
好奇心が強い子供。
そういう仮面をかぶせる。
中身は大人の分析でも、表面は年齢に合わせる。
「使えるな……」
自分でも思う。
落選したのに、むしろ道筋が見えた。
必要なのは才能の証明じゃない。
継続と改善だ。
(この感覚、嫌いじゃない)
前世では“改善”と言われるたびに胃が痛んだ。
だが今は違う。
誰かに責められて直すのではない。
自分で勝つために、直している。
その夜、恒一は三本目の構想を練りながら眠りについた。
まだ金は一円も入っていない。
それでも、確実に前へ進んでいる実感があった。
今まで読み専だったけどこんなストリートをもっと読みたいと思ったけどないから書いてみました
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