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第37話:広がると崩れるもの

朝、机の上に置いた原稿を見て、恒一は少しだけ考え込んでいた。


昨日書いたもの。


距離を変えた文章。

少し引いて、流れとして捉えた内容。


自分の中では、悪くない手応えがあった。


「……でもな」


小さく呟く。


違和感がゼロではない。


前回の“視点を変えた”時とは違う。

あの時は、明確に変化が出ていた。


今回は、少し曖昧だ。


良くなっている部分もある。

だが、前より弱くなっている部分もある。


「……どっちだ」


ペンを指で回しながら考える。


距離を変えたことで、全体の流れは見やすくなった。

だが、その分、手触りが少し薄くなっている。


近くで見た時の“生の感じ”が弱い。


「……引きすぎか」


そう結論づける。


距離を取るのはいい。

だが、取りすぎると温度が下がる。


前にやった“削りすぎ”と似ている。


やりすぎると、逆に弱くなる。


「……バランスだな」


結局、そこに戻る。


極端に寄せると崩れる。

その間を探すしかない。


原稿をもう一枚出す。


今度は、引きすぎない。


最初に少しだけ距離を取る。

そこから、一つだけ近づく。


全体を見て、最後に一点に寄る。


その形を意識する。


「……これなら」


少しだけ構成が見えた。


すぐに書き始める。


途中で、何度も迷う。


引くか。

寄るか。


どこで切り替えるか。


そのたびに、手を止めて考える。


「……ここだな」


一つ決める。


流れを描いてから、最後に寄る。


書き終える。


さっきより、少しだけ長い。


だが、温度は戻っている。


「……こっちだな」


そう思えた。


前の原稿は脇に置く。


完全に無駄ではない。

だが、今回は使わない。


その判断も必要だった。


学校に行く。


教室に入ると、いつものざわめきがある。


だが、今日は少し違う空気があった。


「それ、見せて」


見知らぬ子に声をかけられる。


「え?」


「作文のやつ。あいつから聞いた」


少し離れた席の子を指差している。


「ああ」


そこで理解する。


広がっている。


直接渡していないところまで、話が届いている。


「持ってる?」


「あるよ」


鞄から昨日まとめた紙を取り出す。


それを渡す。


相手はざっと目を通して、少しだけ顔をしかめた。


「……なんか難しくない?」


その一言で、恒一は少しだけ目を細めた。


(来たな)


うまくいかないパターン。


今までは、比較的素直に受け取られていた。

だが、広がるとそうはいかない。


理解できる層と、できない層が出る。


「どこが?」


「ここらへん。なんかよくわかんない」


指差された部分を見る。


確かに、少し抽象的だ。


近くで説明すれば伝わる。

だが、紙だけだと弱い。


「……説明足りてないな」


小さく呟く。


「え?」


「ちょっと書き直す」


そう言って、紙を一度回収する。


その場で、簡単に書き足す。


難しい言葉を減らす。

具体例を一つだけ入れる。


「これでどう?」


もう一度渡す。


相手は読み、今度は少しだけ頷いた。


「……ああ、なるほど」


「それくらいでいい」


「さっきよりわかる」


その反応を見て、恒一は確信する。


(やっぱり、広がると崩れるな)


一対一なら問題なかったものが、複数になるとズレる。


これは前世でも同じだった。


説明。

商品。

サービス。


対象が増えるほど、理解の差が出る。


その差を埋めるには、“最低限の共通ライン”を作る必要がある。


「……一段下げるか」


難易度を少し下げる。


それで届く範囲が広がる。


昼休み、別の子もやってくる。


「それ、俺にも見せて」


「はいよ」


渡す。


今度は問題なく理解される。


だが、反応は少し違う。


「へえ、こんな感じでいいんだ」


“便利なもの”として見ている。


悪くはない。


だが、少し軽い。


(受け取り方もバラバラだな)


当然だ。


全員が同じ温度で受け取るわけではない。


それでも、使われるなら意味はある。


放課後、家に帰る。


机に向かい、今日のことを整理する。


ノートに書く。


・広がると理解に差が出る

・説明は少し簡単に

・一対一と一対多は別


ペンを止める。


そのあと、もう一行書き足す。


「形にする」


これが必要だ。


その場で説明するのではなく、誰でもある程度理解できる形。


それを作る。


「……もう一枚作るか」


新しい紙を取り出す。


今までの内容を、さらに簡単にする。


専門的な言い方を削る。

例を一つ入れる。

順番を整理する。


書き終えて、前のものと並べる。


二種類。


少し詳しいもの。

少し簡単なもの。


「……これで分けるか」


相手に応じて渡す。


それだけで、ズレは減る。


「……これ、仕事だな」


自然にそう思った。


前世でやっていたことと、ほぼ同じだ。


対象に合わせて、説明を変える。


それを形にする。


ただ違うのは、今は自分でやっているということだ。


夜、原稿に向かう。


昼間のズレを踏まえて、文章を書く。


距離を変える。

だが、引きすぎない。


流れを作る。

そして最後に寄る。


「……これでいい」


書き終える。


前よりも、バランスはいい。


一度崩して、戻した形。


それが一番強い。


封筒に入れるか、少し迷う。


だが、すぐに決める。


「……出すか」


今回は、迷いは少ない。


ズレたあとに直している。

その自信がある。


外に出る。


夕方の空気が少し冷たい。


ポストの前に立つ。


(これも、見られるな)


自然にそう思う。


ただの投稿ではない。


流れの中の一枚。


その意識がある。


投函する。


音がする。


それだけで十分だ。


家に戻り、布団に入る。


今日の流れを思い出す。


広がる。

ズレる。

直す。


投稿も同じ。

価値提供も同じ。


全部が繋がっている。


「……悪くないな」


そう呟く。


うまくいかない部分が出てきた。


だが、それは前に進んでいる証拠だ。


最初から全部うまくいく状態のほうが、むしろ危ない。


目を閉じる。


次は、もう少し広げるか。

それとも、深くするか。


考える余地がある。


それだけで、十分だった。


静かに、眠りに落ちていく。


広がったものは、必ず崩れる。


だが、直せばいい。


その感覚が、確かに身についてきていた。

私の2作目

「神様転生したはずが赤ん坊の自分に転生していた件」

この作品は一言で言うと神様に笑われた男が世界を笑えなくするです。(自分でも導入で笑ってしまいました)

良かったらどうぞよろしくお願いします

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