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昭和に逆行した俺、バブル前に仕込んで億万長者になる  作者: 柿の木


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挿話⑱ 積み上げた先にある変化

読者の皆様のおかげでランキングにこの作品に出て来るようになりました。

まさかここまで行くとは思わんかった(^∇^)

皆様ありがとうございます((o(^∇^)o))

本当は毎日各3本ですが追加です

編集部の空気は、昼を過ぎたあたりから少しだけ重くなる。


締切が近づくほどに、誰もが言葉数を減らし、紙に向かう時間が増えていく。


そんな中で、中村宏太は読者投稿欄のゲラを前にしていた。


何度も見てきたページ。

変わらない作業。


だが、その中にある一つの名前だけは、ここ最近、扱いが変わってきている。


「……こっち、か」


小さく呟く。


目の前にあるのは、例の投稿者の原稿。


だが、最初に届いたものではない。


数日前、ほぼ同じテーマで届いた“二通目”。


書き直された原稿だ。


最初のものも、決して悪くはなかった。

むしろ、これまでの流れを考えれば、十分に載せられる水準だった。


だが――


「軽かったんだよな」


中村は、もう一度最初の原稿を思い出す。


まとまっている。

読みやすい。

無理がない。


それでも、どこかに引っかかりがあった。


最後の一文だけが浮いている。

そこに至るまでの積み上げが、少し足りない。


対して、今回の原稿は違う。


流れがある。

最初から最後まで、自然に繋がっている。


そして、最後の一文が“ちゃんと残る”。


「……修正してきたな」


その一言に尽きる。


偶然ではない。

たまたま良くなったわけでもない。


明確に、“ズレに気づいて直している”。


それがわかる。


中村は、ゲラの端に軽くペンで印をつけた。


特別な意味はない。

だが、自分の中での“意識の印”だ。


「これ、結構珍しいよな」


隣の編集者に軽く言う。


「何が?」


「一回出して、すぐ修正してくるタイプ」


相手はゲラを覗き込み、少しだけ頷いた。


「あー……確かに。普通はそのまま出しっぱなしだな」


「そうなんですよね」


多くの投稿者は、一度出したら終わりだ。


掲載されるか、されないか。

それだけで判断する。


だが、この投稿者は違う。


出したあとに、もう一度考えている。


ズレを感じている。

そして、直している。


「……仕事のやり方だな、これ」


中村はそう思った。


趣味ではない。

遊びでもない。


“改善していく前提の動き”。


それが、文章に出ている。


ゲラを閉じる。


頭の中で、あの少年の顔が浮かぶ。


落ち着いた受け答え。

少しだけ間を取る話し方。


「……あれ、やっぱり繋がってるな」


紙の上と、実際の人物。


その間に、ズレが少ない。


それが一番大きい。


そこへ、後ろから声がかかった。


「例のやつか」


振り向くと、遠藤梁が立っていた。


中村は軽く頷く。


「はい。今回は、書き直してきてます」


「ほう」


遠藤は興味なさそうに言いながらも、ゲラを手に取った。


流し読み。


数秒。


それだけで、遠藤は紙を机に戻す。


「……前よりいいな」


短い評価。


だが、その一言は軽くない。


「最初のは見ました?」


「見た」


「どうでした?」


「悪くはないが、弱い」


即答だった。


「締めだけ浮いてた。ああいうのは残らん」


中村は内心で頷く。


まったく同じ印象だ。


「今回のは?」


「流れてる。だから残る」


それだけ言って、遠藤は腕を組んだ。


「で、これはどういう動きだ?」


問いの意味はわかる。


偶然か。

それとも、意図か。


「意図だと思います」


中村は答える。


「ズレに気づいて、直してます」


「……そうか」


遠藤は少しだけ目を細めた。


「それは面白いな」


その“面白い”は、単なる感想ではない。


“使える可能性がある”という意味に近い。


「続いてるか?」


「はい。安定して出してきてます」


「崩れてないか」


「今のところは」


遠藤は数秒だけ考えたあと、言った。


「じゃあ、まだ放っておけ」


「はい」


「下手に触るな」


それだけ言って、遠藤は席を離れる。


いつも通りの距離感。


関わりすぎない。

だが、無視もしない。


そのバランスが、遠藤のやり方だった。


中村はその背中を見送りながら思う。


(“まだ”か)


まだ、だ。


今はまだ投稿者。


だが、その中でも少し違う位置に来ている。


机の上にあるゲラをもう一度開く。


名前を見る。


何度も載っている名前。


だが、今回は少し意味が違う。


ただ載ったのではない。


“修正して、選ばれた”。


その事実がある。


それは、次に繋がる。


数日後。


次の原稿が届いた。


中村は封筒を手に取った瞬間、すぐにそれだとわかった。


見慣れた文字。

見慣れた形式。


封を切る。


紙を取り出す。


視線を落とす。


「……ああ」


小さく声が漏れる。


前回とは違う。


明らかに、変えてきている。


文章の構造は大きく変わっていない。

だが、視点が違う。


「……ズラしてきたか」


そう呟く。


自分の視点ではない。

少しだけ外側から見ている。


その分、広がりがある。


だが、同時にリスクもある。


崩れる可能性がある。


「どう出るかだな」


中村はもう一度、最初から読む。


途中で止まる箇所はない。


流れも維持されている。


そして最後――


「……残るな」


今回も、ちゃんと残る。


前回の修正が活きている。


削りすぎない。

流れを残す。


そのバランスを維持したまま、視点だけを変えている。


「……やってること、完全に同じだな」


そう思う。


テーマを変えたわけではない。

書き方の軸も変えていない。


ただ、一つだけ動かしている。


それができる時点で、かなり違う。


「どうです?」


隣の編集者に渡す。


相手は読み、少しだけ考えてから言う。


「……前より面白いな」


「ですよね」


「でも、ちょっと怖いな」


「崩れる可能性ですか」


「そう。まだ安定してるけど、続けるとどっかでズレるかも」


その指摘も正しい。


変化はリスクを伴う。


だが、それをやらなければ上には行けない。


「……様子見ですね」


中村はそう答える。


すぐに何かをさせる段階ではない。


だが、無視する段階でもない。


その中間。


少しだけ、扱いが変わってきている。


夕方。


遠藤が再び、机の前に来た。


「来てるか」


「はい」


中村は原稿を差し出す。


遠藤は受け取り、軽く目を通す。


数秒。


そして、わずかに口元を動かした。


「……動かしてきたな」


「視点を変えてます」


「わかる」


遠藤は紙を机に置く。


「悪くない」


短い評価。


だが、前よりも少しだけ重い。


「ただ」


「はい」


「続くかどうかだな」


その一言がすべてだった。


一回できる人間は多い。

だが、それを続けられるかどうか。


そこに価値がある。


「続いてます」


中村は言う。


「今のところは崩れてません」


遠藤は少しだけ考えたあと、頷いた。


「じゃあ、見ておけ」


それだけ言って、離れる。


今回も、判断はしない。


だが、完全に“対象外”ではなくなっている。


中村は机に戻り、原稿を見つめる。


(ここからだな)


安定して出せる。

修正できる。

そして、少し変えることもできる。


条件は揃ってきている。


あとは、それをどこまで続けられるか。


それだけだ。


机の端に、原稿を置く。


すぐに取り出せる位置。


それはつまり、“意識している”ということだ。


「……書き手、か」


小さく呟く。


まだそこまでではない。


だが、候補には入っている。


投稿者の一人ではない。


それだけは、もう確実だった。


編集部の外にいる、あの少年。


まだこちら側には来ていない。


だが、その距離は、確実に縮まっている。


その線が、どこまで繋がるか。


中村はそれを、静かに見ていた。

私の2作目

「神様転生したはずが赤ん坊の自分に転生していた件」

この作品は一言で言うと神様に笑われた男が世界を笑えなくするです。(自分でも導入で笑ってしまいました)

良かったらどうぞよろしくお願いします

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