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昭和に逆行した俺、バブル前に仕込んで億万長者になる  作者: 柿の木


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挿話⑰ 会ったあとの判断

ドアが閉まる音が、静かに部屋に残った。


中村宏太は、しばらくそのまま椅子に座っていた。


机の上には、先ほどまで広げていたコピー。

例の投稿の切り抜き。


そして、対面したばかりの“本人の印象”が、まだ頭の中に残っている。


「……思ったより普通だな」


ぽつりと呟く。


これは悪い意味ではない。


むしろ、その逆に近い。


もっと極端な何かを想像していた。


妙に大人びているか、あるいはただの子供か。

どちらかに振れていると思っていた。


だが実際は違った。


確かに言葉遣いは少しだけ整っている。

受け答えも、年齢の割には落ち着いている。


それでも、不自然なほどではない。


「バランスがいい……のか」


自分の言葉を探すように、小さく言う。


文章の印象と、大きくズレてはいない。


それが一番重要だった。


紙の上と、実際の人物。


そこが大きく違うと、扱いは一気に難しくなる。


だが今回に関しては、むしろ繋がっている。


あの文章を書く人間として、納得できる範囲に収まっている。


中村は背もたれに体を預け、天井を見上げた。


(……でも、やっぱり少し違うな)


完全に一致しているわけではない。


どこかに“余裕”がある。


十歳の子供が初めて編集部に来た時の緊張とは、少しだけ質が違う。


怯えているわけでもない。

かといって、図太いわけでもない。


必要な分だけ緊張して、必要な分だけ受け答えをする。


その調整が、妙に上手い。


「……慣れてる?」


ありえない、とまでは言えない。


家庭環境や育ち方で、人は変わる。


それでも、あの“間の取り方”は少しだけ気になった。


机の上の紙を手に取る。


文章に目を落とす。


改めて読むと、やはり感じる。


無理がない。

そして、急いでいない。


対面した時の印象と、そこは一致している。


「……急がないタイプか」


それは強みでもあり、同時に扱いが難しい部分でもある。


早く結果を出そうとする人間は、動かしやすい。

だが崩れやすい。


逆に、急がない人間は、伸びると長い。

だが、無理に引き上げようとすると崩れることもある。


「今はまだ、このままでいいか」


中村はそう判断した。


変に何かをさせる段階ではない。


投稿を続けさせる。

それが一番自然で、一番確実だ。


そこへ、ドアが軽くノックされた。


「いいか」


低い声。


返事をする前に、ドアが少しだけ開く。


遠藤梁が顔を出した。


「終わったか」


「はい」


中村は姿勢を少しだけ正す。


遠藤は部屋の中に入り、椅子には座らず、壁にもたれた。


「で、どうだった」


短い問い。


中村は一瞬だけ言葉を選ぶ。


「……普通、でした」


「普通?」


遠藤の眉がわずかに動く。


「文章と大きくズレてはいません。少し落ち着いてますけど、不自然ではないです」


「ふん」


遠藤は腕を組み、机の上のコピーに視線を落とす。


「緊張してたか」


「してました。ただ……」


「ただ?」


「コントロールできてる感じでした」


その言葉に、遠藤は一度だけ中村の顔を見た。


「十歳だぞ」


「はい」


「それでコントロールか」


完全に否定はしない。

だが、そのまま受け入れてもいない。


遠藤はコピーを一枚手に取り、軽く目を通した。


「……文章と同じだな」


ぼそりと言う。


「はい」


「変に盛らない。外さない」


「そうです」


遠藤は紙を戻した。


「つまらなくなる可能性もあるな」


その一言は、少しだけ空気を引き締めた。


中村はすぐには返事をしない。


確かに、その可能性はある。


安定は強みだ。

だが、それだけでは上には行けない。


どこかで“跳ねる”必要がある。


「ただ、まだその段階じゃないと思います」


中村はゆっくりと言った。


「今は積み上げてる段階です」


遠藤は何も言わない。


数秒だけ沈黙が流れる。


その沈黙は、否定でも肯定でもない。


ただ、考えている時間だった。


「……続ける気はあるか」


「あります」


「即答か」


「はい」


遠藤は小さく鼻で笑った。


「そこは悪くない」


短い評価。


だが、それだけで十分だった。


遠藤は壁から体を離し、ドアの方へ向かう。


「無理に引っ張るな」


背を向けたまま言う。


「はい」


「潰すなよ」


それだけ言って、部屋を出ていった。


ドアが閉まる。


再び静かな空間が戻る。


中村はしばらく動かなかった。


(潰すな、か……)


その言葉の重みは理解している。


可能性のある芽は、扱いを間違えると簡単に折れる。


特に、まだ外の世界に慣れていない段階では。


机の上のコピーを整えながら、中村は思う。


今回の対面で、確信したことがいくつかある。


続く書き手であること。

無理をしないこと。

そして、少しだけ“普通ではない”こと。


だが、それが何なのかはまだわからない。


わからないままでいい。


今はまだ、判断する段階ではない。


「……様子見だな」


自分の中で、言葉にする。


投稿を続ける限り、判断材料は増える。


その中で見えてくるものがある。


急ぐ必要はない。


むしろ、急がないほうがいい。


中村はコピーをファイルに挟み、机の端に置いた。


特別な扱いではない。

だが、すぐに取り出せる位置。


それだけで、十分に意味がある。


時計を見る。


まだ仕事は残っている。


だが、頭のどこかにあの少年の姿が残っている。


小さな体。

落ち着いた目。

少しだけ間を置いて答える話し方。


「……また来るな」


自然にそう思った。


一度きりで終わるタイプではない。


続ける。


積み上げる。


その先で、またどこかで交わる。


その時にどうなっているか。


それを考えるのは、まだ少し早い。


だが、完全に無意味でもない。


中村はペンを手に取り、次の原稿に目を落とした。


仕事は続く。


だがその中に、一つだけ、確実に残ったものがある。


紙の向こうにいた書き手が、現実の人物として繋がった。


その線は、もう消えない。


あとは、それをどう伸ばすか。


それだけだった。

この後すぐにもう一本出します

私の2作目

「神様転生したはずが赤ん坊の自分に転生していた件」

この作品は一言で言うと神様に笑われた男が世界を笑えなくするです。(自分でも導入で笑ってしまいました)

良かったらどうぞよろしくお願いします

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