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昭和に逆行した俺、バブル前に仕込んで億万長者になる  作者: 柿の木


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第20話:投稿の先にあるもの

梅雨の雨が縁側を濡らす夜、恒一は布団に入ってもすぐには眠れなかった。


耳に入るのは、屋根を打つ雨音と、時折聞こえる遠くの車の音だけだ。

静かな夜だった。


けれど、頭の中は静かではない。


投稿。

掲載。

謝礼。

ペンネーム。

編集部からの返事。

買った雑誌。

積み上がる切り抜き。

押し入れの奥の缶。


ここ数か月で、自分のまわりには確かにいくつかの“流れ”ができ始めている。


最初は、ただの確認だった。

未来知識が本当に使えるのか。

過去は記憶どおりか。

そこから始まった。


次に、投稿で小さな実績を作った。

文章で外に出る。

読まれる。

金になる。


そこまでは来た。


そして今、ようやく次の問題が見えている。


「この先、どう広げるか」


投稿だけで大金持ちにはなれない。

それははっきりしている。


もちろん、ここから本格的に文章の道へ進む可能性がゼロではない。

だが今の自分の目標は、職業作家になることではない。


バブルの前に仕込み、資産を築き、崩壊を避け、その先へ行く。

そのためには、投稿はあくまで助走の一つだ。


けれど、その助走は思っていた以上に重要だった。


なぜなら、ここで手に入るものがあるからだ。


信用。

名前。

文章力。

観察力。

そして、自分の力で金を生む感覚。


どれも、あとで何かを始める時の土台になる。


前世の自分は、いきなり結果だけを欲しがっていたのかもしれない。

土台を育てることの価値を、どこかで軽く見ていた。


だが今は違う。


土台があれば、勝てる場面でちゃんと勝てる。

逆に、土台がなければ、せっかく未来を知っていても使い切れない。


「十年ある」


小さく呟く。


バブルまで、まだ時間はある。

長いようでいて、実際にはそこまで長くない。


投稿を続ける。

金を分けて管理する。

情報に金を払う。

名前を残す。


全部、地味だ。

派手な逆転劇ではない。

今のところ、周囲から見れば“ちょっと文章が得意な子供”でしかないだろう。


でも、それでいい。


大事なのは、人にどう見えるかより、自分がどこへ向かっているかだ。


雨音を聞きながら、恒一は目を閉じた。


やがて来る時代を思う。


家庭用ゲーム機。

消費の変化。

株。

土地。

熱狂。

バブル。

そして崩壊。


知っている。

知っているからこそ、焦らなくていい。


今やるべきことは、まだ大きく賭けることではない。

大きく賭けられる自分を作ることだ。


たとえば、もっと別の媒体へ投稿することもできる。

文章で人の役に立つ形を探すこともできる。

知識を直接売るようなやり方だって、いずれは考えられる。


今はまだ形になっていない。

でも、種は見えてきた。


投稿の先にあるもの。

それは単なる謝礼ではない。


外とつながる回路だ。


前世では、その回路を持たないまま会社に閉じ込められていた。

収入源も評価軸も一つだけ。

だから折れた時に立て直せなかった。


だが今度は違う。


小さくても、自分で作る。

複数持つ。

育てる。


それが、この先の人生の方針になる。


「……やってやる」


声に出すと、不思議と胸が静かになった。


十歳の体。

昭和五十年。

まだ何者でもない子供。


それでも、高瀬恒一は知っている。


この地味な数か月は、きっと後になって大きな意味を持つ。

誰も気づかないところで積み上げたものが、やがて時代の波に乗る時の足場になる。


雨はまだ降っていた。


だが、その音はもう不安には聞こえなかった。

むしろ、地面を静かに湿らせ、芽を育てる雨のように思えた。


恒一は目を閉じる。


投稿の先へ。

名前の先へ。

そのずっと先にある、自分だけの勝ち筋へ。


二度目の人生は、ようやくその輪郭を見せ始めていた。

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