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昭和に逆行した俺、バブル前に仕込んで億万長者になる  作者: 柿の木


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挿話④ 続いていく投稿

雨の気配がまだ遠い、蒸し暑い午後だった。


編集部の片隅では、今日も読者投稿の封筒が積まれていた。


誌面の中心を作るのは特集記事で、会議でも話題になるのは広告と売上だ。

読者投稿のページなど、編集部の中ではどうしても“後回しになりやすい場所”だった。


それでも、若い編集者の中には、その欄を妙に大事にする者もいる。


「これ、またあの子です」


仕分けをしていた若手編集者が、一通の封筒を軽く持ち上げた。


向かいの机でゲラを読んでいた先輩編集者が、顔を上げる。


「あの子?」


「前から続けて送ってきてる子ですよ。ほら、何回か載せた」


先輩は少し考えてから、「ああ」と声を漏らした。


封筒の宛名は丁寧だ。

字に無理な背伸びがない。

だが、子供にしては妙に落ち着いている。


若手が中身を取り出して目を通す。


「……やっぱり、前より良くなってます」


「見せろ」


原稿が渡される。


先輩編集者は黙って読み始めた。


途中で何度か視線を止める。

文体は相変わらず素朴だ。

だが、素朴なまま、前よりも狙いがはっきりしている。


家庭の中にある変化。

時間の使い方。

子供の視点から見た生活の流れ。


書いている内容自体は大仰ではない。

なのに、不思議と“先”を感じさせる。


「……ただ賢いだけじゃないな」


先輩が言う。


若手も頷いた。


「ですよね。前は『面白い子がいる』くらいだったんですけど、今回はなんというか……書き方を覚えてきてる感じがします」


「前に載せた時の誌面を、ちゃんと読んでるんだろうな」


「修正してきてる、と」


「そういうことだ」


編集部に届く投稿の多くは、一度送ってきて終わる。

返事が気に入らないのか、落ちたからなのか、生活が変わったのか。理由はわからない。とにかく続かない。


だが、ごくまれにいる。

返事を読み、掲載欄を読み、自分で直して、また送ってくる相手が。


そういう相手は、目立つ。


先輩編集者は原稿を机の上に置いた。


「載せるなら今回も小さめだな。でも、切る理由はない」


「コメント、少し足しますか?」


「そうだな。あまり特別扱いしすぎるなよ。ただ、継続して見てるってことは伝わるくらいでいい」


若手は赤鉛筆を持ちながら、原稿の上に書かれたペンネームを見た。


前と同じ名前。


統一してきている。


「名前、揃えてきましたね」


「なら、向こうも残す気なんだろ」


先輩は何でもない調子で言ったが、その一言は若手の中に残った。


残す気。


たしかに、そうだ。


ただ投稿したいだけの子なら、毎回の名前など気にしない。

けれど、この相手は違う。

載ることを目的にしているだけではなく、“継続して載る自分”を作ろうとしている。


子供のすることにしては、少しだけ早すぎる発想だった。


「将来どうなるんですかね、この子」


若手がそう漏らすと、先輩編集者は鼻で笑った。


「気が早い」


だが、否定はしなかった。

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