表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昭和に逆行した俺、バブル前に仕込んで億万長者になる  作者: 柿の木


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/57

第16話:小さな実績の積み上げ方

ランキング62位になってテンション上がって書いちゃった

二本目の掲載と謝礼を受け取ってからというもの、高瀬恒一の毎日は、それまで以上に規則的になっていた。


学校から帰る。

手を洗う。

居間で母の声を聞きながらお茶を飲む。

それから机に向かう。


前世なら、机に向かうという行為そのものが苦痛だった。

会社で数字を見て、帰ってきてもまた何かを考えなければならない。そんな生活の果てにあったのは、達成感ではなく、ただ削られていく感覚だけだった。


だが今は違う。


畳の上に置いた小さな机。

開いたノート。

原稿用紙。

鉛筆。

その一つ一つが、自分の未来を少しずつ組み立てるための道具に見えた。


「……まずは整理だな」


恒一は、これまで掲載された投稿を切り抜いたノートを開いた。


一つ目の掲載。

二つ目の掲載。

その横には、もともと送った原稿の下書きと、編集後に掲載された文章の差が書き込まれている。


どこが削られたか。

どの表現が生き残ったか。

何を強調すると通りやすいか。


一見すると、十歳の子供がやる作業ではない。

だが今の恒一にとっては、むしろこのくらい当たり前だった。


前世で身につけたものの中に、決して無駄ではなかった技術がいくつかある。

その一つが、「うまくいった理由を分解する」ことだった。


会社では、それを“振り返り”だの“改善”だのという言葉で散々やらされた。

正直、やらされている時はうんざりだった。

成果を出しても、次の改善点。

失敗すれば、なおさら改善点。

永遠に終わらない反省会みたいなものだった。


だが今、そのやり方を自分のために使うと、不思議なほどしっくりきた。


「偶然で終わらせない」


小さく呟く。


一回通るだけなら、たまたまでもあり得る。

二回通っても、まだ運がよかったと言い張れなくもない。

けれど三回、四回と続けば、それはもう再現性だ。


そして、再現性のある行動は、いずれ収入になる。


この感覚は大きかった。


前世の投資失敗は、逆に言えば再現性のない行動の連続だった。

人の話に乗る。

焦って買う。

下がって慌てる。

勝ち方ではなく、感情の動かし方だけを繰り返していた。


今度は違う。


感情より先に、構造を見る。

なぜ通ったか。

なぜ読まれたか。

どこに価値があったか。


それを知れば、次も通せる。


机の上に原稿用紙を広げる。


次のテーマは、すでに決まっていた。

「最近の家庭で増えているもの」。

ただし、そのままでは弱い。


今までの投稿で編集部が拾っているのは、単なる観察ではなく、その観察の先にある“ちょっとした未来感”だ。

家庭の変化、遊びの変化、時間の使い方の変化。

読者が「たしかにそうかもしれない」と思える程度に、少しだけ先を見せる。


断言はしない。

子供の作文として不自然になるからだ。


だが、「こうなる気がする」「最近こう変わっているように見える」と書けば、未来知識は十分に武器になる。


「この辺りか」


鉛筆を走らせる。


最初の一文を書くまでに時間はかかった。

けれど書き始めると、前よりはるかに手が止まらない。


前は“通るかどうか”が不安で、どうしても言葉を探りすぎていた。

今は違う。

二回通っているという事実が、自分の中で小さな土台になっている。


絶対の自信ではない。

だが、「方向は間違っていない」と思える程度の確信はある。


それは、思っていた以上に大きい。


書きながら、恒一はふと居間のほうに意識を向けた。

父が新聞をめくる音。

母が夕食の支度をする音。

テレビの小さな音。


そういう家の空気そのものが、今の自分の文章の材料になっている。


前世では、家庭は休む場所ですらなかった。

寝に帰るだけ。

会話も短い。

互いに忙しいを言い訳にして、気づけば何も共有しないまま時間だけが過ぎていった。


だが今は、その一つ一つが見える。


母が特売の話をすること。

父が新聞の経済欄を読んで小さく唸ること。

近所の人の噂話。

商店街で売れているもの。


全部が、昭和という時代を生きる人間の息遣いだ。


未来を知っていることは強い。

でも、それだけでは駄目だ。

今この時代を生きている人たちの感覚を、自分も同じように知っていないと、文章に嘘が混ざる。


「未来だけじゃ足りないんだよな」


書きながら、そう思う。


結局、勝つのは“未来を知る男”ではなく、“未来を知った上で、今をちゃんと生きられる男”なのだろう。


数時間後、一本の原稿が仕上がった。


今までで一番整っている。

一番、投稿先の雑誌に合っている。

一番、載るイメージが持てる。


「……よし」


原稿を封筒に入れながら、恒一はそこでようやく少しだけ肩の力を抜いた。


これで終わりではない。

送って、読まれて、載るかどうかが決まる。

それでも、書き上げた時点で前進していることは確かだった。


食卓で、母が聞いてきた。


「また書けたの?」


「うん」


「最近ほんとに続いてるわね」


「まあ」


「偉いじゃない」


その何気ない一言に、恒一は少しだけ目を伏せた。


前世では、続けることそのものを褒められる機会なんてほとんどなかった。

結果がすべて。

出せなければ叱られる。

出しても次が来る。


けれど今は違う。

まだ小さな結果しか出していないのに、それでも“続けていること”を見てくれる人がいる。


それが、今の恒一には妙に沁みた。


その夜、布団に入ってからも、頭の中では次のことを考えていた。


次も通せるか。

通した先で何を積むか。

どうすれば投稿以外の形にも広げられるか。


答えはまだない。

だが、少なくとも今ははっきりしていることが一つある。


自分は、もう「たまたま一度雑誌に載った子供」では終わらない。


ここから先は、小さな実績を、ちゃんと積み上げていく段階だ。


その実感が、静かに胸の底に根を張り始めていた。

後数本上げます

感想や評価をお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ