挿話③ 投稿者ではなく、書き手として
月末の編集会議が終わったあと、若手編集者は投稿原稿の束を抱えて席に戻った。
誌面の大きな特集は別の担当が作る。
自分が任されているのは、読者欄や小さな生活記事、投稿ページの整理だ。
派手さはない。
だが、ここにも確かに“雑誌の顔”がある。
「その子、また来てるのか?」
隣の席から先輩編集者が声をかける。
「来てます。しかも今回、かなりいいです」
「見せろ」
原稿を渡す。
先輩編集者は黙って読む。
途中で一度だけ眉が動いた。
前回までより、目線が安定している。
言いたいことが先に立ちすぎず、読み手の呼吸を少し覚え始めている。
まだ幼い。
だが、幼いなりに“書き手”の癖が出てきていた。
「……これ、本当に十歳か?」
「そこなんですよ」
若手編集者も小声になる。
「賢い子なんだとは思います。でも、それだけじゃない感じがして」
「大人びてる、か」
「はい。ただ、嫌味じゃない」
先輩編集者は原稿を机に置き、背もたれに寄りかかった。
投稿欄には、上手い文章はたまに来る。
だが上手いだけの文章は、案外残らない。
この子の原稿には、少しだけ“次も読みたい”がある。
そこが違った。
「載せよう」
「はい」
「それと、前回の名前と同じだな?」
「同じです。継続して送ってくるつもりみたいで」
「なら、その名前で覚えておくか」
若手編集者は小さくうなずいた。
継続して送ってくる投稿者。
少しずつ良くなる文章。
誌面に合う視点。
こういう相手は、育つことがある。
もちろん、ほとんどは途中で来なくなる。
受験、飽き、家庭の事情、いろいろな理由で消える。
だが、もし残るなら。
「将来、うちに来たりしてな」
若手が冗談めかして言うと、先輩は鼻で笑った。
「十年早い」
「それでも、ちょっと楽しみじゃないですか」
先輩編集者は否定しなかった。
机の上の原稿に、赤ペンで小さく印をつける。
掲載候補。
たったそれだけの印だ。
だがその印が、まだ見ぬ十歳の少年の人生を、ほんの少しだけ前へ押すことになるかもしれなかった。
新作描きました良かったら見てください
神様転生したはずが赤ん坊の自分に転生していた件
今日はここまで
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