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第141話:人は、“未来を感じる場所”へ集まり始める

冬。


昭和五十七年。


朝。


冷たい空気。


窓ガラスが白く曇っている。


ストーブの灯油臭さ。


味噌汁の湯気。


ラジオから流れるニュース。


「全国で大型複合施設の計画が増加――」


(来てるな)


恒一は新聞を広げる。


地方欄。


大型店。


郊外開発。


道路整備。


そして最近増え始めた言葉。


“複合化”


(少し早いけど、始まった)


未来では。


買い物だけの場所は弱くなる。


人は、“未来を感じる場所”へ集まり始める。


母が炬燵に入ったまま言う。


「最近、駅前の若い子増えたわね」


「戻ってきてるから」


短く返す。


「でも、郊外も増えてるんでしょ?」


(両方だ)


そこが難しい。


机の上。


大学ノート。


地方都市地図。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


第四工場都市。


さらに新しい分類。


・未来提示型

・滞在進化型

・複合吸収型

・旧型商店街


(ここから本格的に差が出る)


変われる街。


変われない街。


未来では、その差が致命傷になる。


学校へ向かう。


朝の道路。


以前よりさらに車が増えた。


駅前を通り抜ける車。


郊外へ向かう家族。


配送トラック。


全部が増えている。


乾物屋。


店主が道路をぼんやり見ていた。


昔なら、人が歩いていた道。


今は車が流れていく。


(時代変わったな)


静かに。


だが確実に。


教室。


冬の空気。


ストーブ。


クラスメイトたちが騒いでいる。


「郊外に映画館できるらしいぞ」


「マジ?」


「ゲームセンターも入るって」


(複合型か)


来たな。


未来の地方消費モデル。


“一日過ごせる場所”。


それが強い。


昼休み。


恒一は窓の外を見る。


グラウンド。


走る生徒。


笑い声。


人は、“時間を過ごせる場所”へ集まる。


街も同じ。


放課後。


今日は第一都市へ向かった。


冬の駅前。


以前より人はいる。


しかも、“若い人間”が増えていた。


学生。


高校生。


カップル。


喫茶店。


広場。


小さなイベント。


以前の“買うだけの街”とは違う。


(変わったな)


かなり。


会館へ向かう。


中へ入る。


煙草。


熱いお茶。


紙資料。


昭和の空気。


だが今日は、少し違う。


設計会社。


広告会社。


イベント会社。


以前より、“新しい業種”が増えている。


(そこまで来たか)


会長が笑う。


「最近、“若い人呼びたい”って話ばっかだ」


(当然だ)


未来では。


若い人間が来なくなった街から弱る。


広告会社の男が資料を広げる。


駅前広場。


イベント。


照明。


小型ステージ。


「“休日に行きたくなる駅前”を作りたいんです」


(いい)


かなり。


銀行の男も頷く。


「最近、本部でも“体験型消費”って言葉が出始めてます」


(早いな)


未来では当たり前。


だが今はまだ先端。


地主の男が難しい顔をする。


「昔は店並べりゃ人来たんだがな」


(時代変わった)


「今、人は未来感じる場所行く」


恒一が言う。


会館が静かになる。


「古いだけじゃ来ない」


「新しいだけでも弱い」


「“この街変わる”って思わせる場所に集まる」


それだけ。


広告会社の男が息を呑む。


「……それです」


「最近、人の流れ見てると、本当にそうなんですよ」


(見え始めたな)


未来の空気が。


会長が煙草を置く。


「つまり、“期待感”か」


(近い)


地方は、“未来が無い”と思われた瞬間に弱る。


逆に。


“ここ変わりそうだな”と思わせれば、人は戻る。


その時。


イベント会社の男が新しい計画を出した。


駅前イルミネーション。


冬祭り。


学生参加型イベント。


小規模ライブ。


(完全に流れ変わったな)


昭和五十七年。


地方駅前が、ただの商業地じゃなくなり始めている。


夕方。


第一都市の駅前を歩く。


以前閉まっていた店。


そこに新しい雑貨屋。


若い店主。


喫茶店には学生。


広場ではイベント準備。


一方。


大量消費は郊外へ流れていく。


(住み分け完成し始めてる)


未来では。


全部を奪おうとした街が消える。


役割を作れた街だけが残る。


その時。


恒一は高校生たちの会話を聞いた。


「最近この街ちょっと面白くなったよな」


「分かる」


「前より来たくなる」


(これだ)


“来たくなる”。


それが街の価値になる。


夜。


家へ帰る。


静かな部屋。


ストーブ。


時計の音。


机へ向かう。


大学ノートを開く。


新しいページ。


・昭和57年冬

・未来提示型駅前

・体験型消費開始

・“期待感”形成


さらに下。


・街は“未来を感じさせる力”で差が出る


書き足していく。


(面白い)


未来では。


地方の勝敗は、“今”じゃ決まらない。


“未来がありそうか”で決まる。


人。


金。


店。


全部。


期待がある場所へ流れる。


布団へ入る。


静かな夜。


目を閉じる。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


第四工場都市。


さらに郊外。


全部浮かぶ。


地方は、まだ完全には終わっていない。


だが。


未来を見せられない街から、静かに人が離れ始めていた。


そして恒一だけが知っている。


この流れが、数年後、日本全体を狂わせる“土地神話”へ繋がっていくことを。

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