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第138話:変化に合わせた街だけが、次の時代へ残っていく

梅雨。


昭和五十七年。


朝。


雨音。


屋根を叩く水の音が、静かに部屋へ響いている。


湿った空気。


畳の匂い。


扇風機がゆっくり回っていた。


テレビでは朝のニュース。


「郊外型ショッピング施設の建設が全国で増加――」


(完全に流れになってきたな)


恒一は新聞をめくる。


地方欄。


ロードサイド開発。


住宅地拡張。


国道沿い再編。


以前は“珍しかった記事”が、もう普通になり始めている。


母が麦茶を置く。


「最近ほんと、車の話ばっかりねえ」


「生活変わるから」


短く返す。


机の上。


大学ノート。


地図。


地方都市分析。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


第四工場都市。


さらに新しく増えたページ。


・滞在型駅前

・目的地分離型

・郊外消費集中型


(ここからだな)


本当に差が出始めるのは。


学校へ向かう。


雨の通学路。


駅前。


以前は朝から人がいた喫茶店。


今は高齢者が中心。


代わりに、郊外側のファミレスは若い家族層で混んでいるらしい。


(完全に分かれ始めてる)


人の流れが。


駅へ向かう。


道路を見る。


車。


配送トラック。


大型店方面へ流れる人。


地方の“生活動線”そのものが変わり始めていた。


教室。


窓の外は雨。


昼休み。


クラスの男子が騒いでいる。


「郊外のゲーム屋デカすぎた」


「駐車場広いし、全部揃ってた」


「駅前行かなくなったわ」


(典型だな)


未来でも同じ。


“一箇所で全部済む”。


それが郊外側の強みになる。


放課後。


今日は第三都市へ向かった。


港町。


雨の港。


灰色の空。


濡れたコンテナ。


以前より道路が広がっている。


港側から駅前への歩道も整備が進んでいた。


(かなり変わったな)


商工会の男が走ってくる。


「最近、駅前に若い人戻り始めてるんです!」


かなり嬉しそうだ。


「喫茶店も増えました!」


(いい)


港町型は、“滞在”を作れる。


そこが強い。


歩く理由。


止まる理由。


話す理由。


それを作れる街は残る。


会館へ向かう。


中には銀行。


地主。


港湾関係者。


さらに今日は、地元商店主が多かった。


空気は以前より明るい。


会長が笑う。


「港町側、かなり空気変わったぞ」


(定着し始めてる)


以前は“通り抜けるだけ”。


今は少し、“止まる”。


それだけで街は変わる。


銀行の男が資料を広げる。


「最近、港側の空き店舗問い合わせ増えてます」


(来たな)


完全な投機ではない。


まだ実需。


だが未来へ繋がる。


商店主の男が言う。


「若い連中が喫茶店やりたいって来るんですよ」


(早いな)


だが自然。


駅前は“買い物だけの場所”じゃなくなる。


その時代が来る。


港湾関係者の男が苦笑する。


「昔は“物を売る場所”だったんだけどなあ」


(変わる)


「集まる場所になる」


恒一が言う。


会館が静かになる。


「郊外は買う場所」


「駅前は止まる場所」


それだけ。


銀行の男がゆっくり頷く。


「……住み分けですか」


(近い)


未来では。


全部を奪い合った街が崩れる。


役割を変えられた街だけが残る。


その時。


地方銀行の男が新しい資料を出した。


「最近、“駅前交流施設”の話が増えてます」


(もうそこまで来たか)


小規模ホール。


休憩空間。


イベントスペース。


駅前を“滞在型”へ変える動き。


未来では当たり前になる。


だが今はまだ先進的だった。


夕方。


第三都市の駅前を歩く。


喫茶店。


小さな居酒屋。


学生。


港帰りの作業員。


以前より、人が“残っている”。


一方。


大量消費は郊外へ流れていく。


(これが答えだな)


全部を奪おうとしない。


役割を変える。


それだけで生き残れる街はある。


夜。


家へ帰る。


雨音。


静かな部屋。


机へ向かう。


大学ノートを開く。


新しいページ。


・昭和57年梅雨

・駅前滞在型成功例

・郊外大量消費化

・地方役割分離開始


さらに下。


・“昔と同じ”を捨てた街は残る


書き足していく。


(面白くなってきた)


未来では。


地方はもっと苦しくなる。


だが、“変われた街”は残る。


人流。


導線。


滞在。


全部。


地方はまだ死んでいない。


変われるなら。


まだ次の時代へ行ける。


布団へ入る。


目を閉じる。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


第四工場都市。


全部浮かぶ。


少しずつ。


だが確実に。


地方は、“次の時代の形”へ変わり始めていた。

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