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第130話:街を動かすと、国の側が見え始める

朝。


いつも通りの空気。


畳の匂い。

台所から味噌汁の湯気。

焼ける鮭の音。


窓の外では商店街のシャッターが順番に開いていく。


昭和の朝。


何も変わらない。


だが恒一の机の上だけは、もう地方都市の地図だらけだった。


第一都市。


第二都市。


第三都市――港町。


駅前。

港。

工場。

導線。


全部に赤や青の線が引かれている。


(やっぱり違うな)


第三都市は、第一・第二とは崩れ方が違う。


駅前だけを直しても弱い。


港と繋げないと、人が戻らない。


母が机を見る。


「ほんとに小学生の机じゃないわね」


「まだ少ないよ」


短く返す。


新聞を開く。


地方欄。


港湾整備。

工場再編。

再開発。


以前より記事が増えている。


(国も動き始めてるな)


まだ小さい。


だが流れは見える。


学校へ向かう。


通学路。


乾物屋。

薬屋。

文房具屋。


いつもの景色。


だが今の恒一には、“人が流れる方向”が自然に見えていた。


教室。


「おはよう」


「おはよう」


席に座る。


ノートを開く。


今日のページ。


・港町型

・生活導線分離

・港側流出


さらに。


・駅前―港接続


(ここだ)


授業が始まる。


黒板を書きながら、頭の中では第三都市の導線を整理している。


港から駅。


駅から商店街。


全部切れている。


だから人が分散する。


昼休み。


教室ではまた土地の話。


「最近ほんと土地ヤバいらしいな」


「港町の方も上がってるって」


「投資家来てるらしい」


(早いな)


完全に“熱”が広がり始めている。


放課後。


第三都市へ向かう。


港町。


駅を降りる。


潮の匂い。


工場音。


トラック。


(やっぱり流れ違う)


第一都市とは別物。


商工会の男が走ってくる。


「恒一君!」


かなり興奮している。


「始まります!」


「どこ」


短く返す。


「港側導線です!」


歩く。


駅前から港側へ向かう道。


以前は暗かった。


狭かった。


人が抜けていた。


だが今日は違う。


工事用の白線。


古い柵の撤去。


歩道拡張。


(動いたな)


港導線の再構築。


第一都市とも第二都市とも違う。


第三都市専用の再生。


「港側から駅前へ人を戻します!」


商工会の男が言う。


「あと、途中に入口店舗も!」


(いい)


流れを繋ぐ。


それだけで街は変わる。


港側を見る。


作業員。


測量。


不動産屋。


銀行。


全部動いている。


(熱いな)


投機も入っている。


だが、まだ制御できる段階。


その時。


銀行本部の男が近づいてくる。


今日は空気が違う。


後ろにいる男も違う。


スーツ。


だが銀行ではない。


(……役所側か)


「君」


年配の男が言う。


「少し話せるか」


「少しなら」


短く返す。


港近くの古い会館へ向かう。


中へ入る。


空気が重い。


銀行。

地主。

港湾関係者。


そして――。


見慣れない男たち。


会長が低い声で言う。


「紹介する」


「中央側の人だ」


(来たな)


国家側。


男が名刺を出す。


役所系。


さらにもう一人。


国会議員秘書。


(早いな)


だが当然だ。


地方都市が短期間で動いている。


しかも複数。


放置できない。


「初めまして」


男が言う。


「話は聞いています」


(どこまでだ)


「少し」


短く返す。


男は地図を見る。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


全部並んでいる。


「正直、驚いています」


「普通、地方駅前は戻らない」


(そうだな)


未来ではもっと酷い。


「ですが」


男が続ける。


「あなたは戻している」


沈黙。


会館が静かになる。


「最近、省庁側でも地方再生の話が増えていまして」


(始まったな)


政策側。


「特に港町の導線整理は興味深い」


役所の男が言う。


「駅前だけでなく、“生活導線”そのものを見ている」


(見えてるな)


「人流だから」


短く返す。


「人が通らない場所は死ぬ」


それだけ。


空気が止まる。


地主も銀行マンも黙っている。


完全に、“小学生”として見ていない。


国会議員秘書が苦笑する。


「本当にその歳ですか?」


(違うな)


そう思う。


だが言わない。


「見る場所違うだけ」


短く返す。


役所の男が港側を見る。


「これ、他の港町でも使えますか?」


(使える)


「多分」


短く返す。


周囲が少し笑う。


だが本気だ。


会長が低い声で言う。


「最近、他県からも問い合わせ増えてる」


銀行マンも頷く。


「中央側も動き始めてる」


(繋がったな)


地方。


金融。


港。


政策。


全部。


夕方。


港を見る。


コンテナ。


倉庫。


古い商店街。


その間を、人が少しずつ戻り始めている。


以前は切れていた流れ。


だが今は違う。


(動くな)


第三都市も。


そして――。


国まで。


夜。


家に帰る。


机に向かう。


ノートを開く。


新しいページ。


・港町型再生

・生活導線接続

・駅前―港導線統合


さらに下。


・国家側接触


(早いな)


だが悪くない。


未来では地方はもっと崩れる。


人口流出。


港湾衰退。


シャッター街。


全部知っている。


だから先に動く。


流れを読む。


都市を読む。


国の動きまで読む。


静かに。


確実に。


誰より早く。


布団に入る。


目を閉じる。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


全部浮かぶ。


崩れ方は違う。


だが、“流れ”で繋がっている。


そして今――。


その流れは、地方だけでは終わらなくなっていた。


国の側まで、少しずつ動き始めていた。

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