第12話:少しだけ有名な子
二本目の投稿を出してから数日後。
恒一は学校で、妙な視線を感じるようになっていた。
理由は単純だ。
雑誌掲載のことが、思ったより広まっていたのである。
「なあ高瀬、お前って作家になるの?」
昼休み、山本が弁当を食べながら聞いてきた。
「いや、別に」
「でも雑誌に載ったんだろ?」
「ちょっとだけだよ」
そう答えても、周囲の反応は薄れない。
子供の世界では、“雑誌に載った”というだけで十分に珍しい。
しかも恒一は勉強もできる。
目立ちたくなくても、すでに少し目立っていた。
(面倒だな……)
だが、悪いことばかりではない。
教師の見る目が変わる。
近所の大人に話が伝わる。
親の信頼も増す。
この“ちょっとだけ知られている”状態は、扱い方次第で武器になる。
放課後、担任に呼び止められた。
「高瀬、文章書くの好きなら、学級新聞みたいなのやってみるか?」
一瞬、考える。
引き受ければ目立つ。
だが経験にはなる。
学校という小さな社会の中で、“任される側”に回れるのは大きい。
「できる範囲なら」
そう答えると、担任は嬉しそうにうなずいた。
「助かる。無理はするなよ」
帰り道、恒一はその意味を考え続けた。
学級新聞。
大したものではない。
だが、“人に読ませる文章”を書く練習にはなる。
しかも読者の反応が近い。
何が伝わって、何が伝わらないか。
それを肌で知るにはちょうどいい。
(やる価値はある)
長期戦では、目先の収益だけを追うのは危険だ。
文章力、観察力、信用。
そういう“目に見えにくい資産”も育てておくべきだ。
家に帰ると、母が少し誇らしげに言った。
「近所のおばさんがね、恒一くんすごいわねえって」
「……やめてほしいな」
「なんでよ。いいことじゃない」
いいことではある。
だが、持ち上げられすぎるのは怖い。
前世の経験上、人は期待した分だけ勝手に失望する。
だからこそ、距離感が大事だった。
「そんな大したことないから」
そう言って席を立つ。
だが背中越しに聞こえた母の声は、どこか嬉しそうだった。
「それでも、私は嬉しいわよ」
足が少しだけ止まる。
何でもない一言なのに、胸に刺さる。
前世では、こういう言葉をきちんと受け取る余裕がなかった。
(……まあ、悪くないか)
少しだけ有名な子。
そのくらいなら、今はちょうどいい。
今まで読み専だったけどこんなストリートをもっと読みたいと思ったけどないから書いてみました
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