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第108話:増やすほど、支配が強くなる

朝。いつも通りの空気、畳の匂い、台所から味噌汁の湯気と包丁の音、何も変わらないはずなのに頭の中だけが先に進んでいる、三店舗は回る、紙もできた、雑誌も通った、なら次は増やすだけだが増やし方が違う、同時にやる、数と金、その二つを一度に動かす、それが今回の軸になる。


「恒一、朝ごはん冷めるよ」


母の声。


「今行く」


短く返す。


(今日は動くな)


そう思う。


席に座る、味噌汁を飲む、温度も味もいつも通り、だが考えているのは別のこと。


「最近遅いわね」


母が言う。


「ちょっと忙しい」


「学校で?」


「それも」


それだけ言う。


母はそれ以上聞かない。


(いいな)


そう思う。


余計な説明はいらない。


外に出る、空気は軽い、子供の声、自転車、いつも通りの通学路。


(順番だな)


頭の中で整理する。


まず増やす、次に縛る。


その順番だけ。


学校に入る、教室のざわつき、席に座る、ノートを開く。


書く。


・複製(開始)

・仕入れ(開始)


(同時だな)


どちらかじゃ遅い。


増やすだけなら薄い。


金だけなら広がらない。


なら両方。


授業は流れる、黒板の字は見ているが中身は入れていない。


(誰に渡すか)


考える。


三店舗の店主。


すでに理解している。


「使える」


それだけ。


放課後、そのまま田中の店へ向かう。


入口、止まる、入る、回る、もう確認する必要もない。


中に入る。


「来たか」


田中が声をかける。


「はい」


「今日は何やる」


(来るな)


そう思う。


「増やす」


短く言う。


「いきなりか」


田中が笑う。


「同時」


それだけ。


「同時?」


「店」


一拍。


「金」


それだけ。


田中が少し黙る。


「……両方か」


(理解してるな)


「そう」


短く返す。


奥の席に座る。


紙を出す。


昨日書いたもの。


・入口前

・入口

・中

・理由


それだけの紙。


「これ渡す」


短く言う。


田中が覗く。


「ほんとにこれだけでいけるのか」


(いける)


「見せる」


それだけ。


「見せて、やらせる」


田中が頷く。


「なるほどな」


「で、誰に?」


(決まってる)


「三人」


短く言う。


「店主か」


「そう」


それだけ。


「呼べるか」


田中が立ち上がる。


「呼べる」


それだけ言って外に出る。


(早いな)


そう思う。


動きがいい。


数分後、三人が来る。


一人目。


「どうしたんですか」


二人目。


「また何かやるんですか」


三人目。


「今日は何ですか」


(いいな)


全員前向きだ。


「座って」


短く言う。


紙をテーブルに置く。


「これやる」


それだけ。


三人が見る。


沈黙。


「……これだけですか」


一人目が言う。


「これだけ」


短く返す。


「入口前、入口、中、理由」


指で順番を示す。


「順番守る」


それだけ。


二人目が聞く。


「これ、他の店でも?」


「やる」


短く言う。


「同じ」


それだけ。


三人が顔を見合わせる。


「……いける気がします」


小さく言う。


(通ったな)


そう思う。


「やるか」


田中が横から言う。


「任せる」


それだけ。


三人が頷く。


「やります」


一人目。


「やります」


二人目。


「やります」


三人目。


(増えるな)


そう思う。


これで三店舗追加。


自分は動かない。


それでも増える。


「もう一つ」


恒一が言う。


三人が顔を上げる。


「仕入れ」


それだけ。


「仕入れ?」


一人目が聞く。


「まとめる」


短く言う。


「同じ定食」


一拍。


「同じ材料」


それだけ。


二人目が眉をひそめる。


「安くなるってことですか」


「なる」


短く返す。


三人目が言う。


「その代わり?」


(来たな)


「使う」


短く言う。


「こっちから」


それだけ。


沈黙。


少し重い空気。


(ここが分岐だ)


そう思う。


一人目が口を開く。


「……それで回るなら」


一拍。


「やります」


二人目も続く。


「安くなるなら助かります」


三人目も頷く。


「やります」


(通った)


そう確信する。


ここで止まれば終わり。


だが通った。


「まとめる」


短く言う。


「量増やす」


それだけ。


田中が笑う。


「一気に来たな」


(当然だ)


そう思う。


やるなら一気。


外に出る。


空気は変わらない。


だが流れは変わる。


店が増える。


材料がまとまる。


金が動く。


(繋がるな)


そう思う。


夜。


家に帰る。


机に向かう。


ノートを開く。


書く。


・店舗(6)

・紙(配布)

・仕入れ(統一)


その下に。


・流れ(拡張)


(いいな)


やることは同じ。


迷いを消す。


詰まりを消す。


それだけ。


ただ範囲が広がる。


「速いな」


小さく呟く。


昨日までとは違う。


増え方が。


一つずつじゃない。


一気に。


「これでいい」


そう思う。


布団に入る。


目を閉じる。


三店舗だったものが六になるイメージ。


さらにその先。


同じ形で増えていく。


(止まらないな)


そう思う。


もう個人の範囲じゃない。


流れが勝手に動く。


その中にいるだけ。


「……次は」


小さく呟く。


さらに増やす。


さらに縛る。


さらに広げる。


その準備はもうできている。


「……面白いな」


そう思う。


流れは加速している。


止まらない。


その段階に、完全に入った。

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