第9話:小さな掲載
その知らせは、思ったよりもあっさりやってきた。
放課後、家に帰ると母が少し興奮した様子で雑誌を持っていた。
「恒一、これ! これ見て!」
「……何?」
受け取る。
表紙は、以前投稿した雑誌の系列誌だった。
ページをめくる。
母が付箋を貼ってくれている。
そこを開いて、恒一は目を止めた。
読者投稿コーナー。
小さな欄。
その中に、自分の文章が載っていた。
ペンネームつきで。
しかも、少しだけ編集部のコメントまで添えられている。
「……載った」
思わず声が漏れる。
本当に、小さな欄だ。
誌面全体から見れば、ほんの端っこにすぎない。
大きな特集でもなければ、原稿料が出るような扱いでもないかもしれない。
だが――
(載った)
それだけで十分だった。
自分の書いた言葉が、家庭の机の上ではなく、外の世界に出た。
印刷され、不特定多数の目に触れる形になった。
それは前世を含めても、初めての経験だった。
「すごいじゃない!」
母が嬉しそうに言う。
「たまたまだよ」
「たまたまで載らないでしょ」
その言葉に、恒一は少しだけ笑った。
確かにその通りだ。
たまたまではない。
狙って、考えて、通した。
小さいが、これは確かな成果だ。
夕食のとき、父もその雑誌を見ていた。
「へえ。載るもんなんだな」
「うん」
「お前、文章書くの好きなのか?」
少し考えてから、恒一は答える。
「……好きかもしれない」
それは半分本当で、半分違った。
文章が好きというより、書いたものが“通る”感覚が好きだった。
自分の考えを形にして、相手に届かせる。
その手応えが、今の恒一には何より魅力的だった。
翌日、学校でも少しだけ話題になった。
母が近所で話したのか、担任が知っていたのだ。
「高瀬、雑誌に載ったんだってな」
「はい、少しだけ」
「すごいじゃないか」
クラスでも何人かが「見たい」と言ってきた。
恒一は内心で少しだけ困る。
(目立ちすぎるのは避けたいんだが……)
とはいえ、ここで隠しすぎるのも不自然だ。
適度に褒められ、適度に流す。
その塩梅が大事になる。
「読者投稿みたいなものだから、大したことないよ」
そう言うと、逆に周囲は「へえ」と素直に受け取った。
自慢がないぶん、嫌味にもならない。
(これでいい)
帰宅後、恒一は一人で雑誌の掲載欄を見返した。
小さな活字。
短い文章。
だがそこには、確かに“実績”の種があった。
(次は、これを使う)
掲載された、という事実そのものが信用になる。
次の投稿のときにも使える。
将来、誰かに自分を売り込むときにも使える。
大きな金にはならない。
だが、金より先に必要なものがある。
名前だ。
実績だ。
“ただの子供じゃない”という印象だ。
「……悪くない」
静かに呟く。
昭和の空気の中で、自分の輪郭が少しずつできていくのを感じる。
焦る必要はない。
大きく勝つためには、小さく勝つことを積み重ねればいい。
今まで読み専だったけどこんなストリートをもっと読みたいと思ったけどないから書いてみました
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