第8話:目立ちすぎるわけにはいかない
落選の返事を受け取ってから、恒一は少しだけ行動の仕方を変えた。
勉強も、投稿も、全力ではやる。
だが、“見せ方”を調整する。
「高瀬、また満点か?」
小テストの答案を返しながら、担任が言う。
教室が少しざわつく。
「すげえな」
「最近ずっとだよな」
(まずいな)
悪い意味ではない。
むしろ理想に近い。
だが、理想に近すぎる。
目立ちすぎると、面倒も増える。
教師の期待、同級生の嫉妬、親の過剰な期待。
どれも長期戦には邪魔だ。
(今は“優秀”でいい。“異常”は早い)
だから次の小テストでは、あえて一問だけ計算ミスをした。
授業中も、全部に手を挙げるのはやめた。
分かっていても、三回に一回くらいに抑える。
すると不思議なもので、印象はほとんど変わらない。
「あいつは賢い」
その評価は残ったまま、息苦しいほどの注目は集まらない。
(これくらいでいい)
帰宅後、恒一は原稿を書きながら、同時に“自分の見せ方”についても考えていた。
長い連載になるなら、序盤で主人公が万能すぎると後がきつい。
何でもできると、問題が問題にならなくなる。
読者の驚きもすぐ薄れる。
(強みは必要。でも、余白もいる)
この二度目の人生で、自分は確かに有利だ。
だが神ではない。
未来の知識も曖昧な部分があるし、子供の体では動ける範囲も限られる。
その制限があるからこそ面白い。
……と、前世で読んだ物語のことまで思い出して、少し笑った。
そのとき、父が珍しく早く帰ってきた。
「恒一、最近先生に褒められてるらしいな」
「え?」
「母さんが言ってた」
少しだけ身構える。
だが父の表情は厳しくない。
むしろ、どこか嬉しそうだった。
「勉強できるのはいいことだ。無理しすぎるなよ」
「……うん」
それだけ言って、父は新聞を広げた。
短い会話だった。
だが、その短さが逆によかった。
押しつけでもなく、過剰な期待でもない。
ただ、見てくれている。
それがわかった。
(こういうの、悪くないな)
前世では、家族との時間すら“後でいい”と後回しにしてきた。
だが人生を作るのは、金だけじゃない。
この家、この時間、この距離感。
それも、ちゃんと守っていきたいと思った。
夜、机の上で三本目の原稿が形になっていく。
今度は“流行”ではなく、“家計と消費”を少し絡めた内容だった。
子供の目線で見た家庭の変化。
それなら不自然じゃないし、編集側の目にも留まりやすい。
(急がない)
金は欲しい。
早く種銭も欲しい。
だが、今ここで雑に結果を求めれば、長い目で見て損をする。
(積み上げだ)
昭和五十年。
バブルまで、まだ時間はある。
この長い助走をどう使うかで、最後の跳び方が決まる。
恒一はそう確信していた。
今まで読み専だったけどこんなストリートをもっと読みたいと思ったけどないから書いてみました
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