可愛い彼女はブラックコーヒー、俺はミルクティー。【お局さまは15歳?外伝】
☆「職業小説企画」参加作品です。【設計補助】
☆『お局さまは15歳?』の外伝になります。(未読でも影響はありません)
◇
清水賢太は首に巻いていたタオルで顔を拭った。
季節は夏。
トタンで覆われた工場の暑さは半端なく、個人にスポットクーラーが与えられているが、それでは追いつかないくらいに汗が流れ落ちる。
大きく溜息を吐くと時計を見る。
すると同時にチャイムが鳴った。
「お待たせしました! 休憩です!!」
扉が勢いよく開けられて、二階の事務所に普段はいる大井姫乃が湯飲みとゼリーを載せた盆を手にして入ってきた。
大井姫乃の見た目は可愛い。
黙っていれば、ふわふわとした雰囲気に、たいていの男が振り返るだろう。
それを知っていて、わざわざ仕事場に不釣合いな色の服を着ているのではないかと思うことがある。
どうせ上に作業服を着るのだから、中にどれだけ可愛い服を着ても自己満足にしかならないだろうに。
清水は彼女が手にしているお盆に目をやる。今日の三時のおやつはオレンジジュースに、ナタデココの入ったフルーツゼリー。
彼女は湯飲みにオレンジジュースを注いで工場の従業員に渡していく。
清水も受け取って、休憩スペースにあるパイプ椅子に座り込んだ。
冷たく、変に甘い液体が喉を通り過ぎる。
テーブルの奥にある菓子器を引き寄せて海老せんべいを頬張った。
お腹が空いているわけじゃない。
塩分と水分。そして糖分。
一番暑さがピークの三時の休憩にしっかりと補給をしておかないと後が苦しくなる。
「姫ちゃん、明日はヨーグルトにしてよ」
「ヨーグルトですね。いいですよ!」
奥田の言葉に、にっこりと姫乃が笑う。
そして作業着のポケットからメモ帳を取り出してペンを走らせた。
「あ、後は今日の残業パンはどうしますか?」
残業パンは二時間以上残業する者に、会社から与えられるパンだ。百五円以内という規定があるので頼めばパンではなくおにぎりにすることもできるが、山本テクニックではそう呼ぶ。
「イチゴジャム」
「小倉ネオ」
「メロン」
「あ、鈴木さん、メロンってメロンパンですか? それともコッペパンのメロンですか?」
「コッペパンのメロンで!」
「了解です!!」
入社して四ヶ月、相変わらず工場のオヤジに囲まれて姫乃は元気に笑う。
この子は本当に元気でくるくるとよく動く。顔も体も。
「清水さんは?」
不意に顔が勢いよく回り、自分に目を向けられる。
まるでお化け屋敷の人形のような奇妙な首の動きに、清水は苦笑を零す。
「俺も小倉ネオ」
「はい。承りました~」
明るく笑ってメモをしまう。
世の中は不景気だが、納期がある以上残業もやむをえない。
お盆休み前の納期は余計にシビアだ。
清水は足取り軽く工場から出て行く姫乃を見て溜息を吐いた。
◇
高校を卒業して、清水はすぐに就職をした。
工業高校の機械科をでて、地元の小さな金型会社に就職が決まった。
このご時世に就職が決まったのはありがたい。
就職先の山本テクニックは新幹線の高架近くの、小さな工場が集まっている中に建っている。こういう工場ばかりが集まっている地域を工業団地と言ったりもする。
本来は大企業の工場が集まっているところに使われる言葉だが、うちのような小学校の体育館くらいの工場が連なっているところでもそう呼ばれたりもするらしい。
新幹線や電車の高架付近はうるさい場所だから、騒々しい加工などをする工場などにうってつけの立地なのだろう。トタンでできた灰色がかった工場がまるでスーパーのいなり寿司のように行儀よく並んでいる。
清水は高校三年生の三学期から自動車教習所に通い、卒業直後には免許を取得した。取った免許はマニュアル。軽トラックを運転する機会もあるからと、内定をくれた会社「山本テクニック」からAT限定は取らないようにと言われていたからだ。
せっかくだから、会社には車で通っている。
なにしろ清水の住む北苑市は大手自動車会社があり、バスや電車の本数が明らかに少ないのだ。絶対に市の陰謀だ。大手企業におもねっているのだ。そうに違いない。
でも、なんだか大人のようだ。
車通勤して、車内で朝ご飯も食べてしまう。
‥‥‥こういうのって少し照れてしまう。
つい半年前まで学生服を着て学校に通っていたのが嘘のようだ。
ちなみに同期は先程の彼女だけ。
全員で十二人しかいない小さな会社だ。
二人も雇ってくれたのが不思議なくらいだ。
清水が現場の追加要員、姫乃が事務系の追加要員ということなのだろう。社長の奥さんがしていた経理と雑務を、経理の社員と雑務と設計補助で分けると聞いたことがある。
なかなか二階の情報は下の工場には入ってこない。
清水は(まあ、俺には関係ないな)と首を振って作業に戻る。工業高校では旋盤、溶接(アーク、ガス)、フライス盤での加工などを習ってきた。他にもいろいろ実習はしてきたし、勉強も工業数理、機械設計、機械工作、製図、工業基礎に情報技術的なことも習う。
しかし、現場では自分の技術など、ヒヨコどころか細胞にするなっていないんじゃないかと思う。正直落ち込むが、この道何十年というベテランに一朝一夕で追いつけるわけがない。
今は、とにかく彼らの背中を追いかけるしかない。
清水は作業が終わったフライス盤の周囲を丁寧に掃除する。ウエス(格好いい名前がついているが要はボロ布だ。山本テクニックでは主に社長一家の服が多い)で丁寧に拭って金属屑を専用の箱に入れる。
ふと気がつくと、姫乃が小さな体で材料置き場の鉄材と格闘をしていた。
鉄材は決められた大きさの物が何種類も無造作に並べられている。
三メートルは軽くある長い鉄の棒。それを用途に合わせて切り出すのだ。
設計補助として入社した姫乃は設計の『補助』をしているよりもこういう材料の切り出しや掃除、熱処理を行う部品の搬送、完成した金型の納品などの『雑務』ばかりをしている。
「‥‥‥手伝う」
声をかけると、彼女はきょとんとした顔をして見上げてきた。同じ年とは思えない。
「あ、いいよ、清水さん。なんとかできるから」
姫乃は慌てて両手を振る。
しかし、見てしまったものを素通りはできない。
彼女が格闘していた鉄材を持ち上げる。体格の良い清水でも重いと思うのだから、清水よりも頭ひとつ分は小さな姫乃には重労働だろう。
「ほら」
届いたばかりの鉄材は長過ぎて、専用の電動のこぎりに乗せるまでが大変なのだ。
「ありがとう」
彼女は急いで電動のこぎりの刃を持ち上げた。
その彼女の手にしている図面を見る。
まただ。
清水は図面を見て溜息を吐いた。
「どうしたの?」
その溜息に気がついて、姫乃が首を微かに傾げた。
「それ」
清水はあまり話すのが得意じゃない。
だから、なんと言っていいのかわからない。
「奥田さんに見てもらった方がいい、と思う」
清水がなんとか言葉を紡ぐと姫乃は「やっぱり?」と肩を竦めた。
その言葉に清水は瞳を瞬かせた。
「どうした、坊ちゃん、嬢ちゃん?」
そこに切り抜かれた部品図面を手にした奥田が声をかけてきた。
「奥田さん。噂をすれば影!」
元気な声で姫乃が叫ぶ。
‥‥‥わざわざ言わなくていいのに。
「今ね、材料を切ってたんですけど、清水さんがこの図面を奥田さんに見てもらった方がいいって言うんです。あたしも、なんだか微妙に『美しくないな~』って思ってて」
姫乃は手にした図面を奥田に見せる。
その切り抜かれた青焼き図面を見て、奥田は盛大な溜息を吐いた。
「あのボンクラ」
ちっと舌打ちが続く。
奥田は胸ポケットから赤ボールペンを取り出すと、姫乃が持っている図面に丸を打っていく。
「姫ちゃん、今打った赤丸とこの図面の赤丸のところ、上の設計者に確認してくれ」
「‥‥‥やっぱり、変なんですよね?」
二枚の図面を見て姫乃は首を傾げた。
清水はその図面を覗き込んで苦笑を零す。
凡ミスだ。
数値が左右から取られていて、これでは製作に工数がかかり過ぎるし無駄でしかない。
もうひとつは、指示のある穴のどちらかを長穴にしなければ取り付け時に苦労するだろう。
「賢太。お前はその図面が変なのはわかるだろう? それを姫ちゃんに説明しておけ。味方は多い方がいい」
味方?
奥田の言葉に清水は首を傾げた。
「姫ちゃんには、上と下のパイプ役になってもらわんといかんからな」
奥田はぶつぶつと言いながら、手をひらひらとさせて去っていってしまった。
「清水さん、さっきの奥田さんが言ってた変ってどこのこと?」
図面を睨みつけて姫乃が眉をしかめた。
清水は右隣に引っ付くようにして説明を聞く姫乃に、どぎまぎしながらなんとか答えた。喋るのはあまり得意じゃないからつっかえつっかえだったが、彼女は的確に質問をしながら聞いてくれた。
隣に引っ付いているのは反対側からだと数字がひっくり返ってわかりにくいからだとわかっているが、こうも無防備に引っ付かれると溜息を零したくなる。
‥‥‥頼むから、自分が平均値以上に可愛い女の子ってことを自覚してくれ。ホントに。
「ねえ、清水さん。土曜日、ヒマ?」
◇
山本テクニックは毎週日曜日と隔週の土曜日が休みだ。
その、貴重な休みの日。俺は北苑駅前のファーストフードの店の中にいる。
目の前にはふわふわひらひらのピンクのワンピースを身に纏った女の子。
――― そういえば、彼女は会社ではいつもズボンだ。
「スカート」
そう呟いたら姫乃は楽しそうに笑って「このスカート可愛いでしょ!」と上機嫌になった。しかし、彼女はよく自分の言いたいことがわかる。不思議だ。
彼女はボックス席ではなく、窓際のカウンター席を陣取る。
その席の取り方で、なんとなく予想はついた。
姫乃が取り出した図面のコピーに眉間を押さえる。
やっぱり。
「犯罪」
「図面持ち出しは業務違反だけど、社内でやるわけにはいかないんだから目を瞑ってよ!!」
元気に笑われた。
「なんで?」
「上でね、あんまり下の人の意見ばかり聞いてるって思われるのも困るのよ」
「それ」
「なんか嫌な言葉だよね、上とか下って」
‥‥‥なんで会話が通じるんだろう。
不思議だ。
「で、どこがおかしいの?」
その後は、図面に対する解説をさせられた。そして、彼女が持ち出してきた図面に一定の規則性があることに気がつく。図面の数値の取り方が間違っている図面の型番が決まっているのだ。
「それ」
「そうそう。犯人はお前だ! って感じ」
のほほんと姫乃が笑う。
二階にいる設計士は三人。そのうち一人が最近、取引先出向から戻ってきたばかり。図面の指示がおかしいものが増えた時期と被る。
会議室兼食堂で二階の社長夫妻、設計士、事務員と一緒になるが平均以下の日常会話以上にはほとんどならない。しかも工場の人間は食べ終わったらすぐに昼寝に入るので、四ヶ月経っても二階の人間関係などよくわからない。
そういえば、彼女も高卒なのに図面がある程度は読める。
確か商業科卒だったような気がするが‥‥‥
「大井さんは商業科?」
「あたし? 商業じゃないよ。聞いてない? 工業デザイン科。とは言ってもテキスタイル‥‥‥染色コースみたいなところにいたから、図面は本当に初歩の初歩しかわからないんだ。久し振りに高一でやった図面基礎のテキストとかクローゼットから取り出したよ」
彼女は鞄の中から『標準製図法』を取り出した。懐かしい。
「俺も持ってる」
「そうなの? じゃあ、おそろいだね」
‥‥‥そんな可愛い笑顔で言わないでくれ。
あらぬ誤解というか希望というか大それた望みというかを、持ってしまいそうになる。彼女は同僚。彼女は同僚。彼女は同僚。
そう、同僚という性別なのだ。
「ねえねえ、これってどう作るの?」
姫乃が金型の組図を指差す。そうそう、同僚なのだから仕事の話をするのが普通なのだ。俺は少し浮ついた心を落ち着けて質問に答える。
「このバネって、二個ないとだめなの? 三つとかひとつじゃだめなの?」
「ひとつじゃ力が足りなくて型が戻らないし、バランスが悪い」
「じゃあ、みっつだったら元気に飛び出すのか!!」
――― 元気には飛び出さないだろう。
呆れたものの、俺は彼女の物言いが面白くて小さく声を出して笑った。
その声を聞いて姫乃が「笑った」と破顔した。
「やっぱり笑ったほうが可愛い」
にっこりと可愛い笑顔が告げる。
「少女マンガ読み過ぎ」
「イマドキ、そんなこというキャラいないわよ」
くすくすと笑ってアイスコーヒーをすする。
彼女はブラックでコーヒーを飲んでいる。片や俺はアイスミルクティー。しかも砂糖入り。
俺は百九十センチ近い身長とガタイとは違って甘いものが好きだ。羊羹一本おやつに食べれたりもするくらいだ。生クリームよりもあんこが好きだったりする。
「ねえ、なんで清水さんはあたしを見て溜息吐くの?」
会話が途切れて少しの間の後、姫乃が見上げてきた。
真っ直ぐな瞳が痛い。
「今日ね、わざわざ会社がお休みの日に誘ったのも‥‥‥それを聞きたかったの」
ふいっと顔を逸らされる。
眉根が寄っている。
「せっかくの同期なんだから、仲良くするのはムリ?」
清水は瞳を瞬かせた。
‥‥‥彼女は自分のことを嫌いか? という尋ね方をしてこない。それがなにを示しているのか‥‥‥きっと肯定されたくないのだろう。
「ムリじゃないし、キライじゃない」
あまり口がうまく回るほうじゃないが、なるべく先回りをして安心させるように微笑んで告げる。
むしろ反対の感情のが近いというのはさすがに言えない。言えるわけがない。たぶん、そんなことを言おうとしたら心臓が壊れる。
「じゃあ、好き?」
むご!!
ぶほっと吐き出しそうになったのを根性で飲み込んだので変な音がした。
鼻からミルクティーが零れそうだ。
思わず睨みつけると笑顔が返って来る。
「もちろん、ライクとラブならラブの好き、よ?」
彼女の言葉はまるで呪文だ。
トレーに乗っていた紙ナプキンで鼻を拭う。
否定と肯定。
どちらを選択しても会社に居た堪れなくなりそうだ。
それは困る。
「同僚」
「その答えは、世の中では逃げてるって言うのよ?」
「なんでも白黒つけるのはよくない」
前を向いて鼻を拭う。
プールで呼吸に失敗した時のように鼻がつんとする。
「ふーん」
姫乃は唇を尖らせながらも鞄の中からポケットティッシュを取り出した。
そして、手にして少ししてから清水に差し出した。
「しょうがないから今日は許してあげる」
清水がポケットティッシュを受け取ったのを確認して、彼女はスツールから飛び降りるように離れた。
「じゃあ、あたし、帰るね。今日はありがと」
「え?」
「また会社で質問するけどヨロシク!!」
自分のトレーを手にして、彼女はひらりと身を翻す。
やわらかい春の花の色をしたスカートが揺れる。
その背中を見ながら、渡されたポケットティッシュを見つめる。駅前で配っていた英会話教室のロゴが踊っていた。
「?」
硬い感触にひっくり返すと、そこにはショートケーキ柄の付箋が貼り付けられていた。
丸い文字で彼女のフルネームと英語の羅列。そして、十一桁の数字。
「‥‥‥‥‥‥へ?」
しばらくの間、その付箋を見つめていたが、大きく息を吐き出してからティッシュをひっくり返してミシン目を開いて鼻を拭いた。
盛大な溜息が零れる。
――― 性別が同僚なんて思えるもんか。
清水は付箋をはがして携帯を開いて液晶画面に貼り付けた。
この店を出たらすぐに電話しよう。きっとまだそんなに遠くに行っていないはずだ。
◇
その後、姫乃は清水から図面のことや加工のことをいろいろ聞いているはずなのに、それをおくびにも出さずに一階と二階の橋渡しをしていた。
二階にいる社長の気まぐれで図面を描かせてもらったり、一階の奥田さんの暇つぶしに加工を教えてもらったりしている。
一階と二階の権力者に気に入られるその姿は、口下手の清水からしたら脅威だ。
一度、件の設計者と奥田さんが一触即発という時があったが、その時も彼女が上手に「どうしてこれだとだめなんですか?」と知らない振りをして奥田さんの気を逸らしていた。奥田さんの答えを聞きながら、問題設計者もようやく自分の失敗というか勘違いというか知識不足に気がついたらしい。
姫乃というワンクッションがあるためか、一階と二階のやりとりはスムーズになったという。
「なあ、不満じゃないのか?」
「なにが?」
駅前のファーストフード店。いつの間にか定位置になった窓際のカウンター。そこで彼女に聞いてみた。
相変わらず姫乃はブラックコーヒーを飲んでいる。
「設計補助じゃない」
「そう? あたしがいるから設計士さんは間違いに気がつくし、あたしは勉強になるし、現場のおっちゃんは知識を語れるしで、ちゃんと『補助』になっていると思うけど」
ひとつのポテトをふたりでつまみながら姫乃は笑う。
余計な人間関係に振り回されて、自分の仕事ができていないのではないのだろうか?
でも、彼女は補助だという。
「今度ね、武宮さんが出向に行くんだって」
ポテトをぱくりと食べて、コーヒーを飲む。
その姿は可愛い色の服を着ているのになんだか凛々しい。
「そうしたらCADが一台空くから、社長のチェックを受けるなら作図に入ってもいいんだって」
姫乃は「ふふふふ」と笑う。
この笑い方はかなりご機嫌な証拠だ。
「チャンスがきたんだもの、設計補助から設計士へスキルアップするわよ!!」
清水はミルクティーを飲み込んで苦笑を零す。
「できる」
短い言葉に姫乃は瞳を瞬かせた。ぱちぱちと音がしそうなくらい大きく瞬きをしたのだ。
「ありがとう」
ふにゃっと笑顔が溢れる。
不思議だが、彼女は俺の短いセンテンスでも受け取り方を間違えない。
これは、きっとすごい才能だ。
「姫乃ならできる」
ものすごい勇気を出して名前で呼んでみた。
彼女の手からポテトが落ちた。
後から拾っておかないとな。
そう思っていると、姫乃は瞬きも忘れて放心している。
大丈夫か?
さすがに心配になりかけていると、先程の笑顔とは質の違う笑顔が溢れ出した。
彼女が着ているひらひらふわふわの洋服のような色の頬。
「うん」
はにかむように微笑んで、可愛い彼女はブラックコーヒーを口に含んだ。
そして、その隣で俺は甘いミルクティーを飲んでいる。
そんな日常になって、今日で一ヶ月。
季節は秋になっていた。
おしまい