表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

第2章

 中間テストが二週間後に迫ってから、ユキナはようやく焦り始めた。


 先月の学力テストの結果は散々だった。

 数学に至っては教科担任に呼び出され、このままでは進級すら危ういと、切々と説かれたほどだ。


「もうすぐじゃん……やばい」


 そう呟いたユキナを、机を向かい合わせて弁当を食べていたクラスメイトの朱莉(あかり)沙里(さり)が見た。


「あーね……」


「テストね……」


 二人の表情はみるみるうちに曇っていく。


「みんなで勉強会とか、やっちゃう……?」


 朱莉が箸を止めたまま提案した。


「でもこのメンバーでやっても意味なくない?」


 沙里は弁当箱を覗き込みながら、げんなりした様子で言う。


「確かに三人とも似たような学力だし、教え合うとか無理だよね……結局、喋って終わるよね」


 ユキナがそう言うと、昼休みの教室に再びどんよりとした空気が流れた。


「各自……頑張ろーぜ」


 沙里の言葉に、ユキナと朱莉は小さく頷く。


「「だね」」


 ホームルームが終わり、机の中の物をリュックに詰めていると、教室の入口に立つ樹の姿が目に入った。

 さすがに不自然に避け続けるわけにもいかず、数日前から観念して、再び樹と登下校を共にするようになっていた。


 ユキナはリュックを背負い、彼のいる廊下へ向かう。


「おせえな。ホームルーム終わる前に荷物入れとくだろ、普通」


 最近の樹は、口を開けば憎まれ口ばかりだった。

 ユキナはギロリと睨む。中学の頃は、もっと感じが良かったのに――そんな変化に苛立ちを覚える。


 並んで廊下を歩いていると、ふっと肩が軽くなった。

 見ると、樹がユキナのトートバッグを持っていた。


「何だこれ、重っ」


 トートバッグを肩にかけながら、樹は顔を顰めた。


「あ、漫画。朱莉に借りる約束してたんだけど、まさか一気に全巻持ってくるとは思わなくて。重かったから助かる、ありがと」


「へー、何?」


「星の宮殿」


「おお、おもれーよな」


「読んだことあるの?」


「6巻くらいまで」


「37巻で完結だよ。読む?」


「中間終わったら、な?」


 語尾に力を込めて言った樹は、圧のこもった視線でユキナを睨んだ。


「あー……」


 その視線に現実へ引き戻され、ユキナの気分が沈む。


「こんな時期に漫画の貸し借りとは、ユキナさんとっても余裕があるんすねえ」


 わざとらしい皮肉に、ユキナは言葉を失う。


「今日こそ帰ったら勉強すんぞ。これは中間まで我慢しろ」


「うえー、鬼すぎる」


 憎まれ口を返しながらも、思ったより自然に樹と会話できていることに、ユキナは安堵していた。

 異性として意識してから振り回されていた感情も、少しずつ落ち着いてきている。

 勉強を見てもらえることも、現実的にはかなり助かる。


「腹減らねえ?」


 学校から駅前へ向かう途中、樹が言った。


「少し」


 そう答えると、樹は親指で右手側のコンビニを指す。

 ユキナは頷き、二人で店内に入った。


「お前も肉まん?」


「と、唐揚げ棒」


 少し考えてから、ユキナは付け足した。


「少しじゃねえじゃん」


 樹が思わず笑う。


「いや、せっかくだし」


 その返しに、樹はククッと喉で小さく笑った。その自然な笑顔に、ユキナは思わず目を逸らす。


 コンビニを出た二人は、並んでガードレールに腰掛けた。


「ごちそうさまでーす」


 立て替えてくれた樹に、ユキナは言う。


「おお」


「え、マジでいいの? 冗談だけど」


「いいよ、こんぐらい」


「わーい! ありがとー!」


 肉まんを頬張るユキナを見て、樹が言う。


「こんな暑い日に肉まん食ってんの、俺らだけだろ」


「えー、肉まんはいつだって食べたいでしょ」


「お前は肉まんだけじゃねえけどな」


「うるさいな。唐揚げ一つあげようと思ってたのに、あげないよ?」


「一つだけのつもりだったのかよ。それ、一個増量中だから五個もついてんぞ」


「そんなに取るつもりだったの?」


「人聞きわりぃな。俺の金だろ」


「わ、モラハラ」


 樹はユキナの頬を摘む。


「肉厚。共食いだな」


 ユキナは手に持った肉まんへ視線を落とす。


「……もう唐揚げ一個もあげない」


 樹は、怒ったユキナを見て声を出して笑った。彼の瞳にふと、温かいものが浮かんだ気がして、ユキナは戸惑った。それが確かに彼の内にあったものなのか、それとも自分の見る目が変わってしまっただけなのか、わからなかった。


――私たちは、ただの幼馴染。


 変に意識してしまいそうになるたび、彼女は自分にそう言い聞かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ