表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

第17章

 ユキナは、自分がじっと彼を観察していたことに気づき、遅れて込み上げてくる気まずさに、息を詰まらせた。


「あ……。ごめんなさい。寝てたから、声をかけそびれて、あの……」


――これじゃあ、ただの不審者みたいだ。


 顔を上げた彼は、想像以上に端正な顔立ちをしている。髪と同じく、瞳も柔らかな薄茶色だった。少し長い前髪を、額の中央で分けている。


 無言のまま向けられた真顔に、ユキナは言葉の続きを見失う。いたたまれない思いに、体が熱くなる。


「やっぱり会えた」


 男子生徒はそう言うと、ふわりと笑った。


「じゃあ、やっぱりあなたは、ラクガキの――」


 恐る恐る尋ねると、彼は穏やかな表情で頷いた。


「今日、なんとなくここにいたら会える気がして待ってたんだ。いつの間にか寝てたけど」


 彼は軽く笑った。


「待ってた……私を?」


「うん、どんな子かなって。文字の印象と想像通りだったから、見た瞬間すぐわかった」


 嬉しそうに言う。


「でも、見かけたことないな。青だから、2年?」


 彼はユキナの制服のリボンを指差した。

 清森高校では、リボンの色で学年が分かれている。


「はい。2年です」


 彼の耳元あたりに視線を泳がせながら、ユキナは答えた。


「俺3年だから階が違うもんな。通りで見かけたことないと思った」


「3年生なんですね。イメージと違ったから戸惑っちゃいました」


「へえ。どんなイメージだった?」


「達筆だったし、言葉もシンプルで力強い感じがしたから……体育会系の、男!って感じの方かと……」


「それって実際の俺が男らしくないってこと? 傷つくなー」


 軽口に、嫌味はなかった。


「ううん。こんな綺麗な顔した人とは結びつかなくて――でも、細身なのに腕はしっかりしてますね。部活とか、何かしてるんですか?」


「小学校から高1の始めまでずっとバスケやってたけど、去年辞めて今は写真部」


「写真部、ありましたっけ……」


 口にした瞬間、しまったと思った。


「ええ? 校内行事とか校内誌とか、掲示板の写真ほとんど俺が撮ってるんだけど……」


 胸に手を当てて大げさに項垂(うなだ)れる仕草に、ユキナは慌てて身を乗り出した。


「わあ、ごめんなさい!」


「冗談だよ。よく言われるからさ。俺も最初知らなかったし」


 差し向けられた笑顔に、ユキナの肩から力が抜けた。


「私、和久井ユキナです。名前、聞いてもいいですか?」


 思い出したように尋ねた。


東和人(あずまかずと)。ユキナちゃんか。可愛い名前だね。似合ってる」


 柔らかな口調なのに、言葉はまっすぐで、少し気恥ずかしい。


「これから帰るとこ?」


「はい。なんとなく理科室に寄ってから帰ろうかなって思って」


「待ってて正解だったな。もしよかったら、一緒に帰ろうよ」


「はい」


「部室に荷物取りに寄ってもいい?」


「はい」


「じゃ、行こっか」


 和人の大らかな空気につられるように、ユキナの心は、ふっとほどけていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ