第17章
ユキナは、自分がじっと彼を観察していたことに気づき、遅れて込み上げてくる気まずさに、息を詰まらせた。
「あ……。ごめんなさい。寝てたから、声をかけそびれて、あの……」
――これじゃあ、ただの不審者みたいだ。
顔を上げた彼は、想像以上に端正な顔立ちをしている。髪と同じく、瞳も柔らかな薄茶色だった。少し長い前髪を、額の中央で分けている。
無言のまま向けられた真顔に、ユキナは言葉の続きを見失う。いたたまれない思いに、体が熱くなる。
「やっぱり会えた」
男子生徒はそう言うと、ふわりと笑った。
「じゃあ、やっぱりあなたは、ラクガキの――」
恐る恐る尋ねると、彼は穏やかな表情で頷いた。
「今日、なんとなくここにいたら会える気がして待ってたんだ。いつの間にか寝てたけど」
彼は軽く笑った。
「待ってた……私を?」
「うん、どんな子かなって。文字の印象と想像通りだったから、見た瞬間すぐわかった」
嬉しそうに言う。
「でも、見かけたことないな。青だから、2年?」
彼はユキナの制服のリボンを指差した。
清森高校では、リボンの色で学年が分かれている。
「はい。2年です」
彼の耳元あたりに視線を泳がせながら、ユキナは答えた。
「俺3年だから階が違うもんな。通りで見かけたことないと思った」
「3年生なんですね。イメージと違ったから戸惑っちゃいました」
「へえ。どんなイメージだった?」
「達筆だったし、言葉もシンプルで力強い感じがしたから……体育会系の、男!って感じの方かと……」
「それって実際の俺が男らしくないってこと? 傷つくなー」
軽口に、嫌味はなかった。
「ううん。こんな綺麗な顔した人とは結びつかなくて――でも、細身なのに腕はしっかりしてますね。部活とか、何かしてるんですか?」
「小学校から高1の始めまでずっとバスケやってたけど、去年辞めて今は写真部」
「写真部、ありましたっけ……」
口にした瞬間、しまったと思った。
「ええ? 校内行事とか校内誌とか、掲示板の写真ほとんど俺が撮ってるんだけど……」
胸に手を当てて大げさに項垂れる仕草に、ユキナは慌てて身を乗り出した。
「わあ、ごめんなさい!」
「冗談だよ。よく言われるからさ。俺も最初知らなかったし」
差し向けられた笑顔に、ユキナの肩から力が抜けた。
「私、和久井ユキナです。名前、聞いてもいいですか?」
思い出したように尋ねた。
「東和人。ユキナちゃんか。可愛い名前だね。似合ってる」
柔らかな口調なのに、言葉はまっすぐで、少し気恥ずかしい。
「これから帰るとこ?」
「はい。なんとなく理科室に寄ってから帰ろうかなって思って」
「待ってて正解だったな。もしよかったら、一緒に帰ろうよ」
「はい」
「部室に荷物取りに寄ってもいい?」
「はい」
「じゃ、行こっか」
和人の大らかな空気につられるように、ユキナの心は、ふっとほどけていった。




