08話 塔の実習IV ― 選別 ―
扉を抜けた先は相変わらずの夜だった。
34階層。
「ユミ、時間をかけても仕方ない。ここから35階層までは扉の位置は固定されている」
「さすがお兄ちゃん」
「走るぞ」
俺たちは地を蹴り走り出した。
途中、生物が追いかけたりしてきたが俺たちの速度に追いつける生物はいなかった。
俺たちは今、35階層で扉の前にいた。
おかしいな。
こんなに静かだったか…この階層は。
「ふぅ〜楽だね。お兄ちゃん」
「そうだな」
「なんだか夜の階層長く感じた」
「ただそう感じるだけだ」
そう言ったが、胸の奥に小さな棘が残った。
前は、こんな違和感はなかった。
ギィィと音を立てて扉が開く。
「お兄ちゃん、ここから先は大丈夫だよね」
「ああ、早く39階層まで行って合流しよう」
俺たちは扉の中に入った。
扉を抜けた瞬間、俺たちの目に入ったのは…
「お兄ちゃん!太陽だ!」
率直な感想としては眩しい。
36階層だ。
「久しぶりに光に当たった気がする!」
「一日ぶりくらいだろう」
場所は…コロシアムのような所だった。
観客席には誰も居なかった。
「お兄ちゃん…ここは」
「おそらく、次の階層に行くのに何かをしないといけないのだろう」
コロシアム…なら…
「お兄ちゃん!あれ!」
ユミが指さしてる方向を見ると、
ワープゲートが現れ、その中から何かが現れようとしていた。
「…え?」
…!!
ワープゲートの中から現れたのは…
「君は…ユウくんじゃないか」
「レオン…」
「レオンさん?」
ボロボロとなったレオンが出てきた。
レオンは人とは思えない形相の何かを持っていた。
次の瞬間、空間に文字が現れた。
【36階層:最後の2人のみ次へ進める】
「え?お兄ちゃん、これって」
「…あぁ」
【制限時間:10分】
塔に登る者の選別が始まった。
こんな階層…なかった。
「ユミ、下がれ」
ユミは俺に言われた通り下がった。
すると、レオンは全てを悟ったような目で
「…君たちが行け」
「レオン…」
「僕達がこんな瀕死になっている時点で、もう決まっていたんだ」
「…」
「僕はC班だ。33階層の闇に葬り去られそうになったこの、シュナを助けようとした。だけど、僕は力不足すぎたんだ」
「そうかもしれないな」
「お兄ちゃん…」
レオンは自分が持っているシュナだったものを握る。
「僕が先に行くより確実に君たちが行ったほうがいいだろう」
何も言えない俺たちを前に、
レオンは静かに笑った。
「安心してくれ。僕はもう、登れない」
「…」
「わかるんだよ。ここに来た時に」
空に浮かぶ文字を見る。
【制限時間:08:32】
「塔は僕を選ばなかったんだ」
ユミが強く俺の服を握る。
「でもね」
レオンはシュナだったものを見た。
「彼女を置いていくことだけは、できない。幼馴染である彼女を…」
そして
ユウを見る。
「だから…君が登れ」
レオンは苦笑いを浮かべながらこちらを見ていた。
「彼女はもう死んでいる。だから…安心して僕を殺してくれ」
レオンは、そのシュナだったものを大切そうにゆっくり床に置いた。
…本来、こういう階層でワープゲートから出てくるのは塔が用意する生物だ。
変わっている。という事だろう。
「楽に…してやるよ」
「お兄ちゃん…」
「ユミは目を瞑ってろ。耳も塞げ」
ユミは俺の言われた通りにした。
「ユウくん…最期に聞いてもいいかな」
「なんだ?」
「君は…何者なんだい?」
「どうして今、それを聞くんだ?」
「30階層で…君らしき人物を見たんだ」
「…」
「最初、君とは思えなかった。だけど…どこか君らしきものを感じたんだ」
「見られていたか」
あの時、周りには誰もいないはずだったが。
おそらくこいつは気配を消す事に長けているのだろう。
「俺は…⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎だ」
それを聞いたレオンは、
目を見開き
「なんで…君は、こんな所にいるだろうね」
「さぁな」
レオンは、
「ありがとう」
そう言って、笑った。
だから俺は、
一瞬で終わらせた。
………
「ユミ、扉が現れたぞ」
目を瞑り、耳を塞いでいたユミの肩をトントンと叩いた。
「お兄ちゃん、終わったの?」
「ああ、次へ行こう」
俺は一度、後ろを見た。
そこには…何も残っていなかった。
俺たちはその扉の中に入って行った。
37階層に入った。
「またか…」
また、舞台はコロシアムだった。
「お兄ちゃん」
「ああ、また条件があるのだろう」
ワープゲートが出現し、その中からは…
人型の何かが現れてきた。
俺には見覚えがあった。
「ユミ!!伏せろ!!」
ユミはいち早く俺の言葉に反応し、その場に伏せた。
次の瞬間、俺たちの後ろの壁が崩れた。
その人型の何かは、
まるで俺を知っているかのように笑っているようだった。
「お兄ちゃん…あれは?」
「あれは…」
口が裂けてもその言葉を紡ぎたくなかった。
「俺がなんとかする。お前はあいつが繰り出す攻撃を避けてくれ」
「え、大丈夫なの…?」
「大丈夫だ。当たったら死ぬと思えよ」
その瞬間、空間に文字が現れる。
【37階層:生物の討伐】
【制限時間:5分】
あれを…5分で、か。
俺でなかったら不可能だっただろう。
タイマーが動き出す。
俺はそれと同時に地を蹴り出した。
「…遅いな」
「黙れ…」
あの人型の特徴としては攻撃の動作がない。
圧倒的な初見殺しだ。
まるで自分と戦っているようだった。
そう…
この感覚を、俺は知っている。
忘れるはずがない。
忘れられるはずがない。
目の前にいるのは…
俺だ。
塔が俺の過去を知っている。
「ユミ!大丈夫か!」
「大丈夫だよ!」
俺は瞬時にその人型の懐に潜り込み、
拳を突き立てる。
人型の腹にメキメキと拳が入る。
だが…
「その程度か?堕ちたな」
その拳を完全に受け止められていた。
次の瞬間。見えない斬撃が俺を襲う。
「ぐっ…!!」
腹に蹴りを入れられて体が宙を舞う。
早い…
【制限時間:3:41】
「お前はあの異能を使う事を恐れているのか?」
「…違う」
「違くない。お前は過去のようになる事を恐れている。その異能を使わなければお前は俺に勝てない」
「…黙れ…!」
「大事にしている者がいるようだな」
そいつはユミを片手で持っていた。
「…お兄…ちゃん…!」
片手でユミの髪を掴み。無理矢理持ち上げていた。
動けなかった。
俺は、その光景を覚えている。
かつて、守れなかった時と同じだから。
俺が…異能を使わないせいで…
また……
また………!!
[変われ。まだ…守りたいのだろう?]
俺の内側から何者かがそう言った。
その声は、俺自身のもののようで、
それでいて、決して俺ではなかった。
視界が、闇に染まる。
俺の意識は暗闇に葬られた。




