05話 塔の実習1
「お兄ちゃん。なんの音もしない」
「あぁ、静かだ。森なのにまるで何もいないみたいだ」
だが、俺は気づいている。
「見られている。獣がいる。様子を伺っている」
「うん。わかってる」
俺の妹の異能は《強化》。
身体能力だけでなく五感も強化できるのだろう。
「朝飯にちょうどいいな」
「え?」
「まあ、見とけ」
次の瞬間
草むらが弾け、不気味な形をした獣が躍り出てきた。
「キエエエエ!!」
獣が飛びかかってくる。
口を大きく開き、
牙を剥き出しにして
「遅いな」
俺は一歩踏み込み、拳を突き出した。
ドン、という鈍い衝撃。
次の瞬間、獣の動きは止まる。
俺の拳は、獣の腹を貫いていた。
「…キ、ギ…」
獣は意味を成さない声を漏らし、そのまま力を失って崩れ落ちた。
拳を引き抜くと、獣は二度と動かなかった。
「お兄ちゃん…すごいね。」
「生きるための事だ。他の獣が寄ってくると面倒だから場所を変えるぞ」
「わかった!」
俺はその獣を担ぎ、仮拠点になりそうな場所を探しに行った。
数分走り、俺たちは仮拠点に良さそうな平地を見つけた。
俺は焚き火を焚いてその獣の肉を焼いていた。
「ユミ、これを食ったら26階層に繋がる扉を探しに行くぞ」
「わかった。だけどどうやって見つけるの?」
「俺が知っているから安心しろ」
「おー!さすがお兄ちゃん!」
知っている。とはいえ塔の性質上、扉の位置は毎回違う。
だが、25階層の扉の位置のパターンは限られている。
3パターンある。それを片っ端から探していけばなんとかなるだろう。
「お兄ちゃん…これほんとに食べられる?」
ユミがそう聞いてきたから焼いてる肉を見てみた。
黒い。かなり黒い。
だがこれを食べない限り俺は空腹で死ぬかもしれない。まあ、異能を使えばなんとでもなるが。俺はあまりこの異能を使いたくない。
「食べれるさ」
「えぇ」
「食べたくないならお前は自分で用意した食料でも食いな」
「そうしておくよ…お腹壊したら嫌だし」
そうして俺はその肉を食べた。
味はなかった。不味くも美味くもない。
だが栄養はあるはずだ。
俺たちは食事を済ませて扉を探していた。
「あったぞ。ユミ」
「ほんとだ!一番乗りかな」
「そうかもな」
俺が調べた限り現代のクライマーが辿り着いているのは95階層が最上階らしい。
恐らくそのクライマーを地上で見なかったということは、死んでいるか。
もしくは塔に縛られているか。
「ほら開けるぞ」
ギィィと音が鳴り扉が開く。
「次の階層へゴー!」
「楽しそうだな」
「初めてなんだから!楽しまないと!」
俺たちは26階層に行った。
「あの2人…早いですね」
「ヴァルフ。上層部の人間はなんと言っていたんだ」
「ユウを監視しろ。そう言っていました」
「本当彼は不気味だ。塔に適応している。と言うよりかは既に知っているような動きをしていた」
「レイさん。考えすぎですよ。彼の適応能力が高かっただけです」
「そうか。とりあえず我々も26階層へ向かうぞ」
「わかりました」
26階層。
一面が林のようだった。
小鳥の囀りが聞こえてくる。
25階層よりかは普通だった。
それに、ここには敵対生物はいなかった。
「なにこれ!可愛い!ハムスターみたい」
「あまり触るなよ。毒があるかもしれないからな」
「え。何それ物騒じゃん」
「ここは塔だ。何が起こってもおかしくない」
まあ実際その生物に毒はないがな。
俺たちは林を駆け抜けて扉を探した。
無意味に駆け抜けているわけじゃない。
しっかりと正規の道を駆け抜けていた。
「私が異能使って足早くしてるのになんでそんなに早いの!」
「忘れたか?俺の異能は使うと少し力が強くなるんだ」
「それでもなんで追いつけないのぉ!!」
「速度を合わせてるからな。
ほら、あそこに扉がある。早く上に登るぞ」
「え!はや!お兄ちゃんもしかして…」
「これも調べた」
「さっすがぁ〜!やっぱ持つべきは兄だね!」
これは俺が知っていただけだ。
恐らく30階層までは難なく行けるだろう。
ギィィ。
「ほら行くぞ」
「はーい」
27階層。
鳥獣が時々襲ってきたがユミが異能を駆使し殲滅していた。
「この鳥獣あまり強くないね」
「お前が強いんじゃないのか」
「そうかなー!」
少し照れていた。
「とりあえず扉を探すぞ」
「他の人たち見ないけどどこにいるんだろ!」
『諸君。聞こえるかな』
「あ、この声は」
『レイだ。諸君達が今何階層にいるか。A班から順に教えたまえ』
『A班。現在29階層にいる』
「お兄ちゃん早くない?A班の人」
『B班でーす。いまは〜28階層にいまーす』
『C班です。現在は25階層にいます』
『D班だ。現在34階層』
34階層…?
「え?!はや!」
『D班。それは本当かね』
『D班だ。本当だ』
『わかった。E班は?』
「こちらE班。現在27階層だ」
『わかった。諸君。健闘を祈る。引き続き頑張りたまえ』
ブツっと切れる音が聞こえた。
「お兄ちゃん。D班おかしくない?」
「異常に早いな…」
本来、塔は18歳から登攀ができる。
だが、それには塔管理機関に申請をしなくてはならない。学園だからその申請は必要ではないが。
この学園に入学しているということは初めての登攀のはずだ。
可能性としては未来視。もしくは…俺と同類の人間。
「グエエエエエエエ!!」
「邪魔だ」
俺は飛んで鳥獣を腹を貫通し突き抜けた。
骨が砕ける感触が、拳に伝わる。
「グェ…」
鳥獣は木々に力無く突っ込んでいった。
「扉は…あった」
バゴオオン。
着地をした。
「お兄ちゃん…なんでもありだねもう」
「扉はあった。向かうぞ」
ギィィ
「ユミ。入るぞ」
「早く行かないと置いてかれちゃうー!」
「急がなくていいんだよ」
「レイさん。D班が異常に早いですが…」
「D班…レギウスとセラフィムのペア。
レギウスの異能は《隠密》。
セラフィムの異能は《超越》。恐らくセラフィムを軸にして登攀しているのだろう。」
「ですが、D班は25階層に入って2時間経たない程です」
「ヴァルフ。39階層までは扉に入れば、次の階層へ行ける。」
「そうですね」
「《超越》は私の知る限り、一番早く40階層に行くことができる」
「そうですか…」
「D班はしっかりと正規の道を辿っているさ。
だが、さっきのユウを見たか」
「鳥獣を突き抜ける動きですか」
「あれは戦い方じゃない。処理だ」
「処理…」
「キエエエエ!!!」
「鳥獣が来てしまったか」
「制圧重力」
ヴァルフがそういうと鳥獣は地面に叩きつけられた。
「グェェエ!」
「我々も彼らの後を追うことにしよう」
「わかりました」
28階層。
「おおー…砂漠?」
「砂漠だな。早く行こう。喉が渇くのは面倒だ」
「わかった」
果てしなく続く砂漠。
ここは正直扉を探すのが面倒だった。
そんなことより。
俺たちの後をずっと付いてくるレイ達が面倒だ。
相手が教師とはいえ手の内をあまり晒したくない。
「ユミ、速度を上げられるか」
「どうしたの?」
「なんでも、俺らも早く登らなくてはなと思ってな」
この階層は下手すれば1週間時間を潰してしまうとこだ。
だがここは扉の位置が固定されている。
北にずっと進んでいれば扉がある。
「ついてこい」
俺はそう言いギアをあげた。
「はっや!!まってよー!!」
ギィィ
「はぁ。はぁ。お兄ちゃん疲れたよ」
「次の階層で休むか?」
「いや、まだ動ける!」
「そうか。それはよかった」
恐らくレイ達はすぐに扉を見つけるだろう。
早く行こう。
「見失いましたね」
「そうだな。ヴァルフ。この階層の扉は固定されている。北に進むぞ」
「わかりました。《零荷疾走》」
「それって人にも適用できるのだね。助かるよ」
29階層。
「ここ…荒廃した街みたい…」
「そうだな」
この階層は謎が多かった。
「あれ、なんで書いてあるんだろ…」
ユミがそう言って指差す方を見ると、
建物に俺たちの知らない文字が書かれていた。
「…わからない」
俺はあの文字を見たことがある。
塔の文字だ。
「扉!あったよ」
この階層は広い…
それなのに、
この広い道をまっすぐ進むだけで扉が見つかる。
探索すればするほど謎が出る階層だった。
だが、今は探索する必要はない。
「こんな真っ直ぐ道なりに進むだけで扉が見つかるんだね」
「不思議だな」
ギィィ、と鈍い音を立てて扉が開く。
「入っちゃお!」
俺達は、その先へと足を踏み入れた。
我々はヴァルフの異能を利用して砂漠を駆け抜けていた。
ん…?あれは…
「ヴァルフ!!」
「どうしました?」
「あれを見ろ」
「ん?大きく文字が書かれていますね」
「あれは塔の文字だ」
「塔の文字?!それって…」
「あぁ。あの方以外読む事はできない…」
「あの異能がないと読めないんですよね」
「そうだ…この実習が終わったら伝えておかなければならない。ヴァルフ、頼んだよ」
「わかりました」
私達は砂漠を駆け抜けて扉まで向かった。




