04話 測れない力
俺は学園長ヴァルディオスと訓練場に移動した。
「広いですね」
「異能の効果範囲が広い奴がいるからな。直径1キロはある」
想像以上に訓練場は広かった。孤児院の庭とは比にならないほどに。
「それでは特別テストを始める。どちらかが敗北宣言をしたら終わりにする」
「わかりました」
今の俺はどれくらい強いのだろうか。
「検査官。いつでも始めて良い」
「よーい。スタート!」
ひとまずは様子見だ。どのような攻撃をしてくるか…
「構える必要はない」
「…?」
ヴァルディオスはそう言ってこちらを見向きもせずに
「神威雷槍」
その瞬間、目の前に光が迸った。
ドォォォン!!
そんな音が俺の背後から響いた。
「避けたか…」
まずい、咄嗟に避けてしまった。
「不意を突いたと思ったが。流石は海神の息子だ」
「お父さんを…知ってるんですね」
「当たり前だ。あいつは俺の手下だったからな」
少し小手調べと行こうか
「ッ!」
少し異能を使った。
「その異能本当に少しだけ力を強くするものなのか…?」
「上振れがあるんですよ」
「そうか…顕現」
ヴァルディオスがそう言った瞬間そいつの手には雷の槍が握られていた。
顕現…か。もうそこまで辿り着いていたとは思わなかった。
「お前は未知数だ。少しだけ本気で行かせてもらう」
瞬きもする間もなくヴァルディオスは俺の目の前にいた。
(早い…)
俺はその雷槍を腕で受け止めた。
腕に雷槍が触れた瞬間、皮膚の奥が焼けるような感覚が走った。
「…っ」
だが、砕けない
痺れはある。だが、骨までは届いていない。
ヴァルディオスの眉が少しだけ動いた。
「防いだ、か」
次の瞬間、雷槍が霧散する。
同時に、俺の足元に雷が落ちた。
ドゴォォン!!
地面が抉れ、身体が宙を舞う。
受け身を取る間もなく
「雷帝領域」
その言葉が発された瞬間、訓練場の空気が変わった
肌が粟立つ
久しぶりの感覚だ
この場所そのものが敵意を持った
(…来る)
直感が叫んだ次の瞬間
思考より先に雷が落ちる。
避けた。だが、次
さらに次へと
「はは!」
ヴァルディオスが笑う。
「いい反応だな。だがな」
雷が俺の進路を先読みするように落ちる。
「この領域では動こうとした瞬間、その場所に雷が落ちる」
なるほどな
普通ならここで詰みを確信するだろう。だが
俺は一歩も動かなかった。
雷は俺の真横へと落ちた。
「…?」
ヴァルディオスが目を見開く
「動かないだと?」
「ええ。動かない方が楽なので」
「なるほどな…」
次の瞬間、俺の足元の地面が、静かに軋んだ。
雷ではない。
だが、確かに何かが顕れかけている。
ヴァルディオスが初めて一歩引いた。
ヴァルディオスが指を鳴らして雷が消えた。
「お前、その異能…」
「どうしましたか」
「いや大丈夫だ。特別テストは終わりにする」
敗北宣言でもなく、強制終了か。賢明な判断だな。
「わかりました」
「お前はAクラスに配属する」
「…!」
よかった。ユミと同じか
「お前の事は塔管理機関の上層部に報告をしなくてはならない」
塔管理機関。まだ存在していたか。
そう簡単に消えるような機関ではないみたいだな
「お前はとりあえずAクラスのところまで行け」
「わかりました」
「お前がこれからどうなるか楽しみだな。ユウ。期待しているぞ」
「…そんなにプレッシャーかけられると困ってしまいますよ」
「はっはっは。それでは」
…面倒な奴だ
「案内します。ついてきてください」
そう言われ、俺は検査官について行った。
教室につき、ドアを開けた
「お兄ちゃん?!」
「あぁ、ユミ」
真っ先にユミが出迎えてくれた。
周りの視線が少々痛いが気にしないでおこう。
「何してたの?」
「特別テストを受けていた」
「なにそれ!」
「うーんまあ力量を測るようなものだよ」
「詳しく教えてよ」
「まあまあ」
ユミに急かされる
「そっちはどうだったんだよ」
「あ!それがね。なんか数日後に塔の50階層まで登る実習があるとかなんとか」
いきなり50階層だと…?
最強格が2人いないと安全性は低い。まあ恐らく教師陣にいるのだろう。
「諸君、座りなさい」
あいつは…入学式の時前で話していた奴…名前は確か
レイだったか
「全員いるな。Aクラスは計10名で運営していく」
200人ほどいたはずなのにこれしかいないんだな。
「これから先の予定を話す」
あー眠い。さっきので疲れてしまったな
「まず、3日後に50階層まで登る実習を行う。このクラスの10名と教師が2人ついていく。もちろんそのうちの一人は私だ。君たちの実力を確かめるようなものだ」
どうやらユミが言っていた事は本当らしいな。
「そこで二人組になって登ってもらう。基本は二人組で行動してもらう」
二人組…か
横見る。ユミがキラキラした目でこっちをみている
「わかった…」
「よろしくね〜お兄ちゃん」
「好きに組んでもらって構わない。前日までにはペアを私に報告しておくように」
なるほどな。とりあえず俺たちはペアが決まった。
「質問のある者は?」
…一応聞いておくべきか
「ユウ。なんだ?」
「二人組で塔を登ると言っていましたが。40階層はどうするんですか?」
「ああ、忘れていた」
「塔管理機関が定めている規定人数は40階層だけ通常のクライマーが15人必要なはずです」
「知っているんだな」
40階層。39階層までは普通のクライマーが2人でも難なく攻略できる。だが、40階層は訳が違った。
「説明不足だったな。すまない。39階層に辿り着いた者は40階層に続く扉の前で待機するように」
「なんでですか?」
「行けばわかる」
「えぇ…」
「てかそれって結構重要なことなんじゃ…」
「…」
「すみません…」
40階層…それはボスが出てくるわけでもない。ただ単純に人手が足りないと全滅する。
まあ例外もあるが、調子に乗ったクライマーはそこで死んでしまう。
説明が一通り終了し、
「塔に登ると言う事は常に死と隣り合わせだ。各自準備を怠らずに。それでは三日後また会おう」
俺たちは三日後まで各自で訓練や準備をしろとのことだ。他のクラスは普通に授業などがあるらしい。
「お兄ちゃん。なんで40階層のこと知っていたの?」
「あぁ、俺は塔に関しての本を読むのが好きだったからな。それ相応の知識は持っているんだ」
「あの変な本って塔の本だったんだ…」
「とりあえず、寮に行くか」
「はーい!」
「こんな豪華なもんなのか…」
「そうだよねぇ…」
寮はクラスごとによって棟が違う。Aクラスの棟を見たが他のクラスの棟よりも明らかに大きかった。
部屋の中に入ってみるとなんとも広い空間が広がっていた。
俺は部屋の中に入った。
ユミは俺の隣の部屋だった。
荷物を整理し、机の上を見ると学園専用のスマホが置いてあった。
レイが言うにはこのスマホを使用してクラスのやつにペアを申請し、それが承諾されればペアが成立するみたいだ。他にも塔管理機関のホームページにアクセスして塔に関しての情報を得ることや、クラスのやつとメッセージを送り合ったりできる。
とりあえず俺はユミに申請を送っておいた。
とりあえず学園内の散策にでも行こうか。
そう思い、外に出た。
相変わらずこの学園は広いな。迷子になってしまいそうだな。
「お兄ちゃん!」
ふらついていたらユミがいた。
「お前、なにしてるんだ?」
ユミはスマホを一生懸命に操作していた。
「これ、使い方わかんないんだけど…」
「あぁ、そうか。教えてやる」
ユミはどうやら機械音痴だったみたいだ。
とりあえずペアは成立させておいた。他にも塔の情報を調べる方法などを教えておいた。
「お兄ちゃーん。手合わせしよ」
「俺は疲れてるんだよ。勘弁してくれ」
「ええー!じゃあ明日ね!」
「はいはい」
気がつけば日が暮れていた。
「ほら部屋に戻るぞ」
「はーい」
俺たちは寮の部屋に戻った。
俺は塔に持っていくものの準備をしていた。
50階層まで登ると仮定して少なくとも2ヶ月は塔の中にいることになる。
レイもそれを知っているから持ち物に3ヶ月過ごせ水と食料と言っていたのだろう。
まあ俺は持って行かない。邪魔になるだけだ。食料と水は塔で調達できる。
塔は一度登るも大変だが降りるのも大変だ。
準備は終わらせた。あとはこの三日間をどう使うかだな。
布団に入り、考え事をしていた。
この実習で確率は低いが死者が出るかもしれない。
39階層まで二人組であるとはいえ相性の問題もある。
学園はそれを考慮せずにこの二人組を作らせるように仕向けた。
将来性のあるクライマーの選別をもう始めているのだろう。
死者が出ないように祈ろう。
だが、俺は自分の妹を絶対に守る。
たとえこの異能を知られようとも。
三日後
俺とユミは塔の前に集合していた。
「ユミ」
「あ!お兄ちゃん!」
「おはよう」
「あれ、荷物は?」
「いらない」
「ええ!食べ物とかどうするの!」
「現地調達だ」
「ええ…」
他のAクラスのやつも集まっていた。
するとそのうちの1人が近づいてきた
「やあ!君は確か…ユウくんだっけ?」
「そうだ。君の名前は」
「僕はレオン!よろしく!」
「レオン。よろしく」
「隣にいるのは君のペア?」
「そうだね」
「私はユミ!私たち双子なの。よろしくね」
「君たち双子なんだね!通りで似ているわけだ。共に頑張ろう」
「頑張りましょ!」
「それじゃあ39階層で会おう!」
そう言って自分のペアの元へ戻って行った。
「あんな明るいやつもいるんだな」
「私みたいだね」
「そうだな」
「諸君!集まったか」
どうやら全員集まったみたいだ。
レイの隣にいるやつは恐らく今回ついてからもう1人の教師だろう。
「今回ついていく教師は担任である私と重力操作の異能を持つヴァルフだ。」
「よろしく」
重力操作か。まあまあ使える異能だな
「それでは事前説明をする!
まず、24階層まで全員で向かう。そこから1組ずつ25階層に行ってもらう!各階層は途轍ともなく広い!5分おきにペアを投入していく!」
事故らないようにするための時差だろう。
「今回の実習は2ヶ月以上続くと思いたまえ!配布した通信機は常備しておくように!それでは24階層に向かうぞ!」
俺たちはエレベーターに乗って24階層に向かっていた。
「諸君!全員いるな!」
久しぶりの登攀だな。正直楽しみである。
あの頃と変わっているのか…
いや、塔は生きている。環境が変わってもおかしくはない。
「それでは最初のペア!入りたまえ!」
そう言いドアが開かれる。
塔の次の階に登るドアはワープゲートのようなものになっている。
どうやら最後のペアは俺たちみたいだ。
「お兄ちゃん。大丈夫かな」
「大丈夫だ。俺がいる」
「まあ!そうよね!頑張りましょ!」
「5分経過!それでは入りたまえ!」
「はーい」
そう言い俺たちはそのワープゲートに入った。
25階層
そこはあたり一面、森のような場所だった。
「お兄ちゃん!行こう!」
「気をつけろ。塔の生物が急に襲ってくる可能性がある。警戒は怠るなよ」
「わかった!」
さて、何年振りだろうか。
久しぶりの登攀を楽しもうじゃないか。
もっとも。この塔が以前と同じ姿をしていれば、の話だが。




