12話 塔の実習Ⅷ ― 終わりと始まり ―
俺はクロの使徒と向き合っていた。
「ハッ…懐かしいな」
そいつは顔がないが笑っているように見えた。
こいつは、今までの敵とは格が違う。
「…」
闇を纏う。
《闇穿》
次の瞬間、俺の拳はクロの使徒に突き刺さっていた。
ドゴォォン!!
衝撃が爆ぜ、そいつが吹き飛び壁にぶつかる。
砂埃が起こり、視界が悪くなる。
昔と比べて…威力が落ちているな。
これでやられてくれてると楽だが…
その瞬間、
見えない斬撃が飛んできた。
バギィ!
そんな音が響く。
俺は闇を纏わせた腕で弾き飛ばしていた。
視界が晴れ、そいつが現れる。
まるで効いていないようだった。
思わずニヤけてしまう。
「最高だ」
バゴォォン!!!
気がつけば俺は吹き飛ばされていた。
「ユウ!!」
レイが叫ぶ。
「大丈夫だ」
俺は言う。
《虚神纏装》
闇をより一層纏う…
「お前が相手なんだ…本気でやらないと死にかねない…」
闇が軋む。空気が沈む。
周囲にいた生徒達が、一斉に息を呑んだ。
「な…なんだよ…あの闇…」
「先生…あれが…ユウの力…?」
レイでさえ、言葉を失っていた。
クロの使徒は…動かなかった。
いや、動けないのではない。
観察している。試している。
次の瞬間。消えた。
「…遅い」
俺は振り返り様に拳を振るった。
ドゴォン!!!
闇と闇が衝突する。
衝撃波が地面を抉り、周囲の建物が崩壊した。
クロの使徒の拳を、俺は片手で受け止めていた。
「ハッ…」
笑みが零れる。重い。
だが…折れない。
クロの使徒の腕に、闇が絡みつく。
「捕まえた」
《消滅の闇》
次の瞬間、闇が爆ぜた。
ゴォォォォォン!!!
クロの使徒の腕が…消し飛んだ。
全身を消したつもりだったが…
まさか、避けるとはな…
「少しは学んでるみたいじゃないか」
だが、
次の瞬間。
消えたはずの腕が、再生した。
「…ッ!」
更に…笑みが溢れてしまう…
あぁ、塔はこうあるべきだ…
俺は自分でも気づけない速度でその使徒の顔を掴んでいた。
わずかに…
その使徒が動揺したように見えた。
「次は…逃がさないからな…?」
《抹消》
次の瞬間、使徒が
まるで最初からそこに存在していなかったかのように
消え去った。
使徒が消えた。静寂が訪れる。
誰も動かなかった。
「……終わった…のか?」
誰かが呟いた。
レイも、周囲の生徒達も、
ただ立ち尽くしていた。
俺は、違和感を感じていた。
「……」
消した。
確実に、存在ごと抹消した。
なのに…背筋が冷たい。
その瞬間。
ゾワッ
空間が、震えた。
「……は?」
誰かが声を漏らす。
何もない空間に黒い点が生まれた。
点は、
広がり、
歪み、
形を作る。
そして…
それは再び、
さっき俺の目の前にいた、
クロの使徒になった。
「な……」
レイが絶句する。
あり得ない。
抹消は、存在そのものを消す技だ。
再生などあり得ない。
とはいえ…俺の顔から…
笑みが消える事はなかった。
使徒は、ゆっくりと首を傾けた。
まるで、笑っているように。
「…今のは、危なかった」
声が、聞こえた。
初めてだった。
そいつが言葉を発したのは。
俺の心臓が、大きく脈打った。
「やはり君は…特別だ」
「そうだな」
「だけど、僕はもう君に負けた。塔が…そう受理した」
「…」
「ユウ…」
そいつは俺の名を呼んだ。
「いや…」
そいつが何を言おうとしたか察した。
その瞬間、
何かを言おうとしたそいつの顔を掴み、
グシャ
鈍い音と共に、クロの使徒の頭部が潰れた。
抵抗はなかった。
その身体は、力を失った人形のように崩れ落ちる。
ドサッ…
静寂。
俺は異能を解除した。
「……ユウ」
レイが俺の名前を呼ぶ。
だが、俺は答えなかった。
…違う。まだだ。
その瞬間。
パキッ
何かが割れる音がした。
「……?」
誰かが息を呑む。
潰したはずの使徒の身体に、
黒い亀裂が走っていた。
そして…
光が漏れた。
黒い身体の内側から、白い光が溢れ出す。
「なんだ…それ…」
生徒の一人が震えた声で言う。
使徒の身体は、崩壊していく。
砂のように、
粒子となって消えていく。
だが…
最後に、声だけが残った。
『次は、本体で会おう』
俺の目が細まる。
『神臨の徒』
光が消えた。
完全に消滅した。
静寂。
完全な終わり。
そして…
塔が反応した。
ゴォォォォォン……
空間全体に、
重い鐘の音が響いた。
「な…何…?」
レイが周囲を見回す。
その時、
俺の目の前に文字が浮かんだ。
【上位存在の撃破を確認】
【塔による結果受理】
【個体名:ユウ】
【危険度評価:更新】
【制限レベル:再設定】
「……チッ」
来たか。レイが俺を見る。
「ユウ……今のは一体なんなんだ?」
俺は答えなかった。
ただ、空を見た。
クロ。
お前……
最初からこれが目的だったな。
「…お兄ちゃーん!どこ!」
遠くからユミの声が聞こえてきた。
この階層がとても広く、来るのが遅くなったのだろう。
「ここだ」
「あ!いた!」
ユミが一瞬でそばにくる。
「大丈夫だったか?」
「私を誰だと思ってるの!お兄ちゃんの妹だよ?」
「…そうだな」
「それで、なんかあった?」
「いろいろな」
「え?もう終わっちゃったの?」
「ああ、終わらせた」
「さすがだね」
「まぁな」
あたりを見渡す。
この戦いでの死者はヴァルフ…か。
あれ、セラフィムは…どこに行った?
次の瞬間、
俺は遠くから禍々しい何かが近づいてるのに気づいた。
使徒…?いや…人の気配だ。
「お兄ちゃん、どうかした?」
強化の異能を持つユミが気づけない…か。
他の皆も気づいていなかった。
いや…俺にしか気づけない気配…なのか?
「諸君。皆いるか」
「先生、セラフィム君がいません」
他の班の奴が言う。
「セラフィムがいない…?」
「先生…」
俺が言う。
「セラフィムのことですが…」
その瞬間、
皆が気づいた。
その禍々しい気配に。
コツ、コツ、と足音をたて、
その気配は近づいてきていた。
「貴様達が…アセント学園の実習を行なっている人間達だな?」
低い声が響く。
皆がその声の方向を向く。
レイが目を見開き、
「貴方は…塔管理機関の…」
「俺はディオスだ」
ディオス…
そいつは、気絶したセラフィムを担いでいた。
「このガキが途中で倒れていた。感謝しろ」
セラフィムはほとんど無傷だった。
「最高監理官からの命令だ。実習を終了させにきた」
「…ッ!了解致しました」
ディオス…
バグで現れたルシフェリオスを覚醒したとはいえ、
ほぼ1人で倒した存在…
そして…何よりも、
塔の使徒という異能を授かった人間。
「実習を受けている人間はこれで全員か」
「はい」
レイがそう言った直後、
「《階層超越》」
ディオスがそう言った瞬間、
俺達は塔の1階層にいた。
「この技は49階層以下でしか使えない。特別だと思え。レイは俺についてこい。他のガキは学園に行け。ヴァルディオスがいる」
そう言いレイとディオスはその場を去って行った。
「あの人…一体…」
「やばそうな奴だったよな…」
「とりあえず学園に行くか…」
他の奴らはそう言い学園へと向かって行った。
残されたのは俺とユミと気絶しているセラフィムだった。
「ユミ、先に向かっていてくれ」
「え?お兄ちゃんは?」
「こいつを起こしたら向かう」
「あ、わかった。待ってるねー」
そう言いユミは去って行った。
「…」
その時、
ピクリ
セラフィムの指が動いた。
そして、ゆっくりと、セラフィムが目を開けた。
その瞳は…
今までのセラフィムのものではなかった。
「やっと…か」
低い声だった。
「お前…誰だ?」
俺はそう聞いていた。
セラフィムは、ゆっくり笑った。
「酷いな、仲間だろ?」
だが、確信した。
こいつは…セラフィムじゃない。
その声はセラフィムだった。
中身が違うと感じたんだ。
セラフィムは立ち上がった。
「……また会おう」
次の瞬間、空間が歪み消えた。
俺は何も言わなかった。
ただ…確信していた。
物語は、ここからが本当の始まりだと。
「おーい君は…」
遠くから話しかけられた。
その人が近づいてきた。
「ユウくんじゃないか」
ランスだった。
「何日振りですかね」
「2ヶ月振りだよー。実習行ったとは聞いたけど、終わるの遅かったねー」
「2ヶ月?」
「2ヶ月だよ」
…おかしい。
本来、塔と地上での時差が出るのは50階層からだ。
上に行くに連れて時差が激しくなる。
例えば90階層での1分が、
地上では1ヶ月…
だとか。
詳しい時差の計算はされていないから、実際どれだけの時差があるかはわからない。
「お久しぶりです」
「塔はどうだった?」
「散々ですよ」
「ハッハッハ!お疲れ様。疲れているだろう?早く帰って休みな」
「ありがとうございます。それではまた」
俺はそう言いその場を去った。
読んでいただき、本当にありがとうございます。
ここまで読んでくださった方がいたら、本当に嬉しいです。
塔での実習は終わりましたが、物語はまだ始まったばかりです。
ここから先、ユウを取り巻く世界は大きく動いていきます。
感想や評価などもいただけると、今後の励みになります。
これからも投稿していきますので、よろしくお願いします。




