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魔弾の狙撃手  作者: 結城 からく


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1/3

前編

 薄暗い車内で兵士達が腰かけている。

 沈黙が続く中、低いエンジン音と荒れ地を走行する揺れだけが繰り返されていた。


 銃を抱える一人の新兵は、泣きそうな顔で呟く。


「ああ、もう駄目だ……」


 その様子に気付いた指揮官が愉快そうに笑って話しかける。


「新兵、何を怯えてるんだ。顔がルグの実くらい青くなってるぞ」


「だ、だって今から百年戦場に向かうんですよ。怖いに決まってるじゃないですか」


 百年戦場とは、人間と魔法使いが殺し合う血みどろの土地である。

 両者が百年前から奪い合っていることが名前の由来で、現在に至るまで泥沼の戦闘が繰り広げられている最前線だった。


 指揮官は新兵の肩を叩きながら威勢よく言い放つ。


「魔法使いが何だ。あいつらはちょっと物理法則をねじ曲げるだけの人間だろ。脳か心臓を潰せば大抵は大人しくなる。たまにそこから復活する奴もいるけどな」


「まったく安心できないのですが……」


「不安を払拭する必要はない。ほんの少しばかり冷静になるだけでいい。ほら、モナを見習え」


 指揮官がモナと呼んだのは、車内の端に座る女兵士だった。

 年齢は二十代後半ほどで、金髪碧眼の端正な顔立ちをしている。

 ただし無表情で虚空を眺める姿が、美しさよりも不気味さを際立たせていた。


 指揮官は自慢げに説明する。


「モナはガキの頃から義勇兵として戦ってきた。まだ若いが経験豊富で、魔法使いとの戦闘法を誰よりも心得ている」


「す、すごいですね……」


「本人が目立つのを嫌って、戦績スコアを過少報告したり、昇進や勲章を断るせいで、意外と知られていないんだよな。でもベテラン連中からは信頼されてるのさ。俺だってモナに命を救われたことがある」


 指揮官は懐かしそうな目で語る。

 彼はモナの前まで歩み寄ると、気さくな口調で頼んだ。


「せっかくだ。新兵に何か助言してやってくれ」


 モナは顔を上げて思案する。

 暫し黙り込んだ後、彼女は無表情のまま新兵に告げた。


「……訓練を思い出し、常に最善の行動を取ることでしょうか」


「はっはっは、当たり前のことだが確かに大事だな。そして、極限状態でそれを完璧にこなせる人間はなかなかいない。頑張って生き残れよ、新兵」


「は、はいっ!」


「よし! 作戦の確認をしておくぞ。到着後、我々は――」


 指揮官が全体に呼びかけた直後、大きな揺れが彼らを襲う。

 次の瞬間、車内の天地がひっくり返った。

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