第6話 確かめてみますか?②
「それで、如何でしたか? 私はロボットか、それとも人間か。分かりましたか?」
「わ、分かる訳がない。俺に女性経験は無いんだから」
「あら、そうでしたか。では余興はこれにて……最後にもっと分かり易く私を感じて頂くとしましょう」
「は……?」
余興……?
やっぱり俺は弄ばれていたらしい。
メリーゼは両手を開き、その状態で俺を呼ぶ。
「来て下さい」
「こ、今度は何をするつもりだ」
「私の音を聴いて頂きます。それで私の正体が分かりますわ」
「……全く」
まんざらでもない。とは、絶対に思いたくない。
しかし、好奇心があるのも確かで──結局、彼女に身体を委ねることにした。
来て下さい、と言われた彼女に歩み寄ると、
後頭部をすぅっと引き寄せられる。
つい抵抗を試みてしまうが、「力を抜いて」と囁かれて力が抜けてしまった。
俺の頭部は、彼女の胸部へ。
そこにあった二つの膨らみの間に、耳を張り付けて──
「メ、メリーゼ……これはちょっと」
「耳を澄ませて下さい」
「……」
彼女は俺の言葉なんて聞く耳を持たず、
言われた通り耳を澄ませば、彼女の胸中に集中する。
ドクドクと中で何かが鳴っている。それは紛れもない心臓の音だ。
スーッと胸が膨らむのは、彼女の呼吸だ。
人間と同じ、彼女は生きている。
ただ、人間にある筈がない音もあった。
駆動音だ。
非常に静かではあるが、モーターのようなものが回り続けている。それが僅かな振動となって耳に届く。
だが、何と心地良い音だろうか。
その静かな音の合奏に、身体の力が抜けていく。
全身を彼女の細い身体に委ねる。彼女は微動だにせず俺を支えてくれ、抱き締めるように両腕を回してくれた。
全てを誰かに預けること──遥か昔に感じたことがある気がした。
。
「貴方様」
彼女の声が静かに響く。
「私はロボットです。お分かり頂けましたでしょう?」
「あ、ああ……心臓もちゃんとあるんだな」
「ただそこに有るだけです。呼吸も、ただ膨らんで萎んでを繰り返しているだけです」
「そ、そうなんだ……」
「服を脱げばもっと分かり易いですよ?」
「なっ、何言ってるんだ……!?」
「可愛らしい反応ですね。くすす」
「……」
彼女の言葉が思わせ振り過ぎる……。
「暫く、こうしていましょうか?」
「……えっと、うーん」
そんな提案をされては、つい受け入れてしまいそうだ。
だが、俺の中に残っていた僅かな対抗心がそれを否定する。
俺は彼女から頭を離した。
「あら」
「お前……他の生徒にもこんなことしてるのか」
何故今、そんなことを訊いたのか俺にも分からない。ただ頭の中にあった疑問を口にしたら、それだった。
「くすす。さぁ、どうでしょうか」
小悪魔っぽく笑って、彼女はスッと一歩退がった。
「な、何だよ……」
「いいえ、何も。くすっ」
メリーゼはメイド服のスカートを摘み、軽くお辞儀をしてから、俺の前を通り過ぎていく。
白い綿飴のような髪がフワリと浮き上がった。
そういえば、匂いがしなかった。
なんて思いつつ、美しい彼女を目で追っていく。
窓の外を見上げたメリーゼは首を此方に向け、笑った。その妙にいじらしい顔が、俺の心を揺さぶってくる。
彼女はただのロボットだ。その筈なのに、何だろうか。
俺に宿るこの胸の高鳴りは──
「貴方様」
彼女は振り向き、
「七秒間見つめ合うと、恋に落ちるそうですわ」
これは俺にとって人生最大の分岐点だった。
俺が好きなのは一ノ瀬ムスビ。
なのに、ロボットである彼女は、たった一瞬で俺の心に介入してきた。
どちらを選ぶかは明白な筈。それを憚らせるくらいには、メリーゼはあまりに美し過ぎた。
既に俺は、七秒以上彼女と見つめ合ってしまっていた。




