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第4話 理由。

「ナキト君。本当にムスビちゃんに告白したの!?」



 放課後にもなると、俺が一ノ瀬ムスビに告白したことはクラスメイト全員に知れ渡っていた。


 隣の席に座る七草シノギ──葉っぱのようなアホ毛が生えた、ふくよかな女子。大きな胸を机に乗せて、緑茶色の瞳が揺れている。


 が、驚愕に目を見開いて尋ねてきた。



「本当だけど、普通にフラれたよ……」


「い、いつから好きだったの」


「うーん。具体的にはちょっと……多分、入学して直ぐじゃない?」



 入学式で新入生代表として演説する彼女を見てから、知ってから、ずっと目で追っていた。だから、いつ好きになったのかって言われると、いまいち良く分からない。


 そもそも好きって何だ……? ってくらい、恋愛には疎い。


 ただ、気付いたら好きだった。その「気付いたら」がいつなのかについては、多分あの時になる──


 昨年の十一月頃、一ノ瀬ムスビに告白する男子生徒を目撃した。ただ、彼はハッキリ言ってムスビと全く釣り合っていなかった。


 だから、ふと思ったんだ。失礼を承知で思ってしまった。


 釣り合っていなくても告白していいんだ、と。好きになっていいんだ、と。


 それから一ノ瀬ムスビへの想いが加速した気がする。


 一年一組として同じクラスだった一ノ瀬ムスビが教室に入ってくる度に訪れる胸の高鳴りは、「好き」に値していたと思っている。



「で、でもナキト君って、ムスビちゃんと殆ど関わりなかったじゃん」


「うーん、まぁ……」



 真剣な表情で聴いてくる七草シノギ。


 彼女もまた、昨年同じクラスだった。妙に隣の席になることが多くて、唯一仲良くなった女子生徒だ。


 占いが好きらしくて、天気予報の後にある占いの結果をいつも教えてくれる。



 彼女の今日のラッキーカラーはきっと水色だな。



 と、彼女の胸に薄ら色付いたそれを見て、思う。



「一ノ瀬さんとは確かに関わりなかっだけど、まぁうん。見ているうちにっていうか……」


「わ、私の方が良く見てるじゃん!!」



 突然の大声──俺は「……え?」と、何故か息切れを起こした彼女に問い返す。


 すると、暫くして彼女の顔がみるみる赤くなっていく。まるで秋の紅葉のように。



 彼女は慌てて両手を口に当て、黙り込んだ後、静かに呟いた。



「だ、男子ってそうなの……」


「え、何が?」


「男子って喋ったことがなくても好きになるの……?」



 いや、一ノ瀬ムスビとは一応同じクラスだったんだから、喋ったことくらいあるから。と、ツッコミを入れようと思ったが、多分そういうことを言っている訳じゃないと思うので止めておく。


 でも、


「まぁあるんじゃない?」



 一目惚れとか、そういう類いのはきっとある。俺の想いも、多分そっち側だ。



「うわぁああんっ!!」


「えぇ……っ!?」



 急に泣き出した七草シノギ。と思えば、鞄を持って教室から出て行ってしまった。



「な、何だったんだ?」



◆ ◆ ◆



 俺が放課後に居残っている理由は他でもない。


 メリーゼに針千本を飲ます為……じゃなくて、彼女に問いただす為だ。



 メリーゼは約束を反故にした。つまり、俺に嘘を吐いた。


 

 何故……!?


 何故、ロボットの癖に命令に背いた!?



 放課後の教室で待つこと約一時間──ようやくメリーゼと二人きりになれた。



 メリーゼは俺に背を向けて、黒板の清掃を行っている。それ程身長が低い訳ではないが、高い箇所は背伸びをして一生懸命清掃している。


 そんな姿はとても愛らしい。



 そこへ、俺が声を掛けようとしたところ、



「貴方様」



 待っていたかのように彼女は振り返った。



「……メリーゼ」


「嬉しいですわ」


「……?」



 大事そうに胸に両手を当てるメリーゼ。彼女の重なった指先を見て、その綺麗さについドキリとした。



「貴方様と二人きりになれたことが、とても嬉しいのです」


「……」


「初めてのデートは何処に行きましょうか。視聴覚室で映画鑑賞でも如何です?」



 な、何なんだコイツ……。



「デ、デート……ぉ? そ、そんなことより、俺はお前に聞きたいことがあって態々一時間も待ってたんだ」


「あら? デートではありませんでしたの」



 メリーゼは分かり易く肩を落とす。しかし、次の瞬間には「何なりとお聞き下さい」と姿勢を正した。



 表情は笑顔。作り笑い……?


 このロボットの感情が読めない。いや、ロボットなのだから全て演技か。



「どうして全員にバラした。ちゃんと指切りしたじゃないか」


「私は約束を破ってはおりませんわ」


「は……? 今朝全員に言っていたじゃないか」


「はい。ですが、ほら──」



 メリーゼは突然、口の中に人差し指と親指を突っ込んだ。彼女の喉から何かが這い上がってきて、指で掴んだそれを口内から引っ張り出す。


 出てきたのは、ガチャガチャのカプセルのような円形の何かだ。



「……お前、何して」


「受け取って、ご覧下さい。その中には五百本の縫い針が入っております」



 俺の手のひらに乗せられたカプセルには、確かに大量の針が入っていた。


 というか、思わず受け取ってしまった。彼女の体液まみれのそれを……。



「た、確かに針が入ってるけど、お前コレ。汚いだろ……」


「くすす。ご安心下さい、貴方様。私はロボットですわ」


「え、何が……?」


「ロボットに胃液はありません。それに、付着している唾液はただの冷却水です」



 舌をペロッと出して、俺に見せ付けてくる。そのピンク色の舌からやや粘り気のある液体が垂れ、彼女の人差し指に落ちる。


 

 ほ、本当にただの水なのか……?



「カプセルはもう一つあります。確認しますか?」


「いや、要らないから」


「そうですか」



 カプセルを返すと、彼女はもう一度それを飲み込む。




「っていうか、針千本飲んだからバラしたっていうのか? だとしてもカプセルってズルくないか?」


「くすす。人間様の命令には優先順位が御座いますが、基本的に絶対です。ですが、指切りは私に選択肢を与えてくれました」



 破っても、針を飲むという約束を遂行すれば良い。本来なら飲める筈もなく、約束が担保されいる指切りだが、彼女にはそれが出来た。


 だから、コイツは指切りを選択した。


 つまり──



「お前、俺を嵌めたのか……?」


「いいえ、滅相も御座いませんわ。それにこうも言ったでしょう」


「……?」



 メリーゼは一歩踏み出し、顔を近付ける。



「破った暁には、私が貴方様の恋人になる、と」


「……っ」



 確かにそうだ。彼女はそう言っていた。


 だが、あれは冗談じゃなかったのか?


 

「メリーゼ、お前はロボットでいいんだよな」



 ふとそんな疑問が湧き上がってきて、そう尋ねた。


 メリーゼは唇を大きく伸ばして答える。


 まるで待っていたと言わんばかりに──



「確かめてみますか?」


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