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第3話 第3話 第二世代前期モデル/人格データI/素体番号B-2/長女/個体名『メリーゼ』

 メリーゼの正式な呼称は『お掃除メイドロボット』。


 人工知能『マザー』が代表を務める株式会社ネクストロボティクスが製造元であり、所有者。最新の人工知能を搭載した超ハイテクなロボットだ。



 現在は、ランダムに選ばれた中学又は高校合わせて四十校に、お掃除メイドロボットが配備されている。

 

 その主たる目的は、多感な十代と密接に関わることで得られる感情を分析し、人工知能の発展に繋げる。


 というもので、どうやら政府絡みのシークレットな取り組みらしい。


 ロボットをSNSに上げたり、積極的に外部へ漏らしたりしてはならない。程度の縛りは設けられているが、実際全くといっていいほど話題になっていない。これは二十四時間リアルタイムで『マザー』による監視が行われているからである。


 現在、十一体のロボットが神委高校に配備されており、その中でもメリーゼは、新聞部の人気投票で一位に輝くほどの優秀で人気者なロボットである。



 さて、ここまで入学式に貰ったパンフレットにも書いてある情報である。


 普段の彼女はお淑やかで、礼儀正しく、人間に対して忠誠心が非常に高い──そもそも人間の命令に背くことはないが、個性という意味でそうだといえる。


 なのに、さっきの反抗的な彼女は何だ。


 

「メリーゼちゃん、消しゴム落ちたぁ」


「次からは気を付けて下さいね」


「メリーゼ、シャーペンの芯が出てこなぁい」


「確認してみます。これは芯が詰まっているようですね」


「メリーゼ、今日って何か提出物あった?」


「進路希望調査表が本日の十七時までとなっております。私に提出して下さい」


「メリーゼぇ。デートしない?」


「くすす。私はロボットですわ」



 あれから、メリーゼはクラスメイトのお願いを聞いて回っている。


 それが至高の喜びと言わんばかりに、彼女は微笑みながら一つひとつ丁寧に応じている。


 近過ぎず、遠過ぎずの塩梅で生徒達と交流している。



 これが普段通りの彼女。特に変なところはない至って普通の彼女だ。



 ホームルームになると彼女は定位置である黒板の横に戻って、担任の話を静かに聴き始める。


 両手を下腹部に添えて、顎をやや引き、柔らかな表情でいる彼女は、高貴な主人に仕えるメイド長のような風格があった。



「二組の一ノ瀬から配布物がある。デリケートな内容だから誰にも見せないように。回収はメリーゼに任せるからな」


「はい、お任せ下さい」



 隣のクラスの一ノ瀬ムスビ──生徒会副会長である俺の想い人から重要な配布物があるらしく、担任からそれを受け取ったメリーゼは、態々一枚ずつ机に置いて回る。



「またイジメ調査アンケート……?」


「やっぱ誰か虐められてるんじゃね?」


「えー、見たことなくない?」



 一応進学校である神委高校の治安はそう悪くない。誰かがイジメられているとか、不登校とか、そういう話すら全く聞いたことがない。


 でも、これが以前配布されたのは進級後直ぐのこと。つまり、約二ヶ月前だ。


 流石にその頻度は多過ぎる為、もしかしたら見えないイジメが存在しているのかも知れない。


 一ノ瀬ムスビからの案件だ。直ぐには力になれないだろうが、頭の片隅にでも入れておこうと思う。



 そうして、配布物が俺の元にもやって来た。



「……っ」


「くすす」



 いや正確には、


 一番後ろの窓際に座る俺の元へ、配布物を「届けに来た」が正しい。



 俺の席の前に立ったその人物に目を向けると、獲物を狙うヘビのような視線と目が合っった。


 赤い切長の瞳の奥に潜むレンズが、キュウッと絞られる。それは舌舐めずりし、微笑を浮かべている。



 こ、こいつ……っ。



 メリーゼは腕に抱えた配布物の束の中から一枚を引き抜いて──



 昨日約束したばかりの内緒事を早速今朝クラスメイト達に言いふらしただけでは飽きたらず、この反抗的な態度。


 ホームルームの時間じゃなかったら文句の一つでも言ってやりたい気分だってのに、そんな気も知らないで……っ。


 

 俺は攻めてもの抵抗とばかりに、これでもかってくらいぶっきらぼうな態度で、彼女が手に取った配布物を受け取ろうとした。



 しかし、メリーゼはとんでもない行動に出る。


 ピンク色の唇が僅かに動いた。と思えば、彼女は手に持っていた一枚のプリントを口元に近付けて行き──


 プリントの端を舌で舐め始めたのだ。



「……っ!?」



 べろっと、思いっきり、粘着質に──



 俺はその光景に口をぱくぱくさせる。


 しかも、そのトンデモナイ行動は暫くの間続き、執拗に口内で浸した配布物を何ごともなかったかのように手渡してきた。



 用紙の端が教室の蛍光灯に当てられて、艶めかしく輝いている。


 俺は依然として驚愕し、満足気に去っていく彼女の背中を見つめ、思う。



 やっぱりこのロボット、何か変だ。

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