第19話 告白大会。
「メリーゼ、好きだぁっ!! 俺と付き合えぇっ!!」
「くすす。坂田様は人間様ですわ。私はロボットです」
「くぅあっ!! やっぱりダメかぁっ!?」
「ははっ、振られてやんの」
中間テスト前ということで部活動が全面的に禁止となっている現在──放課後の教室には普段より多くの生徒が居残っていた。
進学校にしては偏差値が低いここ神委高校では、机に齧り付いて勉強する生徒も居れば、ふざけ合っている生徒も居る。
俺とシノギはもっぱら前者だ。
二人とも大して勉強が出来ない上、自宅で勉強が捗った試しがない。その為、シノギの提案により放課後に勉強を教え合おうということになっていた。
俺が得意なのは数学、シノギは化学。
なのだが、
「ああっもうっ、分かんないよぅっ!!」
早々に諦めてシャーペンを放り投げるシノギであった。
「シノギさんが言ったんじゃないか。手分けして勉強しようって」
「だからって難し過ぎるよぅっ!!」
「だからコツコツ勉強しろってあれほど」
「ナキト君だって分からない癖にぃっ!!」
「だって俺は──」
メリーゼがここ最近ずっとちょっかいを掛けてきた所為で、授業に集中出来なかったんだよ。
とは言えず、溜息を吐いて男子生徒から告白されているメリーゼのことを見る。
「メリーゼ、愛してるぞ!!」
「私も人間様は好きですわ」
「おっ!? これ、今まで一番良い反応じゃね!?」
「馬鹿お前、やんわり断られてるんだよ」
野球部やサッカー部等の「ノリが良い」生徒達が集まって稀に起きるメイドロボットへの告白大会。
一学年の時は三組のテルタというメイドロボットが対象にされていたが、二学年になった今は、あのメリーゼが居る。
彼女が対象となるのは必然だった。
現在はサッカー部の部員が教室の三分の一を占拠し、告白大会が開かれている。中には三年の先輩も居れば、新入生らしき男子生徒も見て取れる。
流石に先輩を含む十数人相手に注意することは出来ず、静かに事が済むのを待つしかない。
「ナキト君、またメリーゼのこと見てる!? やっぱり私よりあっちが大事なんだぁっ!? うわぁあんっ──!!」
「……はぁ」
と、メリーゼを見つめていたら、こうしてヒステリックなシノギに怒られてしまう。
出来れば図書室で勉強したかったが、もう既に満員だった。
「お前ら、全然駄目じゃん」
「だったら、深山先輩もやって下さいよー」
「そーだ、そーだ」
「俺はお前、彼女居るから良いんだよ」
「え、またぁ? ついこの前別れたばかりじゃなかったでした?」
三年の深山先輩──サッカー部のエースで主将、非の打ち所がないイケメン。
入学当時から一個上にとんでもないイケメンが居るって、噂になっていたのを覚えている。
部活動に入っていない俺ですら、何度かお目にしたことがある顔。一目見れば忘れない、圧倒的な勝ち組の顔。
あの一ノ瀬ムスビとも付き合っていた時期があるとか、ないとか……。
そんな彼が、この告白大会を仕切っているらしい。
「ほら、次誰だよ。メリーゼに告るやつ」
「あっ、話逸らした」
「もう先輩意外残ってないって──」
「はぁっ!? もう全滅したのかよ。だったら、他に誰か連れて来いよ」
「他にって言っても──あっ」
不意に目が合ってしまった。
同じクラスの坂田という男子生徒だ。無論特段仲が良い訳じゃないが、彼は俺と目が合うなり、旧友に会ったかのように笑って、
「深山先輩!! 俺、めっちゃ良いやつ知ってるっす」
そんなことを言い始めたのだ。
彼は俺の元までやって来て、
「篠宮、お前挑戦してみろって」
そう言い出した。
勿論俺は彼を睨み付け、拒否する。だが、
「頼むって……深山先輩、メリーゼのことになるとうるさいんだよ」
「……」
「一生のお願いっ!!」
俺の机に両肘を置いて、中腰の状態で祈るように懇願してくる坂田。
「……メリーゼのことになるとって、どういうことだよ」
「ああ、それは内緒なんだけどさ。深山先輩、去年フラれたらしいんだよ。だから、ちょっと根に持ってるっていうか」
「え、ロボットにフラれたくらいで?」
「うーん。まぁ深山先輩、フラれたの初めてっぽくて……?」
尋ねると、彼は小声でそう教えてくれた。
「な? だから、頼むよぉ〜。正直、今朝の見てたらお前ならワンチャンありそうじゃん? どっちに転んでも、深山先輩の反応面白そうだしよぉ」
今朝って言えば、メリーゼが俺の椅子に座ってた件か。
というか、それでいいのか後輩……。
「なぁ、篠宮ぁ〜」
「……わ、分かったから止めてくれ」
「うぉぉっ、サンキューな!! お前、良いやつだな!!」
正直気が進まない。
だが、どうしてもと言う彼に、仕方なく重い腰を上げることにした。
その理由は、深山先輩に尋ねてみたいことがあったから。
「坂田。もしメリーゼが告白を受け入れたら、お前ならどうする?」
シノギに断りを入れた後、メリーゼの元へ向かう。その道中、チラッと坂田に問うてみた。
彼は「うーん」と唸った後、やや言い辛そうに伝えてくる。
「まぁ正直嬉しいけどよぉ。沸きはしないんだよなぁ」
「……? 何が?」
「ほ、ほら……その、性欲的なのが──」
え、性欲……?
思っても見ない回答に、俺は呆れて「は?」と溢す。
「いやだってよぉ。そういうのって性欲が全てなんじゃねーの?」
「え、そんなことは……」
ふと考えて、「ない」とは確かに言い切れないと思った。
言われてみれば、可愛い女子には多かれ少なかれ性欲が沸く。ムスビには当然として、シノギにだってそうだ。
欲望を露わにするのであるば、触りたいと思うのは思春期の男子として当然の反応だろう。
でも、それを恋愛に直結させたことはない。
どちらかと言えば、好きだから性欲が沸くと思っていた節だ。
でも、清々しいくらい本能に忠実な彼は、その逆らしい。
「ヤリてーなぁ、てなる女子だったら誰でも好きになれるだろ?」
「……うーん」
そういうのをクズって言うんじゃないか?
もし俺が聖人であれば、心から彼にそう言えただろう。
でも、心の何処かで納得してしまっているんだ。
彼の言うことも、一理あると。
但し、俺の中のプライド的な何かは──又は良心は、それを真っ向から否定しようとしている。
だって、俺は──
メリーゼに対して、一ノ瀬ムスビのような性欲は確かに沸いていないからだ。
揺れる心。
人並みに優柔不断な俺は、いつも多数派に同調してしまう俺は、つい彼の発言を「心」に取り入れようとしてしまってる。
気付けば、メリーゼの前に立っていた。
◆ ◆ ◆
俺を迎えたのは、多分サッカー部の連中だ。
軒並み陽キャだった。
「坂田。コイツ、誰?」
「先輩が連れて来いって言ったんじゃないっすかー」
「お前、こんな普通のやつ連れて来てどうすんだよ」
深山先輩は俺の容姿を値踏みするように見た後、高々に笑った。
これが勝ち組に許された態度か。
「で。お前、名前は?」
「篠宮です」
「ふーん、俺のことは知ってる?」
「はい、まぁ」
この男を知らないのは今年入った新入生くらいだろう。素直に肯定しておけば、清々しいくらい嬉しそうな笑みを浮かべる。
深山先輩はかなり分かり易い性格らしい。
「お前、メリーゼと喋ったことあんの?」
「そりゃ、まぁ一組なんで」
「ふーん」
すると、
「深山先輩、コイツ凄いんっすよ。メリーゼに妙に気に入られているみたいで」
「は?」
坂田の言葉に、切れ味の鋭い声が漏れる。
深山先輩からピキリと音が出た気がした。
「へ、へぇ。メリーゼがねぇ」
「……は、はい。そうなんすよ。ははは」
苦笑する坂田は俺と目が合うなり、顔を引き攣らせた。
何故なら、俺が眉を顰めて睨み付けているからだ。
わざわざ深山先輩を煽るような真似をしやがって……。
坂田は先輩に媚びへつらうような男子生徒に見えたが、どうやら違うらしい。
深山先輩はそんな坂田の言葉を受けて、
「メリーゼ。お前、篠宮と仲良いの?」
「はい」
「ふーん」
ハッキリと面白くなさそうな態度を示す。そして俺に向かって、
「なら、やってみろよ。篠宮」
「……」
「メリーゼに気に入られてるんだろ?」
と、挑戦状を叩き付けてきた。
そこへ坂田も、
「篠宮、大丈夫だって。俺もフラれたしよ」
白々しく言った彼に内心で悪態を吐きながら、一度メリーゼの様子を伺う。
メリーゼは相変わらずニコニコとしていた。両手を下腹部で重ねて、忠犬のように待っている。
彼女の瞳が俺に狙いを定める──
「分かりました。分かりましたが、深山先輩。一つ、伺っても宜しいですか?」
「あ? 何だよ」
深山先輩と向かい合う。百八十センチ程度もある長身が俺を見下ろし、格の違いを分からされる。
きっと恋愛経験は天と地の差だろう。
そんな彼に、聴いてみたいことがあるのだ。
「深山先輩って、メリーゼが好きなんですか?」




