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第12話 世界を夢見る。そして、教室に着いたら……。

「うおおぉっ!? ──は、速い速い速い!! 速過ぎるだろぉぉっ!?」



 メリーゼの背中に跨り、首を絞める勢いでしがみ付いている。彼女のふわふわな白い後髪が、俺の身体僅かに押し返してくるのを全身で感じながら、百メートルを凡そ三秒で走り切る。



「おっ、おい、メリーゼ!! まさかお前──」



 校舎の壁を目前にしても、その勢いが失われることはなく、衝突する寸前で彼女は叫んだ。



「しっかり捕まって下さい!! ──飛びます!!」


「やっぱり──っ!?」



 それを聴いた瞬間、死力を尽くして彼女に捕まる。


 直後、頭頂部に大きな風圧を感じた。



 片目を開いてみれば、真っ白い外壁が物凄い勢いで上から下へスクロールしている。


 メリーゼは校舎の壁面に出来た僅かな段差を足場にして駆け上がっており──



 気付いた時には、天高く舞い上がっていた。



「くすすっ。貴方様見て下さい!! 街が見えますわ!!」


「飛び過ぎだってばぁっ──」



 屋上にはフェンスが設けられている。彼女はそれを悠々飛び越え、今や神委市の街並みが見渡せる程の高さにまで到達していた。



 目蓋を少しだけ開ける。



 するとそこには確かに絶景が広がっていて、メリーゼの横顔が直ぐ隣にあった。



 風で舞い上がった前髪から白い額を露わにし、彼女の美しい顔は大きく口を広げて楽しそうに笑っている。



 一瞬、風が気持ち良いのかと思った。



 でも、そうじゃないらしい。彼女の台詞からも分かる通り、キラキラと輝いた瞳が孕んだ憧れは神委市の街並みに向いていた。



 そして直ぐ、内臓が浮き上がるような感覚に陥った俺は目を硬く閉じた。


 

 着地の衝撃は全く感じなかった。


 彼女はすんなりとまた走り出し、何処からともなく取り出した鍵を差し込んで屋上の扉を開ける。


 視界が暗くなったのは、校舎の中に入ったから。彼女は階段をジャンプして一気に飛び降り、三階の踊り場で俺を降ろした。



「到着で御座います。乗り心地は如何でしたでしょうか」



 彼女にしがみ付いてだけなのだが、疲労感を感じている。身体もなんか重いし。


 楽しむ余裕なんてなかった。



「も、もう二度とごめんだ……」


「くすす。少し刺激が強かったみたいですわね」



 静かな廊下に笑い声を響かせた彼女が先に歩き、仄かに香るのは花の匂いが頬を掠めていく。


 但し、恐らくそれはメリーゼ本人の匂いではなかった。



 その後──



「いえ敷地の外に出たことはありませんわ」


「え、そうなんだ」


「はい。ですから、時々屋上で外の世界を覗き見していますの。望遠モードがありますからね。くすっ」


「何でそんな得意気──」



 そうか、やっぱり彼女達は学校を出られないんだ。だからさっき──



 階段を降りて二階へ。二年一組の教室までの僅かな距離を軽いお喋りで埋め、教室の扉を開くと、



「なんだ……よ?」


「シノギ、早くしないと置いてっちゃう──」

 


 教室の中はもぬけの殻──かとも思ったがそういう訳ではなく、三人の女子しか居なかった。


 しかも体操服姿で、良く見ると机には脱いだ制服があちこちにある。



「なっ、なな、ナキト君!?」



 一人、七草シノギだけは完全な下着姿で、丁度体操服のズボンを履こうとしている途中だった。



「え?」



 理解よりも焦燥と罪悪感が先行し、冷や汗が背中を伝う。



 多分コレ、イケナイやつだ──



 しかし、時すでに遅く、教室に居残っていたシノギを除く二人の女子生徒は悲鳴を上げてさっさと出て行き、


 驚愕で身動きが取れないシノギと、ようやく理解が追い付いてきた俺の二人が、静かな教室で見つめ合う。



 今日の五限目って、体育じゃん……。


 メリーゼのやつ、忘れてたな。いや、俺もだけど──



「ナキト君……ふぎゅぅぅ──」



 水色の下着が支える二つの巨大なそれは、一本の谷間を形成して見せ付けてくる。いや、見せ付けている訳じゃないんだろうが、そこをガン見してしまった。



 と、メリーゼが立ち塞がる。

 


「貴方様?」



 微笑む彼女の目は暗い。教室の電気が付いておらず、カーテンを閉め切っているから──では多分無い。



「大きいのがご所望ですか……?」



 彼女は胸に手を乗せ、囁いた。


 メイド服で少し分かり辛いが、ちゃんとある。



 って、今はそんなところを見ている余裕はない。体操服は俺の机にあるんだ。


 即ち、シノギの隣の机だ。



 時間がない。俺はメリーゼを振り切り、ダッシュで机に向かう。


 一応見ないようにしていたのだが、シノギが下着のまま硬直しているのは分かった。


 俺は机に掛けてあった体操服を掴み取り、踵を返して教室を出ようとしたら、



「ズルいっ!!」



 唐突に叫び声を浴びせられた。


 シノギだ。



「ナキト君だけズルいじゃん!! ナキト君もここで着替えてよぉっ!!」


「はっ……!?」


「見たんだから見せてよぉっ!! うわぁはぁぁんっ──」



 コ、コイツ、アホなのか……!?



「見せて見せて見せて見せて!! 見せてよぉっ!!」


「おっ、お前!? 脱がそうとするなって!? 馬鹿じゃないのか!?」


「今馬鹿って言ったの!? うわぁぁんっ──!!」



 もう駄目だ。間に合わない。終わった……。



 下着姿のまま俺に組み付いてくるシノギ。俺の制服のボタンを外そうとして、ベルトを外そうとして──体勢を崩して尻餅を付けば、シノギと顔を付き合わせる。



 巨大な胸が異様な長さに伸びていて、頭が真っ白になった。


 

「きゅぅぅぅ──」 



 小動物の鳴き声みたいにシノギが泣く。


 それでも彼女は俺の服を脱がそうとして、上着のボタンを外し始めた。



 葉っぱのようなアホ毛が左右にくねくね動いている。犬の尻尾かな……?



「わ、分かった分かった!! 分かったから、その大きな身体を退けてくれ!!」


「──っ!? わ、私が太ってるって言いたいの!?」



 そうして押しに負けた俺は、もうここで着替えることにした。


 ムッとしてガン見してくるシノギの前で、体操服に着替えた……。



「ふふん」



 俺の下着をしっかり見て、彼女は満足そうに腰に手を当てる。頬は真っ赤だった。


 チャイムが鳴った時、メリーゼの姿は何処にもなかった。




作者より。

私はどちらかというとリアルよりの描写をしているつもりなのですが、シノギのアホ毛だけ世界観が違うのは気にしないで下さい。

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