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第10話 信じたい。

 スキットが居なくなってから、コンビニで購入した残りの昼飯をその場で平らげる。


 昼休みの残り時間は、後二十分程度。



 俺はスキットに言われた言葉を考えていた。



 ──メリーゼには気を付けて下さい。



 結局、何をどのように気を付ければいいのか。何故、気を付けなければならないのか。


 肝心なことは何も教えてくれなかった。


 スキットから言えることは、アレで限界だったらしい。



「もう訳が分からない……」



 それしか感想が出てこない。


 メリーゼは確かにちょっと変だけど、別に危険なロボットではない。寧ろ、どちらかと言えば良いヤツだ。


 

 次の授業の準備もあるし、取り敢えず教室に戻るか。


 

 そうして、俺が体育館の裏から外へ出て行こうとした時だった。まるで計ったように影が差す。


 そして、その影と一緒にやって来たのは、



「貴方様」



 笑顔のメリーゼだった。



「メリーゼ……!?」



 日影に落ちた彼女の歪んだ笑み。まるで邪悪な何かが取り憑ついていた。


 そんな不気味を携えて、彼女は俺を待っていた。



「どうしてここに……!?」



 どうして俺の居場所がバレた!?


 スキットが教えたのか!? いや、そんな筈はない。彼女はメリーゼをやたら警戒していた。


 じゃあ、何処かに監視カメラでも仕込んであるとか!? それとも俺の身体にGPS的なものが!?



 俺はメリーゼを正面に捉えたまま、目だけで辺りを伺う。特に怪しいものは見つからない。


 だったら──


 ポケットの中を探ってみても、機械らしいものはスマートフォンのみだ。


 というか、気付かれずにGPSを取り付けたのなら、簡単に探せる筈もないか。



 そうして目を逸らしていた数刻の間に、メリーゼはヌッと俺の眼前に現れた。


 覗き込む彼女の瞳に、光は感じられない。



「貴方様こそ。何故、このような場所で昼食を摂っておられるのですか?」



 俺が手にぶら下げたコンビニ袋を一瞥した後、彼女の暗い瞳が向く。



「そ、それは……ほら。猿とか野生動物が出るって聞いたから、ちょっと探しに歩いていて──」


「何故嘘を吐かれるのですか……?」


「え……っ!?」



 気付けば、メリーゼの手が俺の胸に触れていた。



「心拍数が上がっておりますわ。嘘を吐いておられます」


「おっ、おい!! か、勝手に人の心を読むなよ……っ!!」


「──っ」



 反射的にメリーゼの肩を押してしまい、突き飛ばしてしまった。


 不快感と恐怖が同時に押し寄せて、思わず手が出てしまった。



 まさか抵抗されるとは思っていなかったのか、彼女は軽く蹌踉めいた後、目を見開いて──直後、彼女が頭を下げる。



「大変申し訳御座いません。ご不快にさせる意図は御座いませんでした。ど、どうかお許し下さい」


「え!?」



 俺も、まさかメリーゼが頭を下げるとは思ってもみなかった。普段の彼女なら特段おかしなこともないが、さっきの彼女は普通じゃなかった。



 いや、俺の思い過ごしか……?



 スキットにあんな脅しのような忠告を受けた所為で、変なバイアスが掛かっていた!?


 改めて見ると、メリーゼは普通じゃないか。



「こ、こっちこそ悪い。そこまで謝る必要はないよ。痛くはなかったか……?」


「はい。私はロボットですから」


「流石に痛覚までは実装されてないか」


「いいえ。ただ、痛覚といってもそれはただの反応に過ぎませんから」


「じゃ、じゃあ……」


「ご安心下さい。先程のは全く痛くありませんでしたわ」


「そ、そうか……なら良かった」



 しかし、メリーゼは少し寂しそうに微笑んで、



「ですが、私にも悲しいという心は存在します。貴方様のことを良く知りたかったので──」



 俺の理由付けが明らかに不自然過ぎたか。心拍数を読み取らずとも、何かを隠しているって思われても仕方がない。


 それでも態々心拍数を読んだのは、きっと裏付けの為だろう。



 悲しい、か。俺は、あのいつもニコニコしているメリーゼを悲しませたのか。


 何処か心の中で、彼女は何をしても怒らないし悲しまないって思ってた。だけど、どうやら俺が考えている以上に、彼女達は繊細らしい。



「スキットと、ただちょっとお喋りしてただけだよ。偶然、そこで会ったからさ」


「スキットですか? どのようなお話をされたのですか……?」



 俺は考える。


 流石にスキットが言っていたことを全て打ち明ける訳にはいかない。それこそ、メリーゼを傷付けてしまう。


 また嘘を吐いてしまうことにはなるが、



「スキット自身のこととか。後は──お前のことを聞いた」


「……私の、どのようなことでしょうか?」


「普段のお前や、性格とか。そういう一般的なことだよ」



 メリーゼの手がピクリと動いた。俺の心拍数を測りたい。測って、嘘かどうかを探りたい。


 そんな気を僅かに感じる。もしもう一度測って来たら、さっきの違和感が現実味を帯びてるが──


 彼女はそれをすることなく、笑顔になった。



「もう貴方様ったらぁっ」


「え?」


「どうして私に直接聴いて下さらなかったのですかぁ!? もぅ」


「そ、それはお前がなんか、その……思わせ振りなことばっかりするから、他の人にもやってるのかなって──」



 目を逸らせつつ、ボソッと言う。


 メリーゼは「くすっ」と、吹き出すように笑った。



「他の人間様にはしておりませんわ。貴方様だけです。貴方様は私の特別なのですから」



 染めた頬に両手を付け、どうしよう言っちゃった、みたいな感じで恥じらい出すメリーゼ。



「ですが、くすす。ご命令とあらば──」



 俺がそんな命令をする筈がない。それ知った上で、俺に選択肢を与えてきた。


 これを否定すれば、まるで俺がメリーゼを独占することを望んでいるみたいになる。



 小悪魔めいたニヤリ顔。


 これはいつものメリーゼだ。



「全く、お前は」


「さぁ、貴方様。行きましょう」


「お、おい。何処に行くんだ」


「私も、貴方様とデートしたいですわ」



 どいつもこいつも、ロボットってのは人間を何だと思っているんだ。


 だが、メリーゼに振り回されるのは決して嫌じゃない。彼女の楽しそうな笑顔を見ていると、俺も楽しい。



 ──メリーゼには決して、気を許さないで下さい。



 ……。


 

 ──篠宮様を保護致します。



 こんな子に危険なんてないある筈がない。



「貴方様ぁっ。くすす。あっ、蝶ですわ。もうそんな季節なんですね。綺麗ですわ」



 こんなにも楽しそうなんだ。


 俺はメリーゼを信じたい。そう思った。


 そう思いたかった。

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