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09.決着

光と闇の戦いは、時を経るごとに激しさを増していった。

わたくしは変わらずペンダントの中。

玉座横のジュエリースタンドから、戦いの行く末を見守っている。


ユーリは右手前方で魔王の本体と。

ビルは左手前方で魔王の分身と。

その他数十人の戦士達は、後方で魔王の臣下達と交戦している。


「ぐあっ!?」


ユーリの体が吹き飛ぶ。

魔王に蹴り飛ばされたようだ。


「………っ」


持ち上げた顔は悔しげだった。

その口端からは真っ赤な血が流れ出ている。


「くそっ」


袖で乱雑に口元を拭った。

上下白の軍服は所々破れて血が滲んでいる。

対する魔王はほぼ無傷の状態。

黒い軍服は僅かも乱れていない。


「さて勇者よ。次はどう出る?」


ユーリは無言のまま、一方で闘志を滾らせたまま火球を放った。

球を中心に弓形(ゆみなり)に飛び散る火の粉。

その姿はまるで翼を広げた火の鳥のようだった。

とても美しい魔法ね。


「まぁ、二十の若造にしてはやる方だ――っ!」


ユーリの火球に続いて、別の――太陽を思わせるような巨大な火球が迫って来る。


「なるほど。これが本命か。くっくっくっ……いいぞ! 来い!!」


魔王はあろうことか二つの火球を正面から受け止めに掛かった。

赤い火花と紫色のオーラが吹き荒れる。


目を凝らすと、魔王が火球を打ち上げているのが見えた。

耳を(つんざ)くような爆音を響かせながら、天井を、幾重にも積み重なった雲を突き破っていく。

そうして火球は遥か上空へ。

城内に光が差し込んでくる。


「くっくっく……」


陽の光が魔王の体を照らし出す。

黒い軍服はシャツごと破れて、肩に辛うじてかかっているような状態に。

真っ白な両手は黒焦げになっていた。


「……化けモンが」


悪態をついたのはレイだった。

彼の周囲には、魔術師特有の青い光の残滓が漂っている。

相変わらずの全身黒ずくめ。

革製の黒のジャケット、パンツ、ブーツスタイルを貫いている。


「その言葉、そっくりそのまま返してやる。実に見事であった。師を……大賢者エルヴェ・ロベールを超えたな」

「……そうかい」


レイの体が光に包まれる。

緑色の光。あれは治癒術ね。

術者を見つけて――口元を覆う。


その女性は淡い茶色の髪を横結びにしていた。

着ているのは深緑色の甲冑。

機動力を重視してか兜は被らず、関節や脇腹は布地の防具で固めている。


彼女の得物は双剣であるようだ。

魔物からの攻撃を軽やかに躱して返り討ちに。

戦闘の合間合間に、仲間達の治療を行っている。


『エレノア様!』


実の姉のように慕ってくれた、そんなミラの姿が頭を過ぎる。


「ぐああぁあああああ!!!????」


断末魔と共に、魔王の分身が塵に変わっていく。

勝者は赤い軍服の男性――ビル。

しかしながら、彼は少しも喜ばない。

ただ……怒っている。いえ、憎んでいる。

あれほど温かかった萌黄色の瞳が、今は酷く冷たい。


「ユーリ」


そんな彼がユーリの名を呼んだ。

対するユーリは僅かも臆することなく返事をする。


「信じていいんだよね?」

「当然です」


即答だった。

おまけに自信満々な笑みも添えて。


ビルは思わずといった具合に吹き出すと、さり気なく顔を俯けた。

ユーリに対する親愛と、ほんの少しの寂しさを感じる。


「じゃあ、よろしくね」

()()も」


ビルはひらひらと手を振ると、すっと切り替えて魔王に斬り掛かった。

剣と剣とが、闘志と闘志とが激しくぶつかり合う。

剣が交わり合うたびに空気が震えて、石造りの壁や床が崩れていった。


「良い使い道を見つけたようだな」

「……どこまで視えてるの?」

「さあな?」


力の差は歴然。

ビルは苛烈でありながら、精緻で隙のない剣技で魔王を追い詰めていく。


『っ! あっ、あれは……!!』


眩い光を感じた。鋭利で、力強い光。

これは……勇者の光。ユーリだ。

剣を横に構えた状態で、足元に虹色の魔法陣を展開させている。


「ぐおおおぉおぉおお!!!!」

「ぎゃあぁああああ!!!」


光に照らされた魔物達が次々と塵に変わっていく。

光と闇は表裏一体。

光の民である人族の脅威は『闇魔法』であり、闇の民である魔族の脅威は『光魔法』である。

古来より言い伝えられてきた通説が今、真実に変わる。


戦いを終えた戦士達がユーリに目を向けていく。

光の勝利を。

魔王討伐の夢を託すように。


「ぐああぁああ!!!」


魔王の膝が折れた。

真っ白な上体から紫色の血が噴き出ている。

ビルが決めた。

おそらく魔王は……もう動けない。


「これで終わりだッ!!!」


ユーリが魔王に斬りかかる。

ビルはそんなユーリの姿を認めて、誇らしげな表情を浮かべた。

直後、彼の姿が消える。

後には魔王だけが残された。


魔王は――笑っていた。

彼は最後に何を思ったのだろう。


「ぐああぁああぁああああぁああッ!!?」


光の剣が魔王の体を斬り裂いた。

先ほどのビルの攻撃と合わさって、バツを刻むような恰好になる。


「見事、だ……」


魔王の体が、他の魔物同様に紫色の塵に変わっていく。


「真の魔王が……攻めてくる」

「っ!? 何だって!?」

「いつになるかは分からぬが、……まぁ……精々励むことだな」


戸惑うユーリ達を嘲笑い、そして消えていった。

彼は最期の最期まで魔王だった。

あの豪奢な仮面の下には、一体どんな素顔を隠していたのだろう。


『…………』


彼が犯した罪は重い。

けれど、彼からすればやむを得なかったのかもしれない。

だから、神に願い乞う。

どうか彼に罰を。贖罪の機会をお与えくださいと。


ペンダントに亀裂が走る。

靄が晴れて視界がクリアになってきた。

ああ、やっと……やっと外に……っ。


「エレノア!!!」


ユーリが駆け寄ってくる。

彼の手がペンダントに触れた。

それと同時に、浮遊感を覚えて――わたくしの体が大きく傾く。




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