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08.開幕

「勇者一行が、城に入ったようだな」


ガラスの檻の中から魔王に目を向ける。

この檻はペンダントのような形状をしているらしく、今は玉座横のミニテーブルに置かれた、十字のジュエリースタンドにかけられている。


「くっくっくっ……」


ご機嫌に笑う魔王の顔を紫色の炎が照らしている。

十年前から何一つ変わっていない。

魔王は変わらず若い青年の姿のままだ。


たぶんそれは……わたくしも同じ。

ユーリから貰ったハルジオンの花は、十年経った今も枯れずに残っている。

この空間は、鮮度を保つ特性を持っているのだろう。


心は三十歳、体は二十歳。

見た目だけでいえば、ミラよりも七つ年下になってしまった。

奇妙ね。何だか化け物になってしまったみたい。

ショックだけど、残された時間を思えば些末な問題ね。


『……お前の目的は何なの?』


朧気な意識の中で問いかける。

この十年ずっと問い続けてきた。

でも、その度にはぐらかされて。

きっと今日も……と、半ば諦めながら投げかけた。

だけど――。


「真の魔王を討ち取ってもらいたい」


今日は違った。

魔王のその表情は神妙で。

本心だと、直感的にそう思えた。


『真の魔王? それは……どこにいるの?』

「魔界だ。お前達では行けぬ。故に、エサを撒く」


それってまさか……。


「半魔なれど、魔界で四番目の実力者が破れるのだ。無視は出来んだろう」

『仇なの? 貴方はその真の魔王に何か恨みが……』


そうとしか思えなかった。

彼は明らかに自分の身を犠牲にしようとしている。

そうまでして成し遂げたい何かがあるとすれば、それは復讐以外には考えられなくて。


「さぁ? どうかな」


魔王は小さく笑った。

自嘲気味に。哀愁を湛えて。


魔王は憎むべき存在だ。

何の罪もない護衛隊の皆を、ユーリの村の人々を殺めたのだから。


なのに……どうにも(おもんぱか)ってしまう。

彼は選べなかった。

闇に堕ちざるを得なかったのではないかと。


「来たな」


魔王がそう呟くのと同時に、石の扉に亀裂が走った。

崩れ行く扉。その先には、大斧を持った重騎士の姿がある。


瓦礫が床に落ちる――前に、一人……誰かが先頭に立った。

紅髪の青年だ。サーベルを構えている。


彼は白い軍服を着ていた。

神聖でありながら、煌びやかで。

平和を願うすべての人々の思いが込められているようだった。


その重責は想像に難くない。

けれど、彼は呑み込まれることなく、見事なまでに着こなしていた。

その眩いばかりの精神力で以て。


『……ユーリ……っ』


涙で前が見えない。

わたくしは片手で涙を拭いながら、ハルジオンを一層強く抱いた。


「勇者ユーリ。よくぞ参った。褒めて遣わそう」

「エレノアを返せ」

「……無粋な奴だな。まぁ良い」


魔王が指を鳴らすと、暗闇から無数の音が迫ってきた。

城を揺らす重い音、床を這う不気味な音、そして――空気を切り裂く鋭利な音。


ユーリを始めとした戦士達に緊張が走る。

魔王はそんな彼らの反応を一頻り愛でると、勢いよく両手を広げた。


「さぁ、始めようか。闇と光の輪舞(ロンド)を」




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