表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/34

04.恋に落ちて

「ユーリ! 頑張れ~!」

「は? ……っ!!!」


ユーリの顔がこちらに向いた。

目が合うなり白い頬がぶわっと紅潮して、瞳もキラキラと輝き出す。


「いでっ!?」


直後、彼の表情がぐにゃりと歪んだ。

まぁ、何ってこと!? 彼の頭に剣が刺さっている。


「きゃあッ!? ユーリ!!?」


駆け寄って患部を確認する。

……良かった。たんこぶにはなっているけど、出血はしていない。


「ケッ……このエロガキが」

「はぁ!? 何言っ――~~っ、てぇ……」


お相手の騎士……ドワーフのような立派な髭を蓄えた男性が、呆れ顔を浮かべている。

四十歳ぐらいかしら?

熟練騎士を相手にするなんて、それだけ期待されているのね。


「治療をします。じっとしていてください」

「わっ!? ちょっ……!!!」


半ば強引にユーリを寝かせる。

白いカソックの上にやわらかな紅髪が広がった。


「やっ! やめろよ! みんな見て――」

「しぃ~、いい子だから」


鳴り響く口笛や、ひやかしに眉を下げつつ緑の魔法陣――治癒術を展開させていく。

ユーリは気恥ずかしさからか、ぎゅっと目を閉じてしまった。


大人しくしてくれるのはありがたいけど、何だか寂しくて。

少しだけ、あとほんの少しだけでいいから彼と話したいと思った。


「貴方、とっても素敵ね」


彼の耳元でそっと囁く。すると――。


「っ!!??」


案の定、ユーリの目が見開いた。

栗色の瞳とバチリと目が合った――かと思えば、直ぐに逸らす。

素直ね。ふふっ、可愛い。


「なっ、……何なんだよ、ったく……」

「ごめんなさいね。でも、貴方を素敵だと思ったのは本当よ」

「……マジ?」

「貴方はそのガッツで、団長様の心を動かされたそうですね」

「ああ……入団の話……」


ユーリは少し残念そうに呟いた。

『思わせぶりなことを言ってごめんなさい』、『悪い大人ね』と内心で詫びながら核心に入る。


「わたくしは、貴方のその強い意思に感銘を受けました」

「かんめい?」

「すごいな、かっこいいなって思った、ということよ」

「……ふーん?」


ユーリはどこか居心地の悪そうな顔をしている。

褒められ慣れてない。率直にそう思った。

特にこの件に関しては、非難されることの方が多いのかもしれない。


「貴方はきっとこれから先も、その剣と勇気で道を切り開いていくのでしょうね。ご活躍を耳にする日を、楽しみにしていますよ」


緑の魔法陣をふっと消した。

治療完了の合図だ。

ユーリを座らせて、すっと立ち上がる。


「……アンタ、名前は?」

「あら! これは大変失礼を致しました」


カーテシーをして、地面に座るユーリと目を合わせる。


「エレノア・カーライル。ご覧の通り、『聖女』の職を奉じております」

「エレ……ノア……?」

「ええ。以後お見知りおきを」

「……ん……」

「それではね。どうぞお元気で」


ユーリは何か言いたげだったけど、それには気付かないフリをしてその場を後にした。

離れ難くなってしまう。そんな予感がしたから。


残念だけど、ユーリとはもう二度と会うことはないだろうと思っていた。

けれど――彼は再びわたくしの前に現れた。

一輪の野花と、真っ直ぐな愛の言葉を携えて。


本音を言えば嬉しかった。

自分と重ねてしまったから?

彼となら夢を諦めずに済むと思えたから?

それとも、単に彼が……途方もないぐらい真っ直ぐだったから?


魅かれた理由は分からなかった。

ただ、取るべき行動には見当がついた。


これは叶わぬ恋。

いずれは忘れ去られる。

だけど、今はまだ大切にしないといけない。

だから、条件を付けるの。とっても意地悪な条件を。


「ただし、十年後……貴方が立派な戦士になっていたらね」

「はぁッ!? なっ、何だよそれ……。十年って言ったらオレは二十歳で、エレノアは三十のおば――」

「ユーリ?」

「うぐっ!? ……だぁ~~!!! もう!! 分かったよ!! でも絶対、ぜ~ったい約束守れよ!!!」

「心得ました」


これでいい。こうするしかないのよ。

駄々を捏ねるもう一人の自分を宥めていく。

だけど、どうにも上手くいかない。おかしいわね。

()()()()()()()()になったはずなのに。


「おい! どうした!? 何があった!!?」


不意に周囲がざわめき出す。

村の方々の視線を追うと、十メートルほど先に馬に騎乗した青年の姿が。

その腕からは(おびただ)しい量の血が流れ出ていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ