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03.似たもの同士

「のどかですね。空気も澄んでいて、心地がいい」


王都を出て半月。

わたくしはレイとビル、それと十名ほどの騎士を連れて、とある村に足を運んでいた。


村の名はポップバーグ。

王都から馬車で一週間ほどのところにある小さな村だ。

村のあちこちには見上げるほど大きなポプラの木が並び、その葉は秋の訪れを知らせるように黄色く色付き始めていた。


「やはりこの村の象徴(シンボル)は、ポプラなのでしょうか?」


案内役を務めるペンバートン伯の家令に問いかける。

老齢の彼は、笑いじわを一層深くして頷き返した。


「ええ。ポプラの花言葉が『勇気』『度胸』といった、大変力強いものであったことから、選ばれたようで――」

「ふっふっふ! アタシは分かっちゃってますよ! ぶっちゃけ勇者祈願でしょ? 『救国の勇者が生まれますように』って」


話に割って入ってきたのは小柄な少女だった。

淡い茶色の髪をポニーテールに。

白のチューブトップに、茶のショートパンツ、黒のロングブーツ……と、見ているこちらが少しハラハラしてしまうような露出度の高い格好をしている。


彼女の名はミラ。十七歳。

つい先日までギルドで活動していた所謂『冒険者』だ。

撤退時にお仲間から見捨てられ、集落近くで倒れていたところをわたくし達が保護した。


当初は折を見て別れるつもりだったけど、訳あってこうしてご一緒することになった。

彼女は学び直しを希望しているのだ。


十二歳の時に受けた鑑定で、『治癒術師』の適性アリとの判定を受けたものの勉強嫌いが災いして剣の道へ。


以来ずっと、仲間が傷付くたびに『あの時、ちゃんと勉強をしていたら……』と後悔の念を募らせていたのだという。


『今度こそちゃんと勉強して、こんなアタシのことを助けてくれた……エレノア様や、みんなのことを治したい。だから、……っ、だから、お願いします。アタシに治癒術を教えてください!』


挫折からの再起。

応援せずにはいられず、彼女を王都の学院に連れていくことにした。


それまではわたくしの方で指導を行う。

期間にして一か月ほど。

限られた時間ではあるけれど、わたくしの持てる知識や経験を可能な限り提供出来たらと思っている。


「なるほど。勇者祈願でございましたか。それは盲点でございました。初代の当主様も、なかなか隅に置けないお方であったようですね」


家令はミラの茶々を邪険にするどころか笑いに昇華してくれた。

流れる空気の柔らかさに胸をほぐされながら、牛の鳴き声がこだまする田舎道を進んでいく。


「皆様、ご機嫌よう」

「「「ごっ、ごきげんよう!」」」


村の皆様も快く迎えてくれる。

流石にここまでは、わたくしの悪評は届いていないみたいね。


わたくしには今、『性的放縦な聖女』というレッテルが貼られている。

これも偏に、クリストフ様とシャロン様の交際ひいては結婚の正当性を高めるため。

自ら進んで背負った罰の一つだ。


けれど、いくら醜聞塗れになっても、子を成す義務が抹消されることはない。

だから、禊の旅に出された。

この旅が終われば、結婚そして出産へと本格的に動き出す段取りになっている。


本心では嫌。

家庭に入らず、このまま『癒し手』として邁進していきたい。

一人でも多く、患者様をお救いしたいと思っている。


だけど、いくら訴えたところで無駄。

男性ならば崇高とされる志も、女性であるわたくしが口にすれば我儘になる。

悲しいけれどこれが現実。受け入れなければね。


「着きました。あちらが自警団の稽古場でございます」


金属音と共に威勢のいい掛け声が聞こえてくる。

平らな芝地で騎士達が剣をぶつけ合っていた。

女性の姿はなく、全員男性。 ざっと三十名ほどかしら。


「おーい、ボリス」


家令の呼びかけに応えたのは、一際屈強な若い男性だった。

日焼けした肌に、黒いモヒカン頭、背中には大剣を背負っている。


「団長のボリスです。あ~……その、何だ? 貴族的な挨拶はご容赦いただけますか? 柄じゃねぇつーか、何っつーか……」


言葉尻に向かうにつれて、どんどん声が小さくなっていった。

その頬は、うっすらと赤く色づいていて。


「へぇ~? 見た目によらずシャイなんですね?」

「あ? 大人ナメんなよ、この小娘が」


団長様が吠える。

ミラはそれを擽ったそうに受けた。

お陰で場が一層和む。

ビルをはじめとした騎士達からも笑みが零れた。


「やぁ!! このっ!!」


不意に聞こえてくる。

鈴音のような幼い声が。

まさか……と思いながらも、声の主を探す。

いた。子供だ。年はたぶん十歳前後。

屈強な男性達に混じって剣を振るその姿は、些か異様とも取れた。


「あの少年は、団長様のご子息なのでしょうか?」

「ん? あぁ、ユーリですか。アイツは村の農夫の子供ですよ」


言われてみれば確かに。

紅色の髪に、色白な肌、そして栗色の大きな瞳……と、団長様にはまるで似ていない。


「アイツの両親の意向もあって、四年近くずーっと無視してたんですがね。ある時、テメェより二回り以上デカいゴロツキを押しやがったんですよ。……ははっ、九つのガキがですよ? これには俺も根負けして、『見習い』って形で受け入れることにしたんです」

「……ご両親はお認めに?」

「いいえ。お陰でめっちゃ睨まれてますよ」


 「すごいガッツ!!」と、盛り上がるミラと団長様を背に、わたくしは一人歩き出していた。

未だに両親から認められていない。

そのひと言が胸に引っかかって。


「貴方の気持ち……分かる気がするわ」


わたくしも未だお父様から認められていない。

結婚して一人でも多く子供を産みなさい、そう仰られるばかりで、わたくしの夢――生涯癒し手でありたいという夢は我儘としか捉えてくださらない。


否定される度に抱くあの悔しさと寂しさ……。

貴方もきっと同じ思いをしているのよね。

そう思うと、どうにもじっとしていられなくて。

衝動に任せて大きく口を開いた。




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