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18.種明かし

メイドや執事達の礼を合図に馬車が動き出す。


馬車の内装は深紅と金で統一されている。

板目は丁寧に磨かれ、所々に飾り(びょう)と繊細な彫刻が。

やわらかなシートと毛先の長い敷物のお陰で、揺れは最小限に抑えられている。


向かう先は王城。目的は陛下との謁見だ。

わたくしの帰還と、婚姻のご報告を予定している。


「晴れてきた」

「ええ。良かった」


陽の光がわたくしとユーリを照らしていく。

今日のわたくしもドレス姿だ。

浅緑色のローブに、クリーム色のペティコートを合わせている。

ミルキーブロンドの髪は編み込んでアップスタイルに。

後れ毛が軽やかなウェーブを描いている。


ユーリは馴染みの白い軍服姿だ。

詰襟タイプで、ブーツに至るまで白と金で統一されている。

掛かる重責を思えば忌避しても致し方のないこの制服を、ユーリはずっと着続けている。


一緒に過ごすようになって間もなく半月になるけれど、私服でいるところをただの一度も見たことがない。

それだけ、勇者である自分に誇りを持っているということなのかしら?

それとも一種の戒め?

公私ともに気を抜かないように、との。


「エラ、楽にしてください」


ユーリは手元に魔法陣を展開すると、わたくしの頭の上に向かってふわりと放った。

霧がかかった虹色の光が、わたくしの体を包み込んでいく。


「セオ兄様に師事して、習得なさったそうですね」

「ああ……」


ユーリは気まずそうに、それでいてどこか照れ臭そうに目を伏せた。

甘くやわらかなシフォンケーキのような予感が膨らんでいく。


「貴方と同じ景色を見てみたくて」

「それで習得を……?」

「……健気でしょ?」


『職を辞する必要はありません。俺は貴方の生き様も含めて愛する覚悟でいます。だから、遠慮はいりません』


あのお言葉はその上で……。

勇者の修行だけでも大変だったでしょうに。

わたくしは本当に果報者ね。


「セオドア様は勿論ですが、師匠にもとても感謝しています。師匠が魔力密度をコントロールする術式を開発してくれなかったら、俺はスタートラインにすら立つことが出来なかったので」

「っ! まさかそれって……」

「はい。『勇者の光』は魔力密度を落とすと、『聖光』になるんです」


あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。

『勇者の光』と『聖光』は、共に光属性ではあるものの性質がまるで異なることから、まったくの別物だと思っていた。

まさかその違いが密度だけだったなんて。


一方で、非常にわくわくもした。

期待を胸に嬉々として訊ねてみる。


「では、聖者は勇者に、勇者は聖者にもなり得るということね?」

「不可能ではないですが、あまり現実的ではないですね」

「あら? どうして?」

「端的に言えば燃費が悪いんです。密度を調整するのにも、別途魔力を要するので」

「それでも、勇者になりたいという夢は叶えられるわ」

「……嫌にこだわりますね?」

「貴方の子なら、勇者を志すこともあるんじゃないかと思って」


生まれてくる子が聖光を宿していたとしたら?

父ユーリに憧れて勇者になる夢を抱いたとしたら?

レイが編み出したその手法は、その子の希望になるかもしれない。


「させませんよ。そんなこと」

「あらどうして?」

「戦士に……したくありません」

「まぁ? 十年前の貴方を思うと、つい耳を疑ってしまうわね」

「あの時の両親の気持ちを、同じ立場になって漸く理解することが出来ました」


そう語るユーリの顔は、既に父親然としていた。

ふふっ、一体どちらの思いが勝つのかしらね。


もしかしたら、その子は勇者を夢見ないかも。

そもそも聖光を宿していないかもしれない。

考えるだけ無駄なのかもしれないけど、それでもつい思いを馳せてしまう。


わたくしがいなくなった後の貴方とその子の人生を。

貴方とまだ見ぬその子のことを、愛しているから。




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