表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/34

13.企て

早いもので、目覚めてから一週間の時が過ぎようとしていた。

季節は秋。窓の外を見ると、紅く色付いた葉が優雅に舞っているのが見えた。

その先に広がる空も高く澄んでいる。


「絶好の出発日和ね」

「ええ。本当に」


ハウスメイドが笑顔で応えてくれる。

わたくしの身支度をせっせと整えながら。


今日から十日ほどかけて王都に戻る。

この弱った体でこなすのには、やや不安な旅路だ。


けど、道中ではずっとユーリが隣にいてくれることになっているから、出来る限り楽しいものにしたいと思っている。

こうしてオシャレに精を出しているのもそのためだ。


「エレノア様……本当にお美しいです」

「ふふっ、ありがとう」


身に着けているのは、胸元が大きく開いたブルーグレーのドレス。

裾はパニエによってふんわりと。

ウエストはコルセットによって絞られて、『まるで牝牛のよう』と陰口を叩かれ続けてきた胸のラインを露わにしている。


ユーリは嫌がるかしら?

でも、もしかしたら喜んでくれるかもしれないから……、と淡い期待を胸に自分を奮い立たせていく。


「失礼致します」


メイドが仕上げに取り掛かる。

首にはリボンのチョーカーを。

纏め上げたミルキーブロンドの髪の上には、小さなつばの帽子を乗せていく。


いずれのアクセサリーもドレスと同系色でまとめられていて、華美さと上品さの塩梅が絶妙な仕上がりとなっていた。


「素敵ね」


胸が弾む。オシャレにはそれほど興味がない、出来なくてもいいと思っていたけど、たぶんそれは強がりだったのね。

わたくしもやっぱり女の子なのだわ。


「何たる栄誉。身に余る光栄です」


振り返ると、一人の貴婦人の姿があった。

この城の城主フォーサイス辺境伯の妻マチルダ様だ。現在四十八歳。

髪は紺青色で、瞳の色は黒。

吊り上がった目に、高く通った鼻筋と全体的にシャープで隙がない。

同性でも思わず見惚れてしまうような精悍なお顔立ちの女性だ。


そんな彼女のお腹は大きく膨れている。

そう。彼女は妊娠しているのだ。

所謂高齢出産。

だけどそれは、珍しいことじゃない。

血筋由来の才を持つ王族や高位貴族においては、ごく一般的なことだ。


血筋由来の才は、必ずしも子に受け継がれるものではない。

けれど決して、その席を空けてはならない。

次代に最低一人は、才能を開花させた者を遺さなければならないのだ。


それが血筋由来の才を持つ家系の義務であり、威信を保つ絶対条件。

だから、一人でも多く子供を産むことを求められる。

女性は家庭に入らざるを得ないのだ。


「恐れ入ります。妊婦様にご足労いただくなんて」

「ふふっ、待ちきれず馳せ参じたのです。どうぞお気になさらないでください」

「うわぁ! めっちゃ綺麗です~♡♡♡」


夫人に続いてミラも入ってきた。

わたくしの周囲をくるくると回って、余すことなく眺めていく。


今日の彼女もまた深緑色の軍服姿だ。

薄茶色の髪は、以前のようにポニーテールにしている。

昨日まではずっと横結びだった。

気分によって変えているのかしら?


「お義母サマ! アタシもお義母サマのお古が欲しいです!」

「残念だけど、わたくしのコレクションの中には貴方に合うものはないと思うわ」

「きぃ~! あー、はいはい! どーせアタシには品も、背も、ついでに胸もないですよぉ~だぁ!」

「無いものではなく、あるものに目をお向けなさい。貴方には貴方の伸ばすべき長所があるのですから」

「ぶぅ……」

「エレノア様をお送りしたら、直ぐに戻っていらっしゃい」

()()()()()ですか?」

「舞踏会の準備よ。貴方に合うドレスを選んであげます」

「っ!!! お義母サマ……!!!」


ミラが夫人の腕に抱き付く。

かと思えば、そのままぴょんぴょんと跳ね出した。

周囲のメイド達が止めに入るけれど、それでもミラは止まらない。

当の夫人も困り顔だけど、その実満更でもなさそうだった。


そう。ミラは驚くべきことに、三大勇者一族フォーサイスに嫁いでいた。

言わずもがな彼女は平民であり、その才も継承不能な一代限りのものだ。

けれど、彼女は選ばれた。


これはわたくしの勝手な予想だけど、彼女のこの底抜けな明るさと、前向きさが買われたのではないかと思っている。


お相手のルイス様はフォーサイス家の四男。

かなり内向的で、仕事でも社交の場でも苦労が絶えなかった。

そんなお方だからこそ、明るく前向きな女性に魅かれた。

夫妻の需要ともマッチしたのではないかと。


「整いましてございます」

「ありがとう。それでは、参りましょうか」


温度差の激しい嫁姑の会話を背に受けつつ廊下に出る。

大階段の下にはユーリとビルの姿があった。共に軍服姿だ。


あら? 何だかとっても楽しそう。

内容までは聞き取れないけれど、ユーリがビルを笑わせているらしいことは分かった。

師弟というよりは、年の離れた兄弟のように見える。

ふふっ、何とも微笑ましい限りね。


「なっ……!」


目が合うなり、ユーリの呼吸が一拍止まった。

彼の表情は驚きから照れへ。

色白な頬が見るみるうちに赤くなっていく。

遠目からでも、ゴクリと生唾を呑んでいるのが見て取れた。


あまりの嬉しさに頬が緩む。

短所が長所に変わった瞬間だ。

これからは時と場所を弁えつつ、しっかりと活かしていくことにしましょう。


「ユーリのやつ、今ゼッタイ心臓バックバクですよ♡」

「まったく……茶化すものではありませんよ」

「おっ、来た来た♪」


ビルに促されて、ユーリがいそいそと駆け出す。

顔を俯かせて、肩と手にはぐっと力を込めている。

かなり緊張しているみたい。ふふっ、可愛い。


「お待たせしました」


気付けばユーリが横に。足を前に出して身を低くしている。

王国における男性の礼法だ。

わたくしは微笑みを湛えたままカーテシーで応えて、ゆっくりと右手を差し出す。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ